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第40話 マリーの月




 マリーの星、エイト。


 シロモナリエの一室で、オルローフがマリーの髪を結っている。



「マリー様、あまり動かないでください」


「はぁ〜い」



 まの抜けた返事をするマリー。


 そんな私も、テーブルに座りマリーに髪をとかしてもらっている。


 今日はマリーが各地を見て廻るそうだ。


 視察というらしい、私は隠れて同行することになっている。


 マリーが生きものたちの場所へ出向くことは珍しいことらしい。



「昔はよく遊びに行ってたんだよ。でも、知り合いは少なくなっちゃてね。それに、私だってバレると普通に接してもらえないから寂しいんだよ」



 後ろを振り返ろうとすると、私も動かないように言われてしまった。


 髪を整え終わる頃にユタが来た。


 

「心配だな。マリー、上手くやるんだぞ?」


「当たり前じゃない。もし、姿を見られても、私の新しい生きものだと思わせるから大丈夫だよ」


「うむぅ。俺がついて行く訳にはいかないしなぁ」



 ユタは心配からため息をついているが、マリーはあまり気にしてはいないようだ。


 私も大丈夫だと思っている。


 それよりも、生きものたちの暮らしを見れると聞いて、ワクワクしている。


 ユタはぶつぶつ言いながら、早々に出て行ってしまった。



「マリー様に似合いそうな髪飾りを手に入れたのでした。少し待っててくださいね」



 そう言って、オルローフもどこかへ荷物を探しに行った。


 マリーの準備はもう少しかかるようだ。


 マリーとの話は続く。


 エイトの各地では、村や街などの高度な生活を営んでいる生きものたちがいるという。


 生きものの中には、棲み家を持つものが現れる。


 その暮らしが安定すれば村となり、街となり、より大きな集団を構成していくと国となる。


 集団であることで、外敵からの危険を防いだり、より良い暮らしが送れるようにしているのだ。



「と言っても、ある程度の気質と知能がないとそうそう上手くはいかないよ。特にコミュニケーション能力は高くないとね」



 数が増えると、役割を分担するようになる。そのためには、集団の中で個々に意思を伝える能力が必要不可欠になる。


 効率的に動ける種ほど、その生息地域を拡大していくのだという。


 村より大きな集団となると、需要に合わせた産業が生まれ、より暮らしやすい生活へと発展していく。


 安定した食事の供給のためには、農業が発展していく。


 農業かぁ。

 言葉を聞くだけで、意味を理解できてしまうこの力。

 星の記憶様様だ。

 本当に便利な力なのです。


 もちろんマリーの説明で、足らない情報を補填できたり、意味のすり合わせもできる。


 しばらくして、オルローフが髪飾りを持って戻ってきた。


 

「やっぱり! マリー様、とてもお似合いですよ!」


「ありがとう」



 透明の宝石のついた髪飾りが光の反射でキラキラと輝いている。


 マリーが、さらにかわいくなってしまった。


 オルローフにお出かけのの挨拶をして、転移の部屋へ向かう。


 中庭に咲いた花たちも、私たちを見送っているようだ。


 

『ピー! ピー!』



 木に留まっていた二羽の鳥がマリーの肩へ。


 嬉しそうにマリーに戯れついている。


 雄鳥はホー、雌鳥はオーという名がつけられた。


 マリーからの加護も与えられていることもあって、産まれてまだ数週間だが元気に過ごしているようだ。


 マリーもあまり心配していないようで、自由にさせている。


 自分たちで生きる道を探すことが大事なのだという。道を示すぐらいならいいが、全てを施されて生きることは、結局はそのもののためにはならないと教えてくれた。


 きっと餌を探したり、寝る場所の確保だったりとホーもオーも苦労はしているだろう。


 しかし、ホーもオーも幸せそうだ。マリーに身体を撫でられながら笑っている。

 


「さぁ、今日はやることがあるんだ。また遊ぼうね」



 寂しそうに鳴く二羽を置いて、転移の部屋へ。


 私だったら、あのまま一日が終わるとこなのです。



 転移の部屋に着くと、ユタと男の子が待っていた。



「マリー! 会いたかったよ!」

 

「げっ! なんでリオンがいるのよ!」


 

 駆け寄る男の子を見て、マリーが嫌がる顔をしている。


 このマリーと同じ髪色の男の子は、エイトに来た頃に下の街で会ったことがある。


 確か、マリーを好きなやつだ。

 そこまで悪いやつじゃなかったはず。

 

 

「偶然そこで出会ってな。リオンにはそろそろ紹介しておきたいと言っていただろう? 丁度いいタイミングだ。リオンも連れて行くんだ」


「な、なんでよ!」



 ユタの命令に、マリーは拒否の構えだ。


 リオンはなんだか嬉しそうだが。


 

「マリーの性格上、面倒に巻き込まれる可能性が高い。リオンがいれば相談する相手にもなる。それに、もしもの時は、冒険者を装って誤魔化せるだろう?」


「もう! たった一日で心配しすぎなのよ! ねぇ、ティア?」



 同意を求められて、みんなの視線が私に向く。


 ほ? 私はどうしたらいいのです?

 

 とりあえず作り笑いを返しておく。



「先に無理を言ってきたのはマリーだぞ? それに、リオンはお前の月だろう? きっと力になってくれる。……だろう?」


「よく分からないけど、マリーの力になれるなら何でもやるよ。任せておいて」



 リオンは真剣な表情でマリーを見つめている。


 うぉ!

 こんな素敵な言葉を言われたらドキドキしちゃうのです。


 マリーを見ると、完全な無表情になっている!


 わぁ! これはダメなのです。

 マリーにも少しは好意があるのかなって思ったけど、ダメなのです!

 リオンには悪いけど、完全に脈なしなのです!

 リオン残念なのです!


 他人事とはいえ、なぜかドキドキしてしまうであった。

 

 マリーはしばらくゴネていたが、結局はユタに丸め込まれ、リオンも同行することとなった。

 

 ユタは本当に心配をしているのだ。


 ユタの口ぶりからは、私の存在がバレることだけを心配してるわけではないような気がした。



「ティア! よろしく!」


「よろしくなのです!」



 リオンの明るい挨拶に元気よく返事をする。


 さぁ、転移の時間だ。


 今日はどんな楽しいことが待っているのだろう。


 期待に胸を膨らまし、転移の光に包まれていく。


 不安げなユタを残して、私たちは飛び立った。

 

 

 転移を終え光が収まると、目の前には石細工で囲まれた小綺麗な転移の陣に降り立っていた。


 ここは小高い丘になっている。


 少し離れた場所一面に、黄金色に色づいた植物が広がっている。



「わぁ! 綺麗なのです!」


「でしょ! しかも、綺麗なだけじゃなくて食べられるのよ」


「あれ全部食べられるのです!?」



 すぐに飛び立とうとした私は、マリーに素早く捕まえられてしまった。


 そそくさと、マリーの肩掛け鞄のポケットに入る。


 そうだった。

 隠れなきゃダメだったのです。


 エイトで最も栄えているというこの生きものの国では、ちょうど主食となる作物の収穫期を迎えているらしい。


 生きものの暮らしを調査しなければ。


 心が躍る。



「冒険に出発なのです!」



 腕を振り上げた私の号令で、マリーとリオンは歩き出すのであった。




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