第35話 意識たち
マリーの星に戻って来てから、2週間が経った。
毎日が忙しく過ぎていく。
星を育て、星の力を集める。
私が、これからも生きていくためには大切なこと。
そのためには、知識が必要だ。
先人たちの知恵の結晶を、ユタたちは丁寧に教えてくれる。
闇雲に行動して失敗を繰り返すより、効率が良いのも理解しているつもりだ。
「身が入ってないな」
ユタがため息をついている。
「ここ最近のティア様は、上の空でございます」
「アオのことが気になってしょうがないみたいね」
ケイローとマリーも肩をすくめている。
確かに、アオのことを考えていて、話を聞きそびれてしまうことがある。
良くないことだとは思うが、どうしようもない。
気になってしまうのだ。
今日は、ユタとマリー、ケイローとの合同授業だ。
魔力の新たな可能性を探るために、意見交換をする場となっている。
どちらかというと、私のためというより、三人のため、ひいては星全体のためになるという場になりつつある。
私の中では優先順位は高くない授業である。
「一人で星に戻っちゃダメなのです?」
私の質問に、ユタとマリーは難しい顔をする。
「ティアになら出来るだろうが、まだ基礎学習を終えたばかりの星を一人で放り出す訳にはいかない。星の儀で承認が降るまでは、今までのように隠れながら、が限界だ」
「そうね。ティアには悪いけど、ユタは危ない橋を渡っているんだよ。少し待てば、また行けるんだから我慢だよ」
ティアの星へ行けるのは、三ヶ月に一度だ。
ユタやマリーの都合もあり、実行可能な日程はこれが限界のようだ。
数ヶ月を一緒に過ごしてきたが、二人はなかなか忙しい身分である。
一人にされたことがまだ一度もないのは、ユタたちの気遣いからだろう。
次の星の儀とやらは、四年後。
星の儀というのは、太陽ポロンの影響下にいる星たちが集まる場だという。
そこで、星たちは様々な物事を話し合って決めるらしい。
星をまたいでの転移には星たちの承認がいる。
といっても、今の段階では私の存在を公表をするかどうかもまだ決まってはいないのだが。
気軽にアオに会いに行けるようになるまでは、まだまだ時間がかかりそうだ。
マリーたちの心配は、私のためだということは分かる。
しかし、アオは独りなのだ。
ひとりぼっちの辛さは、誰よりも知っている。
あの時、アオと別れたのは間違いだったなんてことが起こったら後悔してしまう。
空を見上げて、私の星の方角を眺める。
「アオ」
そう呟き、ここでアオを想うことしかできない自分の無力さを嘆くことしかできなかった。
すると、私の意識の中の前向きな思考が、久しぶりに意見をしてきた。
もう一つの意識をアオの側に置けないのです?
アオを見守れる意識を作り出せたら解決なのです!
その考えを聞いてハッとする。
確かに、アオの無事が確認できたらそれでいいのです。
そうと決めたら、さっそくーー
「ティア! 聞いているのか! 今は授業中だぞ!」
ユタから怒られてしまった。
しょうがない。
今は、授業に集中するのです。
しかし、解決策が見つかると気が楽になった。
◇ ◇ ◇
夕食後、マリーの家の窓の縁に座り星空を眺める。
後ろで、マリーとオルローフはおしゃべりに夢中だ。
目を閉じて、意識に集中する。
意識をいじるのは久しぶりな気がする。
まずは確認作業からだ。
数を数える意識は、とても役に立っている。
何をするにしても、比較対象として利用出来るのだ。
例えば、魔力を使う時、どこかに出かける時、生きものの呼吸数など何かを数える時などなど、正確な時間が分かるのは指標としてとても便利だ。
ここでの生活に少し慣れた今、ここでの時間の概念を加えてアップデートするのもいいかもしれない。
次に、疲労感を探る意識。
疲労感とは、私の星の力の総量を測れるのだと思う。
意識を増やし過ぎたり、感情が昂まって力が暴走してしまうと大きく減る。
ユタの教えのとおりなら、きっと力を使い過ぎてしまうと眠りについてしまうのだろう。
魔力を使う指標になりそうだけど、魔力を使ったぐらいではほとんど減りはしない。もっと大きく星に影響を及ぼすようなことがない限り、星の力の残量は大丈夫だろう。
時々、確認する程度でいいと思う。
この意識があるというだけで、安心感はあるのでこのまま維持していこう。
次は……あれ?
言葉や思いをイメージする意識があるのです。
これは、あまり必要がないと判断して消してしまったような?
勘違いだったのです?
思い返してみると、いつの間にかこの意識に頼っていたような気がする。
魔力を発現させる時に、イメージは大切だ。
翼を生み出した時も、想像する形をこの意識で考え出したような気がする。
水の小島も、呼吸できる空気も、水の壁もこの意識で形をイメージしていたと思う。
無意識にこの意識を再生させてしまったのかな?
少し疑問が浮かんだが、これも役に立っているのは間違いない。
今後も大いに役に立つだろう。
残るは、前向きと後ろ向きの意識たちだ。
身体を持ってからは、ほとんど活躍の場はなく、この生活を一緒に楽しんでいた。
そういえば、後ろ向きな意識のことは忘れかけていたかもしれない。
というか、あまり耳を貸さないようにしていたと思う。楽しい時間に水を差されるのは嫌だったからだ。
暗闇での時間では、後ろ向きな考えが心の支えになっていた時期が長い。
この二つの意識も、私にとっては大切な存在だ。
何かが当たる感覚を探る意識は消してしまったままだ。
今、思い返してみると、あれは私の星に降り注ぐ太陽光や太陽風、小隕石の衝突を感じていたのだろう。
視覚を得た今では、あまり重要ではない。
意識を使った実験には大いに役に立ってくれたと思う。
本体の意識は、星自体にある。
この身体に宿る意識が、中心人物になっている気もするが。
意識同士は、常に意識を共有している。
さて、今現在増やしている意識はこれで全部だ。
試しに意識を増やしてみようとする。
しかし、なぜか上手く増やすことができない。
どうやって増やしていたのかも、よく分からない。
そういえば、どういう構造で増やしていたかはよく理解していなかった。感覚に頼って実践していたのだ。
しばらく試行錯誤を繰り返したが、意識は増やせなかった。
アオに会いたい、でも、会えない。
そんな気持ちも相まって、悲しい気分になる。
ふいに、頭を撫でてくれる手。
振り返ると、マリーが立っていた。
にこりと微笑みかけてくれる。
その日は、マリーの胸にうずくまって眠りについた。




