第39話 つがいの鳥
マリーの星、エイト。
山々の連なる場所、最も高い山には転移の陣があり、マリーの家やシロモナリエなどの建物が集まって街となっており、遠くからでも見える大きな神殿がある。
街は、二人の巨人の門番が守る階段で分けられており、上の街は星たちと従者のみが住むことを許されている。
下の街は上の街よりさらに大きく、生きものたちの居住区となっており、ここに住むものは何かに秀でた才能を持つものが多いという。
地図上では、やや北側に位置する大陸で、穏やかな気候が続くこの場所。
この街は、ラクエンと呼ばれている。
エイトには、他にもいくつかの大陸があり、各大陸ごとの環境に適応した種が繁栄しているという。
生きもので最も多い種は虫たちで、海の魚たちや、場所を選ばず生息している動物たちなど、この星は多種多様な種によって調和のとれた環境を保っている。
「そろそろ新しい空の生きものがほしいと思っていたんだよね」
現在のエイトの空は、翼竜族という種が制空権を握っており、他にも飛空虫などの羽の生えた虫たちや短距離を飛ぶ小動物がいる程度だという。
鳥とは、豊かな星にしか繁栄しないとされている動物で、おとぎ話に出てくるような翼を持つ生きものだ。
遠く離れた大陸まで横断してしまうような飛行能力を持つ鳥が生まれれば、生態系に大きな影響を与えるという。
という話は置いておいて、やはり空を飛ぶというのはロマンがある。
飛べないものは誰しも空を飛ぶことを夢みるものだ。
「この翼のおかげで、うまくいく気がするよ」
そう言うマリーの背に、純白の翼が生み出される。
とうとう翼の生成に成功したようだ。
私は、マリーがみんなに隠れて練習していたのを知っている。
マリーはバレていないと思っているはずだ。
そして、ユタとケイローがそれに気づかないふりをしていることも知っている。
マリーのあの顔。私の反応を楽しみにしている顔だ。
しょうがない。褒めておくのです。
「いつの間に! さすがマリーなのです!」
分かりやすく照れているマリー。
ちょろいのです。
内心笑っていたが、思わずマリーに見惚れてしまう。
マリーと翼の相性はすごい。
もともとの美形に加えて、翼があることでの神秘的な雰囲気が加わり、ものすごくかわいい。
翼を持っていないものたちは、きっと羨ましがるだろう。
「ティア! 空を散歩しよう!」
「え。授業はいいのです?」
「生きものの創造、見たいでしょ? 翼をもっと感じたいの! こういうのは体感するのが一番いいんだから!」
なんだかもっともな理由で丸め込まれてしまった。
◇
マリーとの空のお散歩。
風が気持ちいい。
ここの風たちは、のんびり家が多いようだ。
「おかしいなぁ。ティアと何が違うんだろう」
マリーは、一生懸命に翼を羽ばたかせ四苦八苦している。あまり速度が出ないようだ。
緩急をつけた曲技飛行でマリーを追い抜かしてみる。
ちょっと気分がいい。
「ちょっと! 意地が悪いよ! どう飛ぶのか教えなさいよ!」
マリーが翼で上手く飛べないのは、翼の構造の問題だ。これは見なくても分かる。
マリーなら、きっと見た目を重視して性能は考えないだろうと予想もついた。
もったいぶっていると、マリーの飛行速度が急激に上がる。
翼が動いていないのに早い。
あ! 翼じゃなくて、いつもの魔力で飛んでる!
「これでもいいか!」
マリーは喜んでいるが、違和感のある飛び方に見えることは黙っておこう。
◇
空のお散歩を終えて。
森を見下ろせる山の丘に座る二人。
「じゃ、創造しちゃおうか! 何度も見せれるものじゃないから、しっかり見て感じるんだよ?」
生きものの創造は、星の力を使うという。
みんなは不思議な力のことを、全て星の力と一括りに呼んでいる。性質の違う力のことを、同じ名称で呼ぶのは間違いの元になると思う。
「ティア? 聞いてる?」
「は! 聞いてるのです!」
話を聞いていないと、すぐにバレてしまう。
私はそんなに分かりやすい態度なのです?
マリーの話では、生きものの創造には、あの光の力を使うという。私が暗闇の中で見た光、死んだクマの身体から出た光。
私はこの力こそが、星の力だと思っている。
どうしたら、その力を使えるのかは見当もつかない。
マリーもうまく説明できないようだ。
昔からそうやって伝わってきたということしか分からない。
星の力の使い方は簡単だ。
言葉にするだけで使えるという。
詠唱のことだ。
一言も間違えずに詠唱するだけで、星の力は使えてしまう。
どんな創造をするかは、願えばいいだけだという。
頭の中で、こんな生きものがいいだとか願うだけでいいのだ。もちろん、言葉に出してもいいという。
できる限り具体的に想像するのがいいという、適当な思いで生み出された生きものは、悲しい運命を辿りやすいという。
「自分の星の生きものは、自分で責任をとる覚悟を持って、きちんと考えて産むんだよ」
そして、最後にその生きものに願いを込めるという。
願っても、その通りになるとは限らないが、生きものはその願いに沿うように生きていくという。
進化を繰り返すうちに、その願いを叶えてしまう種もいるらしい。
そんな願いを叶えた種は、星の力を還元する量も多いという。
星としては、そんな生きものであふれる世界を作るのが良いとされるらしい。
「じゃあ、いくよ」
マリーが詠唱を始める。
どうやら、どんな生きものにするかはもう決めてあるみたいだ。
マリーから魔力を感じる。
これはマリーの体内に秘める力だ。
マリーの詠唱の言葉は、難しい言い回しで上手く聞き取れないが、言葉に合わせて魔力が展開されていく。
すぐに、見たこともない模様の魔法陣が描かれた。
そして、その陣の上にどこからともなくあの光が現れた。
間違いない。あれは星の力だ。
マリーが詠唱を終えたようだ。
吸い込まれるような光の輝きだ。
だが、私の光ではない。
なぜかそう感じる。
「卵より産まれ、翼を広げ空を駆ける。はるかな場所まで飛ぶ力を得て、星に豊かな恵みを与えよう」
マリーの言葉に合わせて、光が形を変えていく。
マリーは、きっと私に分かりやすいように言葉にしてくれている。
「皆に希望を与えなさい」
その言葉とともに、光が輝きを増した。
おお!
なんて素晴らしいのです!
光が喜んでいる!
きっとそうなのです!
目を奪われる光景が続いている。
光は二つに分かれ、形を変えていく。
二つとも、私と同じぐらいの大きさだ。
光は糸となり、複雑に編み込まれていく。
クチバシのあるかわいらしい顔、ふわふわの小さな身体、爪のある足。
そして、翼。
光の糸が、生きものとしての身体を作り出していく。
光が収まると、そこには二羽の生きものが。
『ピー! ピー!』
その二羽は、一生懸命鳴いている。
なんてかわいい声!
まだ言葉にもなっていない。
青い目をした真っ白な鳥。
片方は凛々しく、もう片方は少し大きく愛くるしい。
マリーの力によって、つがいの鳥が誕生した瞬間であった。
「想像よりうまくいったみたいだよ。うん、可愛いね」
マリーが満足そうだ。
二羽の鳥の頭を交互に撫でている。
「す、す……」
「す、す? ティア?」
「すごい! マリー! マリーはすごいのです!」
「あはは。今ごろ分かったの? 私はけっこうすごいんだよ?」
マリーを改めて見直してしまう。
こんな素敵な力があるなんて、この世界は素晴らしいのです。
生きものの創造。
生命を生み出すことは、なんだか怖いことだと感じていた。
でも、そんなことはなかった。
この子たちは、祝福されて生まれてきた。
しかも、皆に希望を与えるという願いを受けている。
なんて素晴らしいのだろう。
マリーに向かって鳴き続ける二羽の鳥。
それを、マリーとティアは優しく見守っている。
少し落ち着いた二羽の鳥。
お互いの存在に気づいたようだ。
顔を見合わせ、身体を擦り合わせている。
夫婦になるのも分かっているみたいだ。
時折、顔を傾げたり、かわいい声で鳴いたりと、とにかく仕草がかわいい。
これは、どうしても触りたい気持ちを抑えきれない。
「触っちゃダメなのです?」
「ティアだったらいいよ。いたずらしないならね」
やった! マリーのお許しをもらった!
さっそく、少し大きな鳥の方をゆっくりと撫でてみる。
ふかふかだ!
ティアの存在に気づいた鳥が、ティアの顔に頭を擦り付けてくる。
大きさも同じぐらいだし、同族だと思われているのだろうか。
何はともかく、その反応が嬉しい。
「その子が雌かな? ってことは、こっちのが雄だね」
見上げると、マリーの手のひらに乗っている凛々しい顔の雄の鳥。
すごく、くつろいでいる。
どうやら、私のお気に入りの場所にライバルができたようだ。
こっちは、身体の少し大きい雌の鳥。
私に撫でられて、嬉しそうにしながら鳴く。
『ママ! ママ!』
え? なんて言ったのです?
「ほぇ?」
マリーから変な声が出た。
雌の鳥は、私に向かってママと鳴いている。
なんだかマリーから嫌な気配が出てる気がする。
ちらっとマリーを見ると、顔が膨れていた。
「ほ、ほら、あの人がママなのです。私はママじゃないのです」
雌の鳥に、マリーへ甘えるように促してみた。
あまり効果がないようだ!
マリーを無視して、私に擦り寄ってくる雌の鳥。
「ティア? 今までに、こんなことなかったんだよ? 何かしたのかな?」
マリーから魔力が流れ出している。
顔は笑ってるけど、目が笑ってないのです。
「何にもしてないのです! 本当なのです!」
慌てていたら、雌の鳥の動きが止まった。
マリーの魔力を感じて戸惑っているようだ。
雌の鳥はマリーを見ている!
「ほら! あの人がママなのです!」
『……ママ? ママ!』
雌の鳥はマリーの肩に飛び乗ってくれた。
そして、マリーの顔に頭を擦り付けている。
危なかったのです。
マリーを怒らせてしまうとこだったのです。
ナイス鳥!
穏やかを取り戻したマリーの授業が再開する。
生きものについてだ。
虫たちは、最初に創造したらあとは勝手に増えていくし、進化によって様々な生態に別れていくという。
動物も同じようなものだという。
「虫よりは動物の方が創造する機会は多いかな?」
生きものの創造をする上で、気をつけないといけないこともあるという。
魔力を与えるかどうかだ。
魔力を与えた生きものは、魔力を扱えるようになるという。
単純な身体強化程度の魔力でも、生きものにとってはすごい力になるらしい。
強い種へと進化するにつれ、知恵も高まっていくという。
知恵を持つと、いいことも増えるが、悪いことを考えるものも出てきてしまう。
バランスが大切だとマリーは言う。
生きもの全てがケイローのようになっても困るということらしい。
ケイローが百人いるのを想像したが、なんとなく大変そうなのは分かったような気がした。
「日が暮れてきたよ」
マリーが夕日を指差す。
そのマリーの腕に颯爽と飛び乗るつがいの鳥。
それを見て、なんとなく私も飛び乗ってみた。
マリーは声を出して笑ってくれた。
鳥たちも私も声を出して笑った。
鳥たちを見て、星に残してきたアオを思い出す。
アオ、待っててね。
もうすぐ会えるのです。
私の声は届いただろうか。




