第21話 初めての街
ティアの適応の儀式はすぐに終わった。
陣の中央に立っているだけで、身体の周りに環境に適応できるように魔力バリアを張っただけだった。
もちろん魔力の流れは見た。
ティアの星で見た魔力と性質は似ていた。
そして、魔力の流れ方は機械的で、水の小島に展開した空気の空間と似ていた。
何のためかよく分からない魔力の層も見つけた。
マリーの星の魔力とティアの星の魔力、何か違いがあるのかと、今後に調べたいことも増えていく。
そして、マリーの星を自由に動けると思うと、楽しみで顔がほころぶのであった。
ティアたちは、転移してきた場所を出て、山を降りていく。
少し歩いた所に、街があるそうだ。
道中、緑の木や草たち見かけるたびに、ティアは足を止めた。
草むらから小さな虫が飛び出てきた。
「それは虫だよ。星の環境に欠かせない生きものだよ」
マリーが説明してくれた。
小さな虫。といっても、小さなティアにとってはかなり大きく、人型とは違う奇怪な形状に少し怖さを感じる。そしてあの眼だ。
意思の分からない虫の眼に、ティアは後ずさる。
周りをよく観察すると、そこらじゅうに姿の違う虫が潜んでいる。
「後で、いくらでも見る時間があるんだよ。今は、早く美味しいものが食べたいでしょ?」
マリーは虫を警戒していないようだ。
危険な生きものではないのだろう。
ティアはそう判断すると、虫たちを無視した。
それに、今は美味しいものは楽しみすぎるのです。
何度かその後も足を止めてしまったが、マリーに急かされて下山を急ぐのであった。
「ティアざまは、植物たちを気にかけでくれるんだぁ。やざしい方だぁ」
ドイルは、そんなティアを見て感動していた。
ユタとマリーも、口では注意をするが怒っているわけではなさそうだ。
ティアの足ではいくら経っても進まないと、ティアはマリーの手の中へ戻されてしまう。
整備された緩やかな山道を下りていくと、立派な建物たちが見えてきた。
石で出来た階段を降りていく。
建物につながる道に、立派な門がある。
「すごい! すごいのです!」
まさしく、見るもの全てが初めてなティアは感動しすぎて、すごいとしか言えなくなっていた。
「ここまでいい反応をしてくれると、さすがに嬉しいね」
「たいていは、ドイルを見て怯えてしまうからな」
「ティアざまはやざじい、ユタざまはいじわるだぁ」
マリーたちも、満面の笑みになっている。
立派な石造りの門。
高い壁が続いており、石細工の装飾が施されている。
扉は木製だが、ドイルも悠々と通れるほど大きい。
閉まっている扉の前に、人が立っている。
ユタたちを見つけると、その人は頭を下げた。
「ヤーヌ。出迎え、ご苦労」
ヤーヌと呼ばれたその人は、ユタから声がかかると頭を上げる。ユタ以上に筋骨隆々で、露出の多い服装だ。
ユタと少し言葉を交わした後、ヤーヌは大きな扉を手で押して開けてくれた。
身体の十倍はある扉を、軽々と開けたのには驚いた。
門の向こうには、いくつもの建物が並んでいた、ドイルのような巨人たちや耳が少し長い人たちなどがたくさんおり、こっちを気にしているようだ。
そのまま進むと、私たちに気づいた人たちに頭を下げられていく。
「なんで頭を下げるのです?」
「私たちは、生きものたちの創造主として敬われているんだよ」
「うまや、うやまわ、うまやられる?」
「あはは。すごい人だって思われてるのよ。生きものに好かれるのも、実は大切なことなんだよ。学ぶうちに分かると思うけどね」
マリーは、色々教えてくれる。
「たくさん、人がいるのです。ここは寂しくなくていいとこなのです!」
「住人が増えると、問題も増えるんだよ。いいことばかりではないかな? それに、この街には一部の者しかいないよ」
「ということは、他にも街があるのです?」
「そうだよ。この星の歴史に興味が出たなら、学ぶといいよ」
覚えることは、たくさんありそうだ。
街の巨人たちは、ドイルより少し体が小さい。
ごつごつとした身体は一緒だが、一人一人特徴があり、服の着方なんかも違う。
耳の少し長い人たちの女性たちは、ユタを見て黄色い声をあげている。
マリーへ挨拶をするのは、ユタの視線をもらいたくての行動に見える。
「ユタは、この辺りの星をまとめる者だからね。しかも、見た目もいいからモテるんだよ」
マリーが教えてくれた。
「俺は困ってるって言っているだろうが」
話を聞いていたユタがなんか言っている。
そうこうしていると、ある建物に着いてユタたちは足を止めた。
その建物は、周りと比べると大きく入り口の装飾にも気合が入っている。
ドイルが扉を開けてくれた。
中の部屋に座っていた人が、こっちに来る。
「あれ? ユタ様? マリー様も! どうしたのですか?」
マリーよりお姉さんだ。
「カリオペ、しばらくだな」
「ユタ様も、マリー様もお元気そうで」
カリオペと呼ばれた女性は、美しい所作で挨拶を返している。
「新しく目覚めた星を連れて来た、色々と教えてやってほしい」
ユタの言葉に、カリオペはキョロキョロと周りを見渡している。
これは私の出番なのです!
勢いよくマリーの手の中から飛び出るティア。
美しい着地が決まっーー床が滑って、こけた!
何事もないように立ち上がる。
「ティアなのです! よろしくなのです!」
後ろから、ユタたちの笑い声が。
カリオペもつられて笑っている。
「あらあら、ずいぶん可愛い神様ですね。私は、カリオペ。この学校の教員の一人ですよ」
カリオペは姿勢を整える。
「ティア様、よろしくお願いいたします」
カリオペの美しい所作での挨拶が決まった。
「おぉ! マリーとは大違いなのです」
「こら! ティア! 聞こえてるよ!」
マリーに怒られてしまった。
笑ってごまかしておこう。
カリオペも微笑んでいたが、何か考えているようだ。
「しばらくは、目覚めの時を迎えた星はいなかったはずでは、ありませんか?」
「そのはずだったのだがな。ケイローはいるか?」
「ただいまは授業中ですが、お呼びしましょうか?」
「いや、終わるまで待つとしよう。何か食べる物を用意できないか? できれば、美味いものがいい」
ユタのうまいもの発言に飛びつくティア。
カリオペは準備をすると言って、どこかに出掛けて行った。
ドイルも、仕事に戻るそうだ。また会う約束をして別れた。
奥の部屋に入ると、大きなテーブルがあった。
「やっと落ち着けるね」
マリーがドスンと椅子へもたれ掛かった。
ユタも服の汚れを落とし、鞄を棚へ置いて、マリーの正面の椅子へ座る。
ティアは大きなテーブルの上に。
そして、魔力を操り空中に飲める水の塊を生み出す。
塊から、水をすくい飲むティア。
「お! ちょっと味が違うのです!」
ごくごくと飲んでいると、ユタの顔が目に入る。
なんか呆れてるようだ。
「ティア。俺の言うことは聞いていたのか?」
「ほ? ユタの言うことしか聞く気はないのです!」
怒られる予感がしたので、真面目に答えた。
「私の言うことは聞かないってこと?」
あれ!? なんでかマリーにも怒られてしまいそうなのです!
ドイル! 助けて!
「どうしたらいいのですー!」
またしても、ティアは食事が来るまで二人の説教を聞くことになった。
ちなみに食事は美味しかった。
どれくらい美味しかったのかと言うと、ティアがあまりの美味しさに騒ぎすぎて、人たちが何人も集まって来たぐらいだ。
ちゃんと餌付けもされた。
この星の食事は美味しい。
このことだけでも、この星に来た甲斐があったというものだ。
ティアの周りには、笑い声が絶えない時間が続く。




