第22話 天秤
「皆さん、授業に戻りなさい」
涼やかな声の男性の一言で、いつの間にか集まっていた人たちは、そそくさと部屋を出ていく。
いつ間にか部屋の中は、ティアとユタ、マリーとその男性だけになっていた。
その男性はユタとマリーを見て、にこりと笑顔を見せる。
「これは、どういったことでしょうか?」
涼やかな声の男性を見た、マリーの顔は引きつっている。
「ケイロー! 違うんだよ! 誰も悪くないんだよ!」
ケイローと呼ばれた中性的な男性。長い髪を後ろでまとめており、表情は柔和で優しそうだ。清潔感のある服装をしている。
「まだ何も責めてはいませんよ。ただ、大切な学びの時間に、騒いでいた理由が知りたいだけですよ」
ユタが立ち上がった。
「自力で目覚めた星がいると言ったら、どう思う?」
ケイローは微笑んだまま、ユタを見た後にティアに視線を向ける。
「貴方のお名前は?」
優しい表情だが、ケイローの目は笑ってはいない。
とりあえず、素直に答えておくのです。
「ティアなのです。よろしくなのです」
「ティア様。貴方のことを少し探らせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「ほ? どうぞなのです」
「今から貴方の才能を見せて頂きます。不思議な感覚を受けるかもしれませんが、危害はないので安心してください」
よく意味は分からないが、丁寧な言葉遣いだし、ユタたちが止めないのならいいと思う。
ケイローはティアの頭に手を置き、目をつぶると、魔力の高まりを感じた。
ティアは当たり前のように魔力の流れを追った。
ケイローから出る魔力が、ティアの頭を包み込んできた。
複雑に編み込まれた魔力だ。初見では、どういう構造なのかよく分からない。
ケイローの魔力は、ティアの意識に干渉しようとしている。
天秤のようなイメージが流れ込んできた。
おぉ。不思議な感覚なのです。
天秤の片方にケイローの魔力が、もう片方にはティアの魔力が。
私の魔力量を調べようとしているのです?
そんな少ない量で比べても、調べ終わるには時間がかかるのでは?
手伝うのです!
効率良く動いてもらおうと、ケイローの魔力に干渉する。
すると、ケイローは急に目を見開いた。
「な、何を……」
ケイローは、小刻みに震えている。
あれ? まずかったのです?
あ! そうだ! 無闇に魔力を使っちゃダメだったのです。
ど、どうしよう。
ユタとマリーを見ると、怒ってはいない。ケイローの反応を窺っているだけで、魔力を使ったことには気づいていなそうだ。
よし! なんとかごまかすのです!
ケイローは深呼吸をして、落ち着きを取り戻したようだ。
「ティア様。私は、相手の秘めている力をある程度ですが探ることができます。この力を活かして、その者の得意とする力を見極め、進むべき道へ導く……などと、私は思い上がっておりました」
ケイローの微笑みは消え、真剣な表情になっている。
「ユタ様。ティア様は、私などでは計り知れないお力をお持ちです。いかがなさるおつもりでしょうか?」
「皆に知られるのは、問題が多すぎると思っている」
「左様でしょう」
「ティアは目覚めたばかりの星と変わらないほどの知識しか持っておらん。まずは、星の歴史や規律を学んでもらうのがいいと考えている」
ユタの言葉を聞いて、ケイローは頷く。
「これは重大なお役目となりますね」
ユタは、にこりと笑った。
「話が早くて助かる。頼んだぞ、ケイロー」
「身命を賭して、承ります」
「ティアは、マリー並みにお転婆だぞ。それでは、流石のケイローの命も、もはや風前の灯だな」
ユタは、声を出して笑う。
「失礼ね! 私はレディだよ!」
マリーが顔を膨らましている。
なんだか話がまとまったみたいなのです。
よく分からないことばかりだけど、私は問題の多い星のようなのです。
なるべく、みんなに迷惑をかけないように気をつけるのです。
「ティア様は、あの目覚めずの星でよろしいのでしょうか?」
「そうだ。その星で見つけた。偶然かもしれんが、私はこれは運命だと思っている」
「他にもいくつかーー」
その後も、ユタとケイローは難しそうな話を続ける。
私の話みたいだが、知らない単語が多すぎて良く分からない。
マリーを見ると、あくびを我慢している顔だ。
ティアはマリーの手の中へ。
「飽きたのです?」
「こら! 怒られちゃうでしょ!」
マリーは声を殺しており、指でほっぺを突かれた。
「マリーの星をもっと探検したいのです」
「ふふ。いろいろ見せたいものがあるけど、しばらくお預けになりそうだよ」
「なんでなのです?」
「ティアは、ここでの生活のルールを覚えるのが最優先になるみたいだよ。ティアの力が未知数すぎるのが問題だからだね。トラブルを起こさないように、いろいろ学んでからになりそうだよ」
「マリーは、二人の話の意味が分かってたのです?」
「大体は分かるよ、って! ティアは、私をなんだと思ってるのよ!」
マリーと、クスクスと笑い合う。
「ティアは天才だから、すぐに覚えられるよ。一緒に頑張ろうね」
「うん! マリーと一緒なら、頑張れるのです!」
思わず、声を出して笑う二人。
ユタとケイローが話しを止めて、こっちを見ている。
「ティア様は、自由奔放な方のようですね」
「あぁ。まだ数日しか一緒にいないが、きっといろいろと問題を起こすだろうな。俺は、そう確信している」
ユタに失礼なことを言われてしまった。
いろいろ学んで、見返してやるのです!
「というわけで、ケイロー。俺もしばらくここで過ごす。共に頑張っていこう」
「ユタ様が、この学校にですか。もしかして、マリー様も?」
マリーが頷くと、ケイローはにこりと笑った。
しがし、ティアは見逃さなかった。
ケイローの目は笑ってはいなかった。
むしろ、ちょっと泣いているようだった。
よく分からないけど、新しい生活が始まるみたいだ。
みんなの役に立てるようにがんばるのです!
ティアはそう心に決めたのであった。




