第43話 アオとの再会
最近はリオンによく会うようになった。
「ティア! ありがとな!」
時々、リオンからはお礼を言われる。
リオンは私にも少しは興味を持ってくれているようだが、マリーと一緒の時間が増えたことが何より嬉しいそうだ。
確かに、リオンはユタの代わりという理由でマリーと会える機会が増えているのは事実だ。
ユタはマリーの星にいないことが増えてきている。何をしているのかは知らないが、少し寂しい。
リオンはいいやつだ。
軽い口調で冗談も言うが、私のことは深く知ろうとしてこない。きっとマリーたちに何か言われているのだろう。
また、マリーに対して言葉での愛情表現は多いが、身体に気安く触るようなことはしない。
マリーはリオンになぜか苦手意識を持っているようだが、リオンはかっこいいし優しいと思う。
そんな私は、リオンの恋を応援しようと密かに思い始めていた。
今日は私の星へ行く日だ。
前回から百日ほど経った、アオは元気にしているだろうか。
私の加護を与えたおかげで、無事であることは分かる。
でも、お腹を空かしてないか、独りで寂しい思いをしていないかが心配だ。
今日は、マリーとリオンがついて来てくれるそうだ。
「他の星に行くのは久しぶりだなぁ」
リオンが荷物をまとめ終わり、マリーの作業を見守りながら呟く。
「そういえば、リオンはずっとエイトにいるけど、自分の星は放っておいていいのです?」
「ん? あぁ、俺は楽園を目指してないからな。適当よ、適当。俺はマリーの側にいることにしたんだ」
「ふ〜ん。リオンの星にも生きものはいるのです?」
「もちろんいるぞ。まぁ、好きにやらしてるよ。自由でいいだろう?」
軽い口調のリオン。
そんな適当だという星の環境も気になる。
いつかリオンの星にも行ってみたいものだ。
「準備できたよ。そっちの準備は大丈夫?」
マリーが転移する準備を終えたようだ。
今回は泊まりも予定していて、荷物も多い。ほとんどは食べ物だが。
そんな重そうなバックパックを、リオンは軽々と背負う。
「おぉ! リオンは力持ちなのです!」
「だろ? かっこいいだろ?」
歯を見せて笑うリオンが、マリーをチラチラ見ている。
「はいはい。行くよー」
面倒くさそうに返事をするマリーもいつもの鞄を肩に通す。
私も鞄を肩からぶら下げる。
「アオ! 待ってるのです!」
腕を振り上げ、いざ転移へ。
◇
私の星。
転移の陣のある南極は、相変わらず寒かった。
降りてすぐに、アオの存在が近くにあるのが感じられる。加護の力のおかげだ。
といっても、遠く離れたマリーの星からと比べての話だ。
この星の間隔だと、数時間は飛ばないと出会えない距離だろう。
魔力の構造的にアオからはこちらの場所は分からないはずだ。
それなのに、アオがこちらに向かっているのが分かる。
アオも不思議な絆を感じるのだろうか。
アオともうすぐ会える。
そう思うと、嬉しい気持ちが湧き上がってきた。
「寒いな」
リオンはそう言うと、魔力バリアを貼り直そうと魔力を操る。その流れるような発動の流れを目で追った。
ユタには及ばないものの、美しい魔力の編み込み方だ。
「リオン! やるのです! マリーより上手いのです!」
「だろ? すごいだろう?」
思わず、リオンを誉めてしまった。
そして、すぐに気づく。
マリーの気配が重い。
顔を膨らましてるのは見なくても分かる。
リオンもそれに気づいているようだ。
「ま、まぁ、俺なんかは、身体を使う力しか取り柄がないからな! マリーのような複雑で難しい力は苦手だしな! いやぁ、頭の良いマリーと比べられても困るなぁ!」
分かりやすくマリーに気を遣っている。
そして、リオンは知っている。
こんな分かりやすい言葉だけで、マリーが機嫌を直すことも。
「そうだよね。リオンは脳筋だもんね」
すでにニコニコ顔に変わっているマリー。
やっぱり、ちょろいのです。
「じゃ、さっそくアオの所へ行くのです!」
マリーと同時に翼を生み出す。
光に包まれた翼が二人の背に生える。
「おぉ、美しい」
リオンから、ため息がもれる。
どうやら、マリーしか目に入っていないようだ。
まぁ、確かにマリーは美しいから見惚れてしまうのは分かるのです。
「やだっ! 何見てるのよ!」
「マリー、君はなんて美しいんだ。その翼がさらに君の美しさを輝かせていーー」
幸せそうに喋り続けるリオンを置いて、私たちは飛び立った。
◇
透き通るような青空に、巨大で真っ白な雲があちこちに浮かんでいる。
しばらく飛び続け、アオのいるであろう場所まで着いた。
「ティアやるじゃん。 俺たちの速度について来るなんて、なかなかのもんだぞ?」
リオンは、私の飛行速度に驚いていた。
「馬鹿だね。ティアの本気を見たら、リオンなんて腰を抜かしちゃうよ」
「へ? どういう意味? ティアの本気?」
「どう? ティア、この辺り?」
マリーは、首を傾げるリオンを無視して、私に問いかける。
どうやらこの波立つ海の中に、アオはいるようだ。
「すぐ近くにいるのです!」
海中を探りながら、海面近くまで降下する。
「何がいるんだ? ここは目覚めずの星だぞ。生きものなんているわけないぜ?」
声を出して笑うリオンなんて、もう気にしていられない。
すぐそこに、アオの存在を感じる。
「アオ!」
できる限り大きな声で呼んでみた。
海中から勢いよく影が近づいて来る。
水飛沫を上げて巨大なヘビのようなものが飛び出てきた。
『マーマ!』
ティアの髪、眼の色と同じ青い身体。胴体は大木のように太く、長い。そして、立派な皮の翼を持っていた。
ユタと同じくらいの大きさだった数ヶ月前に比べると、数倍は大きくなっている。
見た目はかなり大きく変わってしまったが、間違いない。アオだ。
「アオ!」
叫んだ私を、アオが見つけてくれた。
空中に浮かぶアオの顔が、小さな身体の私の目前に伸びる。
可愛らしい目は変わっておらず、涙ぐんでいる。
「アオ。会いたかったのです」
アオの鼻先に、大きく手を広げて抱きつく。私の小さな身体では、さらに大きくなったアオを包み込んであげることはできない。
でも、精一杯抱きしめてあげたかった。
『マーマ』
アオは、その大きな身体を震わせる。
良かった。
アオが無事で。
私の身体に顔を擦り付けてくるアオ。
それに応えようと、私もアオを撫で続けた。
アオとの再会を果たし、私の気持ちが落ち着くまでは意外とかかった。少し泣いてしまったし。
それでも、今回はやることがあるし、マリーたちを待たせてばかりではいけない。
そんなことを思いながら、気持ちに区切りをつけた。
アオの頭には角が伸び始めていた。頭に乗る時は、この角に掴まれそうで役に立ちそうだ。
さっそくアオの頭に乗り、角に掴まる。
アオの上目遣いの片目と目が合う。
私を乗せて上機嫌のようだ。
相変わらず言葉は上手く話せないようだが、声と表情で言いたいことは分かる。
「マリー? えっと、もしかしてだけど、この目覚めずの星は、テ、ティアじゃないだろ?」
すぐ側の空で、ぎこちない表情でリオンがマリーに話しかけている。
反応を見るからに、本当に何も知らずにここまでついて来たようだ。
余計な詮索はしないといっても、ほどがあると思うのですが。
「リオンはティアを何だと思ってたのよ?」
「いや、詮索するなって言うから、特に何も考えてなかったぞ? 訳ありな星かな、とは思ってたけどさぁ」
焦っているリオンを見て、マリーは笑う。
私も、そんなリオンがおかしくて笑ってしまった。
「ちぇっ、なんだよ。でも、この星がティアだと言うのなら、やばくないか? すげぇ規律違反を犯してることになるよな?」
「だから言ったよね? 余計な詮索をしないでねって。他の星に知られたら、大変だよね?」
「あ、あははは」
乾いた笑いを返すリオン。
リオンのことは、マリーに任せておけば良いだろう。
アオを見つけることはできた。
次は、大地の創造だ。
マリーの星のような、生命のあふれる星を目指すのです。
教わったことを、上手く活かせればいいのですが。
アオの頭を撫でる。
そんなアオは嬉しそうに鳴くのであった。




