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第41話 小さな生きもの




 小気味よく鞄が揺れている。


 ポケットから顔を出す私を見て、にこりと笑うマリー。


 リオンがついてくることに不満顔であったはずだが、リオンは全面的にマリーに従う意思を見せてくれた。

 

 そのおかげもあって、マリーの機嫌は直ったようだ。


 二人の関係は少し複雑なようだ。


 立ち入ると面倒な予感がすることもあり、関係ない第三者を装うことを決めた。


 辺りを見渡すと、一面に広がる黄金色の作物たちの反対側には、それなりに立派な街が広がっていた。


 それなりに立派というのは、マリーの街と比べてしまうと、かなり見劣りしてしまうからだ。


 そんなあの街は、この星で最も繁栄している生きものの国のひとつだという。


 生きものたちが自分たちの力だけであそこまで大きくしたのなら、生きものたちの進化とはすごいものである。


 

「まずは、あの稲たちを見に行こう」



 生きものがつくった街も気になるが、農業にも興味がある。


 マリーの言葉に元気よく返答する。


 道すがら、見たことのない虫や植物の説明を聞きながら歩いていると、道の向こうから一人の生きものが歩いて来るのが見えた。


 

「あれは人間だよ。私たちのの降臨した姿に似せて造られた種族だね。そんなに力はないけど、知恵を与えたから賢いんだよ」


「ほー。ケイローやオルローフみたいな感じなのです?」


「姿は似ているけど、それとはまた違うんだよ。ケイローたちは力を与えられた特別な種族だね。デミゴットとかニュンペーって呼ばれるのがケイローたちかな」



 ここに来た頃の授業で、そんな話を聞いた気もする。

 


「リオン! 街の子どものフリをするよ。今日は作物の実りと、人間の街がどんなものかをティアに見せるために来たんだからね」


「分かったよ」



 リオンはニコニコと頷いている。


 人間の顔が見える距離まで来た。


 帽子を被っていて遠くからでは分からなかったが、白髪の老人のようだ。つぎはぎだらけの服装は年季が入っており、背負っている籠にジャラジャラと何かの道具がぶら下がっているのが見える。


 そんな老人はこちらを見て、不思議な顔をして首を傾げている。


 

「何かお困りごとですかな?」



 老人の声にマリーが答える。



「この綺麗な稲たちを見に来ただけだよ。何も困ってないよ」


「それは、それは。今年もなんとか収穫できそうですわい」


「君が育てたの?」


「……君? いやはや、ここらの田んぼはワシらみんなで育てておりますぞ」

 

「そっか、よく育てたね。無事に収穫できそうで良かったよ。それじゃ」



 キョトンとした老人を置いて、歩みを進める。



「不思議な子たちじゃ。ワシは夢でも見てるのかの?」



 後ろから老人の独り言が聞こえた。


 それを聞いて、笑ってしまいそうになるのをなんとか堪えた。


 星だということを隠して、生きものに接するのは楽しい。


 いたずらな心が疼くのを感じる。


 でも、なんでマリーは星だということを隠すのだろう。


 老人と離れた後に、マリーにそんな疑問を聞いてみる。


 

「星だってバレると面倒だよ。神様、神様って崇められるのも疲れるし、自分勝手な願いを聞かないといけなくなったりするよ」



 マリーはどこか寂しげな表情だったが、崇められるのは悪くないのではと思ったりもした。


 まぁ、時間が足りなくなるから、今はいいか。


 

「これはお米になるんだ。美味しいんだよ? 私たちの街までは、なかなか入ってこないけどお気に入りの一品だよ」



 それを聞いて、思わずポケットから飛び出して垂れた穂の実にかぶりついてみた。


 

「「あっ」」



 二人が驚いた声を上げたが、もう止まらない。


 

「かたっ! まずっ!」



 美味しいと言われた米とやらは、とても食べられるようなものではなかった。


 吐き出していると、マリーとリオンが声を上げて笑っている。



「なんなのです! だましたのです!」


「このまま食べても美味しくないよ。食べれるようになるまでは、いろいろ準備が必要なんだよ」


「ティアは面白いやつだなぁ! ……って、その背中から生えてるのはなんだ!?」



 あ! 思わず、翼を出してしまったのです。

 

 翼を見たリオンは不思議な顔をしている。


 マリーは顔に手を当てて、ため息をついている。


 

「かっこいいじゃん! 神話の鳥みたいだな! それ、星の力でできてるのか?」



 リオンは目を輝かせている。


 リオンに魔力を視る力はないが、星には魔力を感じることができる。


 もしかしたら、私が星だということはバレてしまったかもしれない。



「余計な詮索はしないって約束でしょ? ちゃんと説明するから、その時まで見逃してよね!」


「お、おぅ。もちろんだよ、マリー」



 あっさりと引き下がるリオン。


 きっと二人が付き合うことになったら、リオンは尻にひかれるだろう。


 二人のやりとりは、マリーの知らない一面が見えて面白い。


 

「なにニヤニヤしてるのよ! 行くよ!」



 なぜかぷりぷりと怒ったマリー。


 私は、置いていかれないように鞄のポケットに急いで飛び込んだ。



 黄金色の穂を垂れた稲。


 人間たちの力なくしては、ここまで実ることはない植物だという。


 しかし、人間だけの力でもない。


 大地や風や水、気温など星の環境も重要で、さらには、虫たちや土の中の生きものたちの力も大きく関わってくるらしい。


 マリーは、見つけた虫たちの役割を片っ端から教えてくれた。



「あの子は、土の中の栄養を食べる生きものだね。この畑にとっては土を柔らかくする役割があるね。

 この子たちは、葉っぱを食べるみたいだよ。稲にとっては害虫ってやつだね。でも、死んだら土に還って栄養になるんだ。結局は稲のためになってるんだよ。

 あ。この子はさっきの子を食べてくれる益虫だよ。虫たちの管理役かな。あの子たちが増えすぎて稲を食い尽くさないようにバランスをとってくれているんだよ。

 お、この子はねぇーー」



 話の止まらないマリー。


 マリーは生きもののことを、よく理解している。


 それに、虫を子たち扱いだ。マリーは小さな生きものにも愛情を持っているようだ。


 全てを理解することは難しいが、話に聞くだけと実際に見て感じることは全く違う。


 しかも、マリーは私に分かりやすいように話してくれている。それに応えなくてはと、精一杯に覚えようと努力した。

 


「こんなにたくさんの虫たちを創造したのです?」

 

「最初の数種は創造したよ。その後は、勝手に進化を繰り返していったんだよ。もう、今ではとても把握できないほどの数の種に増えてるね」


「それなのに、マリーは見ただけでどんな役割があるか分かってるように見えるのです。なんでなのです?」


「それはね。全ての生きものには、意味があるからだよ。無意味な存在なんていないんだ。何のために生きているのかを考えてあげると、自然と分かるようになるんだよ」


「何のために生きているのか……?」


「そうだね。何のためか分かる?」


「星のためなのです?」



 マリーは少し寂しそうな表情をした。



「私の願いに応えるためだよ」



 それを聞いて、少し怖い気持ちになった。


 生きものたちの生命は、星のためにあると言っているように感じる。


 自分のために生命を使わせることは、悪いことではないのだろうか。


 頭を揺らしながらそんな考え事をしていると、マリーの優しい声がした。



「生きものたちの生命のことを考えてる? ティアは優しいね。そうだよ、生きものを創造するということは、大きな責任があるんだよ」


「なんだか怖いことのような気がするのです」



 マリーが頭を撫でてくれる。


 

「大丈夫。ティアなら、きっといい星を創れるよ。悲しいこともたくさんあるよ。それは間違いがない。一度、始めてしまったらもう戻れないんだ。でも、悲しみに飲まれてしまってはいけないよ。できたら、逃げ出さずに受け止めてあげる星になってほしいよ」

 


 マリーの言葉はとても大切なことを教えてくれている気がする。


 

「マリーのようになりたいのです」


「ふふ、ティアは私よりすごいんだ。きっと素晴らしい星になれると信じてるよ」

 


 マリーと二人だけの時間が過ぎていく。


 

「えっと」



 側で話を聞いていたリオンが信じられないような顔をしている。


 そうだ、リオンもいたんだった。



「マ、マリー? まるでティアが星のような話をずっとしてるけど、ま、まさか?」



 リオンは震えて驚いている。


 あれ? リオンは私が星だということを知らなかったのです?


 

「余計な詮索はしないって約束したよね?」



 マリーがリオンを睨みつけると、リオンは口を開けたまま固まってしまった。


 どこからか鐘の音が聞こえてきた。


 周りを見渡すと、街の方から聞こえてくるようだ。


 街から白い煙が上がっているのが見えた。


 

「火事かな? リオン、どうしよう?」


「え? どうしようって……え?」



 リオンが正気に戻るのに少し時間がかかりそうだ。



「ティア、行ってみる?」


「よく分かんないけど、行ってみるのです!」



 頷きあって、マリーは走り出す。私は揺れる鞄にしっかりと掴まった。

 


「お、おい! 待ってくれよ!」



 追いかけるようにリオンも後を追ったのであった。



 

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