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第28話 ケイローの授業




 今日は、ケイローの座学の初日だ。


 神々の学校、シロモナリエのひっそりとした部屋。


 木や石の薄い板が積み上げられており、紙で出来た本もたくさん並んでいる。



「こんな部屋もあったんだね」



 マリーもついて来てくれた。


 ユタも始まる前に顔を見せてくれたが、「俺抜きで力の練習をするなよ」と、釘を刺してどこかに出かけて行った。


 マリーの話では、ユタは忙しい役目を持っているらしく、三日ほど戻って来れないらしい。



「さぁ、ティア様。始めますよ」



 促されて小さな机に座ると、壇上のケイローの話が始まった。


 

「まずは、星たちの歴史からです。私たち星は、何のためにいつから存在するのかは分かっておりません」



 ケイローの透き通るような声は、耳触りが良くいくらでも聞いていられそうだ。


 壇上の大きな黒板に、白い石で絵を描いてくれるのも分かりやすい。



「星は、大いなる意思の導きによって目覚めの時を迎え、周りの星による降臨の儀式によって受肉し、身体を持ちます。と、この辺りはユタやマリーから聞いているようですね」


 

 確かに、この話はユタたちから聞いた記憶がある。


 

「宇宙には、想像も及ばないほどの数の星たちが存在しています。基本的には、各自が自由に動いてるわけではなく、主星と呼ばれる星の周りを列星と呼ばれる星たちが周りながらある程度の集団を構成しています」


「私の主星はポロン?」


「そうですね。太陽とも呼ばれているポロン様が、私たちの主星です」



 ポロンは卵ってマリーが言っていたのを思い出す。



「ポロン様は、今は卵のような状態です。ポロン様の目覚めと共に……いいえ、この話は後にいたしましょう。先に覚えてほしいことがたくさんありますので」



 ケイローの話は進んでいく。


 星の成り立ちの話は面白かった。


 肝心な部分はよく分かっていないということばかりだったが、誰も分からない星の謎を解明するのも面白そうだなんて思いながら話を聞いていた。


 ポロンを主星とする星は千以上いるらしい。この広い宇宙の中では普通の大きさの星群だという。


 その星の中でも、特に力を持つ星たちが十ニ星おり、ポロンに導かれた星たちをまとめている。


 十ニ星の第一位の主星ポロンは卵の状態であり、意識もあるのかどうか分からず、降臨して受肉もしていない。今は、ただ導かれた星たちを照らしているだけだという。


 また、ポロンの宙域の星たちがポロンを中心に回り続けるように、十ニ星には各々に衛星と呼ばれる星たちを従えているらしい。



 驚いた話もあった。


 ユタはその十ニ星のなかでも、第ニ位の存在だという。


 ケイローは何位かと聞いてみた。



「私は星ではありませんよ。ユタ様に創造して頂いた、生きものでございます。光栄にも、神の形に模せられて造って頂いたのです」

 


 ケイローが嬉しそうに話してくれた。


 その後、しばらくはユタがどれほど偉大なのかとケイローの熱弁が続いた。


 分かってはいたが、ケイローはユタを尊敬しているみたいだ。

 

 星には生きものを生み出す力があり、星に住まわせるそうだ。


 生きものの話も興味深かったが、これはマリーの星を育てる分野で改めて教えてもらうことになった。


 マリーをチラリと見ると、座ったままですっかり寝てしまっている。


 

 星は、記憶を持って生まれてくるという。


 まずは、身体を操る感覚。生まれてすぐに身体を自在に動かせるのもそうだという。


 生きものたちは赤子として生まれ、時間をかけて成長するが、星は赤子の段階を踏まず、その星が持っている記憶に沿うような身体で受肉する。


 降臨の儀式で受肉するまでは、どんな身体で降臨するのかは、誰にも分からないらしい。


 ともかく、降臨してすぐに身体を動かせるのは記憶によるものだということだ。


 過去には、怪物のような身体で受肉し、すでに暴走していた星を、ユタが封印した話も聞かせてくれた。


 次に、言葉だ。星には相手が何を言っているかが分かる、不思議な力を持って生まれてくる。


 相手が思いを音にして口に出すと、何を喋っているのか分かるという。


 それに、ある程度の言葉の意味を最初から理解できているという。


 これは星によって個性があり、戦闘が得意だったり、研究が得意だったり、狩りや料理、物作り、空を飛ぶなど、多様な個性が出るらしい。


 星の歴史は、記憶を持って生まれる星たちの新しい知識によって進化してきたという。


 

「ティア様は、魔力の記憶があるのでしょうか? これほどの力を扱えるのは、記憶によるものではないかと思っているのですが」


「記憶かぁ。最初にどんなことを考えていたかなんて、もう忘れちゃったのです。でも、優しい声と優しい光は覚えてるのです」


「優しい声と優しい光ですか。大いなる意思というものなのでしょうか。私たち生きものには、大いなる意思の声は聞こえませんので」



 私の記憶。


 どんな記憶を持っていたかなんて、もう思い出すこともできない。


 永すぎる暗闇の中で、特別な記憶といえば数を数えることぐらいだった。


 身体を持ってから、すごく楽しい時間を過ごしている。


 あの暗闇で、ひとりぼっちだったことは思い出したくもない。



「数を数えるのは、何か意味があるのです? ひとりぼっちでずっと数を数えていたのです」


「数を数えるですか? 何の数を数えるのでしょうか?」


「じ、時間かな?」



 ケイローが顎に手を当てて、考え事を始める。


 ガタンッと後ろから音がした。


 振り返ると、マリーが椅子から落ちていた。


 寝ぼけて落ちてしまっただけのようだ。



「ごめん、ごめん」



 そう言って、顔を赤くして椅子に座り直すマリーはなんだか面白かった。



「マリー様は変わりませんね」



 微笑むケイローンの提案で、休憩をとるこになった。


 ずいぶん授業に集中していたようだ。


 見たことのある女性が持って来た昼食をとる。



「カリオペさん、ありがとう」


「ケイロー様、気を遣わずにいつでも仰ってくださいね」



 ケイローの呼んだ名前で思い出した。


 ここに来た時に入り口で出会った、美しい振る舞いの女性だ。


 

「カリオペ! 美味しい食事をありがとなのです!」


「ふふふっ。本当に可愛い神様ですわね」



 口元を手元で隠しながら笑うカリオペは、とても美人だ。



「おぉ! マリーとは大違いなのです!」


「何を言ってるのよ!」



 マリーにペシっと頭を叩かれた。


 それを見て、また笑いが起こる。


 食事も美味しいし、楽しい時間が過ぎていく。


 

「カリオペは星なのです? それとも、生きもの?」


「私はユタ様と繋がれた星ですよ。衛星とも言いますね」



 にこりと笑うカリオペ。


 

「その質問、相手によっては怒らせることもあるから、私にこっそり聞くんだよ。カリオペ、気を悪くしたらごめんね」



 マリーが呆れながら教えてくれた。



「嫌なことを聞いたのです? ごめんなのです」


「いえいえ、気にしないで大丈夫ですよ。わざわざ謝っていただいて、申し訳ないほどです。それに、もっと失礼な星はたくさんいますからね」



 カリオペは笑って許してくれたが、キラリと光る眼の奥に少し怖い雰囲気を感じた。


 しかし、ケイローは生きものでカリオペは星。


 でも、ケイローはカリオペより偉いみたいだ。


 どういうことなのだろう。


 今日一日で、また新しい謎がたくさん生まれてしまった。


 午後の授業も楽しみだ。


 しかし、今はマリーに甘いお菓子を食べられてしまう前に行動しなくちゃなのです。


 マリーが手に取ろうとするビスケットに突撃するティア。


 騒がしく、幸せな時間が過ぎていく。

 



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