第30話 マリーの教え
今日は、マリーに星を育てることについて教えてもらう。
マリーの鞄のポケットに揺られ、シロモナリエの転移の部屋のひとつにやってきた。
「今日は私の星を巡って、大地の仕組みや植物なんかもよく見てもらうよ。生きものもたくさんいるから参考になるといいね」
転移の陣に立ち、マリーの言葉と共に転移が始まる。
光に包まれると、あっという間に転移したようだ。
目を開けると、暗い洞窟のなかの転移の陣に着いたようだ。
薄暗い洞窟をマリーは灯りもなしにスイスイと進んでいく。
何度か分かれ道を曲がると、外からの光が見えた。
「暗いのによく分かるのです」
「ふふ。私はこういうのが得意なんだよ。他にも、悪いことなんか考えてると、私は分かっちゃうよ」
出口からの光に照らされたマリーが答える。
「さぁ、出口だよ。行こう!」
洞窟から出ると、そこには一面に広がる海が見えた。
潮の香りが風に乗って通り過ぎていく。
「すごい! いい景色なのです!」
「でしょう! でも、よく見てみてよ。ここからでもたくさんの植物や生きものが見えるでしょ?」
マリーの言う通りだ。
大地には緑が生い茂っており、海の風に吹かれた木々が気持ちよさそうに揺れている。
少し遠くの砂浜には、四足歩行の灰色の生きものたちが、のんびりと過ごしているのが見える。
いや、よく見ると、灰色の生きものたちより身体の小さな深緑をした生きものもいる。
海の中からも、時々、何かの生きものが飛び跳ねている。
すぐ近くの草花たちには、小さな虫が潜んでいるのも気づくことができた。
少し観察しただけで、これだけの発見だ。
まだまだたくさんの生きものや草木を見落としているだろう。
「さぁ、何から知りたい?」
マリーがふわりと金色の髪をかき上げる。
何から知りたい?
そう言われると困るのです。
何も知らないから、全部知りたいのです。
でも、最初の質問はどうしよう。
周りを見渡す。
お!
この木の実は、美味しそうなのです。
「この実は食べられるのです?」
緑の木の実を指差して質問する。
きょとんとした顔をしたマリーは、すぐに肩を揺らしながら笑った。
「最初の質問がそれなの!? でも、ティアらしくていいけどね」
しばらく笑い続けるマリー。
なんだか腹が立ってきたのです!
翼を作って飛び立ち、マリーの顔の前で不服な旨を身体を使ってアピールする。
「ごめんごめん、怒らないでよ」
マリーは笑い終えると、木の実について教えてくれた。
この木はオリーブという名前で、この星エイトではよく見かける木だという。
木の実は、そのままでは苦くて美味しくないが、美味しく食べれるようにする方法があるという。
ティアも食べたことがあるという。また次に食べる機会があれば教えてくれるらしい。
他にも、オリーブの実からは油が取れるらしい。
生きものたちにとっては、大切な木だと教わった。
「よく考えたら、最初にオリーブの木に興味が湧いたのは嬉しいよ。この木は、私にとっても思い出深いものだからね。私はこのオリーブの木が好きだよ」
マリーは、オリーブの木に手を当てながらにこりと笑った。
くっ! マリーの笑顔は卑怯なのです!
かわいくて、全てを許してしまうのです!
マリーの金色に髪が風に吹かれてなびく。
周りに咲いているのは、マリーの髪色に似た可愛らしい花たち。
「この花はかわいいのです! マリーみたいな花なのです」
マリーが照れくさそうな顔をしながら教えてくれた。
「この花の名前はシルフィウム。かわいいだけじゃなくて、薬にもなるんだよ」
ふわふわとした小さな可愛い花たち。
この丘には、たくさんのシルフィウムが咲いていた。
マリーと共に、海へと向かって丘を降りていく。
道すがら、目に留まる植物や虫たちのことを聞いたが、マリーはなんでも知っていた。
しかも、意外と分かりやすく教えてくれるのだ。
勝手だが、マリーを少し抜けている子だと思っていたので見直した。
砂浜に近づくと、こちらに気づいた生きものたちが次々と逃げていく。
しかし、身体の大きい灰色の生きものだけは、こちらに気づいても逃げようとはせず、こちらをじっと見ている。
「逃げ出さないのは、私たちを恐れてないんだよ。この辺りでは強い種だろうけど、もっと力のある生きものは、私に敵意を向けるなんてしないんだけどね。ま、本能に従う生きものは大体こんな感じの反応が多いね」
マリーの見た目は可愛らしい女の子だ。
あんなに身体が大きくて鋭い牙もある生きものだったら、マリーの見た目で侮って当然だろう。
マリーは軽やかな口調で説明しながら、躊躇なく進んでいく。
近づくにつれ、灰色の生きものたちの一部は身構えて、威嚇の声を発してきた。
『ナニモノ! チカヅクナ! コロスゾッ!』
グルルルルッと唸る声の意味が分かる。
明らかにこちらに敵意を向けている。
それがとても怖く感じて、ティアはマリーの鞄のポケットに素早くインする。
「大丈夫だよ。私は、生きものたちを傷つけたりなんかしないよ」
マリーが私の頭を撫でながら進んでいく。
前方の灰色の生きものたちは威嚇を強めている。
後方で寝ていたものも顔を上げ、こちらを窺っている。
「狩りの時は気配を殺して静かに狩るよ。威嚇は余計な争いをしたくない相手にすることが多いね」
マリーがスタスタと進んでいくと、灰色の生きものの気配が変わったように感じた。
「今、警戒の範囲を超えたね。もういつ攻撃されてもおかしくないよ」
余裕の表情のマリー。
一番手前の個体が飛びかかって来た。
「うわぁ! 危ないのですっ!」
ポケットから出て、マリーを守らなくては。
動こうとすると、マリーの手のひらが静止してきた。
すると、マリーから強烈な威圧感を感じる。
マリーはただ灰色の生きものを見ているだけだ。
ただそれだけなのだが、強烈な威圧感、圧倒的な強者の風格を感じる。
魔力の流れを見ると、魔力が関係しているようだ。
飛びかかって来た個体は、急旋回して側方に周り距離をとった。脚が震えている。
群れの奥から『グオオォ』と吠える声がした。
みんな鎮まれと言っている。
すると、そこから一回り大きな個体が出てきた。
「この群れの長だね。君はどういう反応をするのかな?」
群れの長はゆっくりとこちらに向かって歩いて来ている。
「賢い子だね。敵意がないことを示してくれているよ」
確かに、周りからも威嚇の声がなくなっている。
群れの長はマリーの目の前で足を止めて、じっとマリーを見つめている。
群れの長は、低い声で鳴く。
見逃してほしいようだ。
戦うのなら俺だけで許してほしいと言っている。
「怖がらせてごめんよ。何もしないよ。この子に君たちを見せてあげたくてね」
マリーの手のひらに乗って灰色の生きものの前に差し出される。
手を挙げて挨拶してみた。
群れの長はマリーに視線を戻して、座り込み頭を下げた。
周りの生きものたちも同じ行動をとっていく。
「自然の世界では、自分より強者を相手にすると逃げるか、従うか、戦うことを選ぶことになるよ。この子たちは従うことを選んだんだね」
「こっちから戦いを挑んだらどうなるのです?」
「向こうも戦うしかないだろうね。生きもの同士なら当たり前のことだよ。でも、私たちが生きものと戦うなんてダメだよ。何か理由があるならまだしも、意味もなく命を奪うのは、私は星として失格だと思ってるよ」
マリーは歩き出し、群れの中を通り過ぎていく。
灰色の生きものたちは、岩のような堅そうな肌をしている。
「生きものに触りたいって思ってない? いきなり触るのはダメだよ。ちゃんと信頼関係を築いてからじゃないと、その子のためにならないからね」
例えば、群れの長に気軽に触るとプライドを傷つけてしまうだけでなく、群れでの地位を失わせてしまうことがある。
長でなくても同じで、群れから追われてしまったりとトラブルの原因になるという。
自分の小さな欲のために、生きものに干渉するのは良くないことだとマリーは教えてくれた。
「私も触りたい生きものがたくさんいるよ。そういう時は、責任を持って面倒をみると決めてから関わるのがいいよ」
灰色の生きものの群れを抜けると、群れは立ち上がりゆっくりとその場を離れていく。
群れの長が、大きく吠える。
強きものよ、ありがとうと言っていた。
たった少しの時間のことだったが、ものすごく勉強になった。
そして、何よりマリーが優しいことが嬉しかった。
「マリー! ありがとう!」
「何よ急に。恥ずかしいじゃない」
照れて笑うマリーはかわいいのです。
この後は、今からのティアの星に一番必要となる海の生きものたちについて教えてくれるらしい。
楽しみなのです!
私などの駆け出しの読みづらい物語を読んでくださって感謝しております。
今、ここを読んでいる貴方のことです。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
この第30話と後少しでこの世界のチュートリアルが終わるといったところです。
今後は、ティアの星を育てる話が続く予定です。
もしよろしければ、今後もお付き合いくださると嬉しいです。




