第19話 青い星
転移の陣の、切り出されたような石たち。
その一つ一つには、何か意味のありそうな模様が刻み込まれている。
「ティア、無闇に触るんじゃないぞ」
ティアは魔力に反応するのかなと、魔力を流そうとしていたとこに、ユタから声がかかった。
「見てるだけなのです」
ティアはにっこりと笑顔で返答する。
あぶない、あぶない。怒られるとこだったのです。
マリーの毛皮の中に退散するのです。
マリーは、ユタの作業をただ見ているだけだ。
ティアはマリーの毛皮の中に潜り込む。
「あぁ。ぬくい」
まだティアは熱を出していないのに、マリーは幸せそうだ。
「問題なさそうだ。始めるぞ」
少しの時間で、ユタの準備は終わったようだ。
マリーは立ち上がり、ティアもマリーの横へ飛び出る。
「ティア。その翼はなんとかならないか?」
「あるとまずいのです?」
「理解の及ばないことに、恐れを抱くものもいる。余計な争いは嫌だろう? マリーの星で過ごすことに慣れるまでで構わん。できるのなら、その翼は閉まってくれ」
「分かったのです!」
ティアは、素直に背中の翼を消した。
しかし、さっそく翼がないと不便が出てくる。
ユタやマリーと会話するのも顔を上げておかなければならず、歩く速度にもついて行けそうもない。
ユタみたいに飛ぶ力を身につけないとといけないのだろうか。
それはそれで楽しそうだ。
しばらくは、マリーかユタの身体に乗ってやり過ごすことにしよう。
「ティア。こっちに来なさい」
ちょうど良くマリーに呼ばれて、手の中にティアはおさまった。
マリーの手が少し震えている。なぜか緊張しているようだ。
「大丈夫なのです」
マリーの手をさすってあげる。
マリーの震えは止まり、にこりと笑う。
「私が言わないといけない言葉を、先に言わないでよ」
マリーの言葉を聞いて、ユタが苦笑いしている。
ユタは中央の立派な石柱の前に立って、ティアに言う。
「これから転移を行う。半刻ほどでマリーの星へ行ける。不思議な現象が起こるが心配することはない」
「私にくっついてるといいよ」
マリーの手の中なら安心だ。
ユタも頷いている。
「それでは、行くぞ」
ユタは中央の石板に手を置いた。
「エイトの門まで飛べ」
ユタの言葉と共に、転移の陣が輝き出す。
石たちの模様に光が走っている。
ティアは魔力の流れを見る。
陣に強い力が集まっている。
宇宙から魔力が降りて来ている。
その魔力にティアはとっさに身構える。
降りてきた魔力からは、触れてはいけないような、神々しさと禍々しさを感じる。
「大丈夫だよ。正しく使えば、私たちを導いてくれる力だよ」
マリーがティアを優しく包みなおす。
この力は気軽に見てはいけない気がする。
ティアは魔力を追うのをやめた。
転移の陣の中央にいる三人を囲むように、球体の魔力空間が作られたようだ。
球体の魔力空間ごと三人は空に上昇していく。
徐々に速度が上がっている。
空間の重力が無くなっていく。
かなりの高速で上昇しているが、揺れることもなく空間にふわふわと浮いている状態だ。
不思議な現象に困惑していると、いつの間にか星の外へ出たようだ。
大きな青い星が見える。
「あれが、宇宙から見たあなたの星だよ。きれいだね」
「私の星……」
マリーの言うとおり、青い星は美しかった。
いつまでも眺めていたい。
しかし、あっという間に青い星は小さくなっていく。
ものすごい速さで遠ざかっているのだ。
青い星の隣に、寄り添うように佇む星が見える。
きっと、あれが月だろう。
「なんでか感動しちゃうのです」
「ここでなら泣いていいのよ」
ティアはマリーの手に顔を埋めて、涙を流す。
このとても切ない気持ちは何なのか。
胸が押さえつけられるような気持ち。
ティアはしばらく涙を流し続けた。
「星から出れば、力の暴走はないようだな」
「それは普通の星と同じだね」
ユタがつぶやきにマリーが答えている。
ティアが顔を上げると、宇宙が広がっていた。
たくさんの星たちが見える。
「あれ? 星たちの輝き方が違う?」
「これが普通の星たちだな。常に、一定の光を放つのだ。地上から見る星は大気の影響で瞬き輝くように見えるだけだ」
ユタから、したり顔でのうんちくを頂けた。
ユタのおかげで、かなり冷静になれた。
ユタも嬉しそうに話しているので、win-winだ。
「すぐに着く。宇宙からの景色を楽しんでくれ」
「あ、ありがとなのです」
ユタに言われた通り、宇宙の景色を楽しんでいると、青い星が見えてきた。
ティアの星と似ている。
「あれが私の星、エイトだよ」
あの青い星は、マリーの星。
エイト。
青い星が大きく見えるほど近づいてきた。
雲の下に緑の大地が見える。
ティアはマリーの手から身を乗り出して、目を輝かせる。
今、ティアの青い目に、美しい星が反射している。




