第25話 ポケット
マリーの家に、ユタがやって来た。
「二人とも、大人しく待っていたか?」
「ちょっと! 一言目がそれ? 少しぐらい信頼してよね!」
ユタとマリーは仲良しなのです。
そうだ! ユタにこの格好を見せてあげるのです。
ティアはユタの身体によじ登り、手の上へ。
ユタの手の上で、くるくると回って見せる。
「ユタ! どう?」
「新しい服だな? 似合っているぞ」
ユタが少し照れながら褒めてくれた。
ユタは見る目があるのです。
センスの塊なのです。
オルローフの用意した食事をしながら、ユタの話を聞くはずだったが、食事につい全力投球してしまい、話が始まるのは食後となった。
「マリーは、しばらくティアと一緒に居ていいのか?」
「うん。今は、特にやることはないし、ティアと居た方が楽しくていいね」
マリーが頭を撫でてくれる。
「ということは、ケイローの座学も一緒に受けるということでいいのか?」
「ざ、座学は、ティア一人でいいんじゃないかな?」
少し固まったマリーと、それを見て苦笑いのユタ。
「その空いた時間に、マリーは星の育て方について、どう教えるのかを考えておくのがいいな」
「私も教える側にまわって良いんだね?」
「ティアの力を、他の者に見せるわけにはいかないからな。苦肉の策だ」
「何よ! 私だって、ものを教えることぐらいできるんだからね」
膨れるマリーと、笑うユタ。
「ティア。最初は、歴史と規律はケイロー。星の育て方はマリー。実技は俺が教える」
「分かったのです! で、私は何を教えればいいのです?」
元気よく答えると、ユタとマリーはガクッと肩を落とした。
「全然、分かってないのね。ティアが教わる側だよ」
「そうだったのですか! よろしくなのです!」
「先が思いやられるな」
その後の話はこうだ。
明日から、ティアの学びが始まる。
マリーの嫌がる座学とやらで、星についての歴史や規則をケイローが教えてくれる。
ケイローはこの前の、優しそうな男性だ。
マリーが嫌がるってことは、難しい話も多いのだろう。華麗に覚えてしまって、マリーたちを驚かせたい。
ユタは魔力についての実技指導を、マリーは星の育て方を教えてくる。
これは興味がありすぎるので、しっかりと覚えて、これも想像を超える結果を残したい。
しばらくは、他の人には出来る限りの接触を禁じられてしまった。
もしも、他人にバレてしまった場合は、マリーの星の新種の生きものであるということにすると言われた。
一人で行動したりしたら、きついお仕置きをされるらしい。
私のためらしいので、我慢することにするのです。
普通は同じ程度の能力の者を集めて、何人かで競わせて学ぶらしい。
しかし、私は特別な力を持ち過ぎているらしく、公に知られないように個人で学ぶことになった。
教わるのは基本的ことから始まるらしいが、覚えの悪い星だと数十年かかるらしい。
「ティアは、頭が良いからきっとうまくいくよ」
「いや、ティアは本能の赴くまま行動する節がある。きっとトラブルを起こすはずだ。マリーも、しっかり目を光らせておくんだ」
ユタの信用も勝ち取らないといけないのです。
そのうち、アッと驚かせてやるのです。
大体の説明が終わると、ユタが満足そうに笑った。
そんなユタに、マリーがニヤニヤしながら話しかける。
「私は簡単には騙されないよ? ティアの力の秘密を独り占めしようとしてるでしょ?」
「な、何を言っている!」
ユタは慌てている。
「じゃあ、ユタの授業には私も参加するよ。あの素敵な翼の作り方も教えて欲しいし」
「そ、それはダメだ」
「なんでよ!」
「お、お前がいると遊んでしまうだろう?」
マリーは膨れた顔をして、ティアの頭を撫でた。
「ティア。ユタに結界の張り方とか、ユタにできないことを聞かれたら、方法を教えちゃダメだよ」
「分かったのです!」
「う、う〜む。マリーの参加を認めよう」
ユタが苦笑いをしている。
よく分からないけど、マリーの勝ちのようなのです。
二人の掛け合いは、見ていて楽しい。
オルローフが、お菓子とやらを持ってきた。
甘くて、サクサクとしたビスケットというものだった。
とっても美味しかった。
たくさん食べるには、もっと身体を大きくしなくてはいけない。
その方法をユタたちに教えてもらうのも楽しみだ。
「マリーざまぁぁぁああ!」
外から大声が聞こえてきた。
オルローフが出迎えに。
「こんな時間になんだろうね」
すると、マリーはビクッとした後、ユタを見つめる。
「ユタ! 違うのよ! これには深い事情があるのよ!」
オルローフが戻ってきた。
「下の街のラクネという方が、マリー様との約束の品をお持ちしたそうです」
「う、うん! そうね! 頂いておいてちょうだい! 今度、お礼に行くからって伝えておいてね」
なぜか落ち着きのないマリーと、頷いて後ろを振り返ったオルローフ。
「待て、その者をここへ」
ユタの一言で、部屋に連れて来られたのは、日中の服屋の女性だった。
女性はマリーを見て深々とお辞儀をしたあと、ユタに気付き驚いていた。
「マリー様にお急ぎの依頼を頂戴いたしまして、それをお持ち致しました」
女性は少し震える声で、包みを開けると綺麗な鞄が出てきた。
「まぁ! 素敵だよ! この縁取りなんかすごくかわいいよ。あ、このポケットは!」
「ティア様が過ごしやすいように工夫をしてみました。いかがでしょうか?」
すてきな鞄には、ティアが入れるようなポケットが付いていた。
さっそく鞄のポケットに収まるティア。
顔まですっぽりと入れて、もふもふの手触りの生地で非常に居心地が良い。
内側にもティア用の小さなポケットが三つ付いており、しかもボタンを外すと鞄本体へ抜けれるような仕掛けつきだ。
ポケットから顔を出したティアを見て、マリーとラクネにオルローフまで加わって、きゃあきゃあタイムに突入した。
「ラクネと言ったね? 君は最高だよ!」
「ありがとうございます!」
ラクネが頭を下げると、その後ろに腕を組んで立っていたユタがこっちを見ている。
そんなユタと目が合ったマリーは部屋の隅に連れて行かれて、何やら叱られているようだ。
がんばれ! マリー!
そんなこんなで、ラクネが帰るようだ。
マリーがお代を払おうとしたら、ラクネはまた断っていた。
それを見たユタが、金貨を一握りほどラクネに渡した。
「断らず、受け取りなさい。それとーー」
ユタがラクネに何やら耳打ちしている。
ラクネは何度もお礼を言いながら、帰って行った。
家の前で待っていた巨人族が居たのには、少し驚いた。
明日からは、色々覚えなくてはいけないのです!
少し不安もあるけれど、楽しみなのです!
ティアは星空を眺め、気合を入れるのであった。




