第44話 大地の始まり
時折、アオが水面を飛び跳ねながら、海中を進んでいる。
広大な海にとってはアオさえも小さな存在なのだと分かる。
それでも、アオの姿は雄大で見ているだけで何だかワクワクさせてくれる。
私たちは、アオの速度に合わせるように空を移動していた。
「けっこう早いよ。アオもやるね」
マリーがアオを誉めている。
アオが褒められると、私まで嬉しい。
思わず鼻歌がこぼれ出してしまう。
「いや、やるどころじゃないんだが。あいつ、まだ産まれて少しだろ? お前たちの感覚は色々間違っているぞ?」
リオンが呆れている。
「それに、噂で聞いた目覚めずの星。俺が知っているのは、雲に覆われ光は届かず、風は荒れ狂い、酸の海は全てを溶かす星だって話はどうなったんだ?」
「さぁ? なんでだろうね」
とぼけるマリーに調子を合わせておく。
確かにリオンの言う通り、ユタやマリーも話が違うと最初は驚いていたのを思い出す。
雲と風は、私が魔力で治めてしまった。
リオンのことだから、きっと私が説明しても信じてくれなさそうだ。
マリーが話せば、一瞬で信じるだろうとは思うが。
「あれは、雨をたくさん降らせる雲だよ」
マリーが白く大きな雲を指差す。
言ったそばから、雨が降ってきた。
雨は平気だが、荷物が濡れるのは困る。
「ティア、あの水の浮島は雨も凌げたよね? 作れる?」
「もちろんなのです!」
マリーも同じ心配をしたようだ。
そうか、水の浮島かぁ。いい呼び名だ。
雨を防ぐ結界を張って、どうせならアオも乗れるくらいの大きさにしよう。
海に浮かぶ島だと、移動は遅いよなぁ。
となると、飛べる島にするしかないのです。
それに、数日は持つ強度にもしないと。
立体の魔法陣で水の魔力を操作する。
魔力の糸たちが淡く光を放ち、連なり重なり浮島を作り出していく。
「は? え? う、嘘だろ?」
リオンの驚いた声が聞こえる。
大きな島にしたかったため、完成するまでは少し時間がかかった。
拘り機能も付加しておかないと。
移動に適した涙形にして、雨を凌げる場所には、呼吸に適した空気の結界も付けてみる。
そんなこんなで、かなり大きな浮島を作ることができた。
空に浮かぶ大きな水の浮島。
「相変わらず、想像を簡単に超えてくるよね。アオも乗れる大きさにしたのね? でも、やりすぎじゃない?」
「そうかなぁ? 海に浮かぶタイプも考えたけど、移動を考えたら飛んでる方がいいと思ったのです!」
後ろで固まっているリオンは放っておいて、さっそく水の浮島へ。
「おーい! アオー!」
呼ぶと、アオも飛び跳ねながら浮島へ来た。
まだ空を飛ぶのは苦手みたいだ。
アオは地面があるという感覚を楽しんでいるようだ。まぁ、正確には水面なのかもしれないが。
でも、地面があるというのは安心する。
空を飛ぶという余計な力を使わないのは、精神的にも楽かもしれない。
驚いているリオンは、マリーに相手してもらおう。
皆を乗せて水の浮島は行く。
食事を済ませている間にも、浮島は進み続けていた。
「で、どの辺りに大地を創るか決めたの?」
マリーが、アオの身体を撫でながら聞いてくる。
大地の創造にも、いくつか方法がある。
まずは、大地ができるのをただ待つことだ。
これは、もっとも自然なことで、段階的に生きものが増えていくので調和を取りやすいらしい。
問題は、とても時間がかかるということだけだ。
私は、早く生命であふれた星にしたい。
美味しい食事を、もっと堪能したいのだ。この身体では小さすぎる。
星の進化には、星の豊かさも大切だという。
せめてマリーぐらいの大きさに早く進化したい。
そのためには、時間がかかるのは避けたいのだ。
さて、他の方法だが、よく使われるのは隕石をぶつけて強引に地殻変動を起こす方法だ。
これは、思い通りの大地にならない可能性もあるが、隕石との衝突でレアな力を持つ植物が育ちやすい。
少しの間、環境が荒れてしまうが自然に任せるよりはずっと早い。
マリーは、この方法を行うと思っているはずだ。
「私もやったけど、ちょっとだけ痛いんだよ。すぐ治るけどね」
「隕石落としをやるのかよ。物好きなやつだなぁ」
マリーとリオンが談笑している。
どうやらリオンは立ち直ったみたいだ。適応が早くて良かったのです。
でも、隕石落としはしないことに決めている。
「ふっふっふ、もっといい方法を考えたのです!」
「「は?」」
驚いてくれた二人。
「どんな方法にするのよ? 一応、先に教えておいてよ」
マリーが怖い顔で聞いてきた。
いきなりやって見せて驚かせるつもりだったので、ちょっとだけ抵抗してみた。
マリーに逆らうことはできなかった。
「ぐっ、魔力で大地を創るのです」
「何言ってるのよ。力で生み出した大地はそのうち消えてしまうんだよ」
「やり方を工夫すれば、できるはずなのです」
私の反応を見て、少し考え込むマリー。
「ティアの好きなようにやっていいよ」
さすがマリー。ゴネればやらせてくれると思っていたのです。
「お、おい。なんかの規律に引っかかったりしなよな?」
「それは、今更なんだよね。リオンもティアのことをもっと知れる機会にもなるし、いいんじゃない?」
マリーの許可も降りたことだし、後は場所の選定だ。
「場所は結構大事だよ。教えたの覚えてる? 植物の育成にも関係してくるからね」
「できれば気候が安定していて、暖かいところがいいのです」
「それがいいね。……海の温度を目安にするといいかもだね」
すると、話を聞いていたアオが目を輝かせてアピールしてきた。
『いいところ しってる!』
今のこの星のことはアオが一番知っているはずだ。
これはアオを信じるのがベストである。
そうして、アオの指示に従い水の浮島を進めることにした。
その場所は、それほど遠い場所ではなかった。
もともと暖かな場所を選んで進んでいたことも原因しているだろう。
日が暮れようとしている。
『ここが いつも やさしい うみ』
アオの頭を撫でて、海を見る。
確かにこの辺りは暖かく、風も波も穏やかだ。
「何でだろ? 海が綺麗だよ?」
マリーも訝しめに海を見ている。
確かに言われてみれば、この辺りの海の水は透き通っていて綺麗だ。
空気も澄んでいる気さえしてきた。
『わたし がんばった!』
アオがもっと撫でてほしいと頭を突き出してくる。
ひと通り撫で終わり、アオの頭に乗り海面へ。
酸の海は酸性度がかなり下がっているような気もする。
まだ何も対策をしていないのに、おかしな話だ。
「アオがこの海を綺麗にしたのです?」
『うみだけちがう そらもきれいにした』
どうやらアオが何かしてくれたようだ。
これはめちゃくちゃ褒めておかなければ!
『マーマのねがい わたしのねがい!』
きっと前に来た時の私たちの話を覚えていてくれたのだろう。
この数ヶ月、アオが一人で頑張ってきたのを想像して、目頭が熱くなる。
「アオ! いい子なのです! 私の大切な子!」
アオに抱きついて感謝の気持ちを伝える。
「なんか夢みたいな話が続くんだが、俺、変じゃないよな?」
「リオンはいつも変だよ?」
リオンの肩をポンと叩くマリー。
◇
さぁ、大地を創るのてす。
翼を広げ空に浮かぶ私を、浮島から見守るマリーとリオンとアオ。
私は手を振ったあと、魔力に集中を始める。
大地を創るには、魔力で大地を生み出すのではなく、海底の大地を地上に引っ張って持ってきてしまえばいい。
隕石落としだって、衝突の強大な力で海底の形を変えるってことでしょ?
魔力を使えば、もっと優しく大地を創れるはずなのです!
いつも以上に複雑な立体の魔法陣が完成する。
魔法陣の完成とともに、辺りに肌がピリピリするほどの魔力が集まり始めた。
我ながら、もの凄い力が満ちていくのを感じる。
「大地よ! そこから出てくるのです!」
私の言葉とともに、地響きが鳴り渡る。
海たちが騒ぎ始めている。
海底から大地が迫り出してきた。
大気が揺れ、雷が落ち始める。
海面から姿を現す大地。
もの凄い勢いで大地が広がっていく。
疲労度を感じる意識が、警鐘を鳴らしてきた。
星の力が、かなり減っているようだ。
「ここで止めるわけにはいかないのです!」
マリーの声が聞こえる。私を止めようとしているみたいだ。
あと少しだけ、あと少しだけなのです!
「どぉおりゃぁぁあああああ!」
意識が途切れそうななか、マリーが私を抱きしめてきた。
「ティア! 戻ってきて! ティア!」
マリーの顔がすぐ目の前に。
マリーの手に掴まれているようだ。
「ティア! やりすぎだよ!」
いつの間にか、アオとリオンもすぐ近くにいた。
みんな心配そうな顔をしている。
眼下に大地が見えた。
どこまでも続く大地の果ては、ここからでは見えない。
この日、この星に大地が創造されたのであった。




