第32話 ティアの星にて
あれから、あっという間に数ヶ月が経った。
毎日を慌ただしく過ごしている。
この世界は楽しいことばかりだ。
今日は、山の上の転移の陣に来ている。
「おい! 少しは落ち着いてくれ!」
作業をしていたユタは肩をすくめて呆れた顔だ。
ユタの邪魔にならないように飛び回るのをやめて、マリーの手のひらで大人しく待つことに。はやる気持ちが抑えられなかったことを少し反省する。
でも、しょうがないのです。
今日は私の星へ戻るのです。
何もない星だけど、やはり自分の星は気になるのです。
しかも! 星を育てることを知った今は、やりたいことがたくさんあるのです!
今日は現状の確認だけの約束だが、以前にある程度を探索したことがあるからさほど発見はないと思う。
問題は、まだ自然に生きものが育つ環境ではないということだ。
生きものが呼吸に適する空気にはなっておらず、大地もない。海だけの星だ。
事前の準備で、対処方法を考えてきたが、上手くいくかどうか。
頭を揺らしながら考え事をしていると、マリーの笑い声がした。
「楽しそうだね? ティアの星なんだから、好きにするといいよ。ティアのやり方を楽しみにしてるよ」
マリーは私の反応を楽しむ趣味がある。
困ったものでイタズラも多い。ちょっと悔しいけど、マリーが笑うと嬉しいから、結局は許してしまう。
でも、本当に危ないことをしようとすると、待ったを出してくれるから安心だ。
「よし、準備ができたぞ」
ユタがティアの星へ行く準備を整えてくれた。
ユタとマリーと転移の陣に入り、転移が始める。
周囲が光り始め、魔力の空間に包まれ空に浮かぶ。
遠ざかる陣の付近に、巨人のドイルが見えた。
こっちに手を振っている。
遠ざかるドイルに手を振りかえすが、小さな私の姿は見えているのだろうか。
暫しの宇宙旅行を終えて、ティアの星に戻って来た。
ここは南極の氷山の一角だ。
ここからマリーの星へ旅立ったのは、まだ数ヶ月前だというのに、ずいぶん昔のように感じる。
「寒っ!」
マリーが身震いをしながら自らの魔力バリアを調節している。
満足気な顔に変わったのを見ると、暖かさを上手く調節できたようだ。
ティアとの魔力の練習で、魔力バリアの扱い方が上手くなっている。
「マリーも、この短期間で成長したな」
ユタが嬉しそうだ。
そんなユタも、この数ヶ月で魔力の扱いに進歩が見られた。
ユタは攻撃的な力の使い方ばかりをしていたが、魔力の流れが元々見えていたのもあり、魔力操作技術は向上して、翼を生み出すことができるようになったのだ。
さっそく翼を生み出したユタは、マリーの前をうろうろと行き来している。
ユタの白く輝く髪と翼は、ちょっとかっこいい。
「はいはい、分かったわよ! すごいよ! さすがユタ様!」
マリーは翼を上手く作れなかったので、悔しいようだ。
マリーは気配探知の力が得意だが、魔力の操作技術はもう一つといったところだ。
相手の気持ちに敏感でトラブルになることが少なかったということもあり、あまり攻撃的な魔力の存在に興味を抱かなかった経緯があるようだ。
しかし、可愛いものや面白いものには目がないようで、ユタより強い気持ちで翼を作ろうと連日頑張っていた。
きっと、マリーならすぐに生み出せるようになるだろう。
「さぁ、行くわよ!」
少しいじけたマリーが先に空へ飛び立つ。
後を追うように、ユタと私も翼を羽ばたかせ空へ。
今回は、ティアの星に何か変化がないかを確認をしに来たのだ。
こんな短期間に変化などあるのかと疑問が残るが、ティアは以前に何も知らずに魔力を操り星の環境を変えている。
また、誰かに会いたいと願いながら、星中を飛び回ったこともあるため、すでに特別な生きものが誕生している可能性もあるというのだ。
転移の陣のある白い世界、南極を離れ、しばらく飛ぶ。
高度を上げて飛んでいるが、風は強く吹く場所もあるが、最初に見たことのある荒れ狂う風というほどではない。
「風は落ち着いているみたいだな」
「みたいね。でも、あれ程の風のエネルギーはどこにいったのかしら? 等価交換の法則に反してるんじゃない?」
「あの大気の層、分厚くなってると思わないか? 風のエネルギーは大気に変わったのではないか?」
ユタとマリーが難しい顔をして、話をしている。
まだ教わっていない分野の話のようだが、なんとなく意味が分かるようになってきた。
早く二人の知識量に追いつきたいと、もどかしい気持ちになった。
そして、生きものが暮らすには、まだ呼吸するには空気が薄すぎるようだ。
呼吸できる空気にするには、まずは海の環境を整える必要がある。
今度は、海面まで降りて海の調査だ。
海は、まだ酸の海だそうだ。
酸の海は、雨を降らせて中和していかなければならないという。
「私の星のように成長するまでは、まだまだ時間がかかるね」
マリーの星は美しく、命にあふれており素晴らしい星だと思う。
できるなら、マリーの星のように育ててみたい。
少しずつ、自分の星の目標ができてきた。
いつの間にか、体をくねらせながら考えごとをしていたようだ。
ユタとマリーが私を見て微笑んでいる。
「なんなのです! その目は!」
「ティアは見てて面白いからね。ティアが悪いよ」
人が一生懸命頑張っているのに失礼な人たちなのです。
戯れあっていると、マリーが何かに気づいたようだ。真剣な顔で遠い方角を見つめている。
「あっちに強い力を感じるよ」
マリーに導かれ、私たちは空を飛んだ。
快晴のなか、見渡す限りの海原を進む。
以前は追いつけなかった、二人の空を飛ぶ速度にも、なんとか付いていけるようになった。
といっても、ユタに至ってはまだ全力ではなさそうだが。
マリーの合図で、速度を落とす。
「この海の中にいるよ。どうやら生きものみたいだね」
「生きもの! でも、この海じゃ生きられないのでは?」
「特別な力を持っているみたいだけど。ティア、心当たりはないの?」
「まったく、ないのです」
海中を睨んでいたユタが何かを発見したようだ。
「何か来るぞ。一応、気をつけておけよ」
海中から勢いよく何かが近づいてくる。
それは、魔力を纏っているようだ。
その魔力から、どこか不思議な感覚を受ける。
直感で分かる、敵ではない。
よく分からないが、家族のような絆を感じる。
海中から勢いよく飛び出て来たのは、羽の生えた蛇。
水の魔力を纏った大きな蛇であった。




