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第18話 転移の陣へ



 

 水平線から朝日が昇る。


 水の小島に張られた結界にたどり着いた粉雪たちが、水滴となって落ちていく。


 水滴たちに朝日が反射して、まるでティアたちを歓迎するかのように光が踊っている。


 三人はそれを眺めていた。



「行くぞ」



 ユタの静かな号令を聞き、マリーは小島の端に置いた石を回収した。


 活動に適していた空間を作り出していた結界は消えていく。


 颯爽と小島から飛び降りる三人。


 ティアは翼を羽ばたかせ、ユタとマリーは魔力を操り、眼下に見える氷の大地に降下していく。


 三人とも美しい着地が決まった!



「さっむーい!」



 マリーが白い毛皮に包まり、身体を縮こませての第一声は寒いということだった。


 

「ここに来た時は平気だっただろうが」


「あの時は、平気なふりをしていたのよ!」


「残念だが耐えるしかない。なるべく俺の後ろを飛べ、風よけぐらいにしかなってやれん」



 ユタは困った顔しながら、そう答えた。


 マリーに振り回されているが、なんだかんだでユタは優しい。


 ティアはこの辺りの気温を丸ごと上げてしまおうかと考えたが、ユタの優しさを無駄にしてはダメだと思い、それはやめた。


 粉雪が舞っている。


 マリーには悪いが、きれいな光景である。


 マリーの星へ行けるという、転移の陣を目指して三人は飛び立つのであった。


 ユタとマリーの飛ぶ速度はなかなか早い。


 ティアはついていくのがやっとだった。



「ようやくティアにひとつ勝てたね」



 マリーは、ティアをくるりと周りながら嬉しそうだ。


 ティアに、悔しい気持ちが少し湧き上がってきた。



「目覚めて数日のものに、勝ち誇ってどうする」



 ユタが小言を言っている。


 寒さで身震いをするマリーにも聞こえたようだ。



「だって! ティアを守ってあげたいのに、このままじゃ、守ってもらう側になりそうなんだもん」



 マリーは膨れた顔だ。


 私を守ってくれるなんて、マリーはステキなのです!

 その変な顔も、かわいいのです!

 よし! お礼の気持ちを表すのです!


 ティアはマリーに飛びつき、白い毛皮の中に潜り込む。



「ちょ! ティア!」



 ぴょこんと毛皮から顔だけを出す。


 ティアは、自身の魔力バリアから温かい熱を発してみた。


 空気の調節は、お手のものである。



 突然のティアの行動に驚いていたマリー。


 すぐにその顔は、とろけるような表情へ変わった。



「ぬくい! ティア! 君は最高だよ!」



 ユタは呆れた顔だ。



「また不思議なことをしでかしおって。それなら、もう少し速く飛ぶぞ!」



 ユタは飛行速度を上げる。


 マリーも難なくついていく。



「おぉ。すごく早いのです」


「移動することは、星にとっては重要なことだからね。飛び方なんかは最初に覚えることだよ」


「もっとも、ティアの翼で飛ぶ方法は新しいぞ。歴史が変わるやもしれんほどにな」


「そうね。虫の羽とは違うよね。絶対、流行る気がするよ」



 ユタとマリーは雑談するほどの余裕を残している。


 これほどの速度で飛ぶと、風の音で声など聞こえないはずだ。目も開けてるのもやっとのはずでは。


 ティアは不思議に思い、魔力の流れを見る。


 二人の魔力バリアは複数の層になっており、顔を覆っている。


 なるほど。あの魔力バリアでなんとかなっているのだろう。


 ひとつの層にいくつかの要素を編み込むより、層を分けて個別に操作する方法もある。


 前方の空気をより分けて、飛ぶのを助ける仕組みなんかも見てとれた。


 ティアは関心する。


 ティアの魔力を見る力は、とても便利だ。


 この力と、ティアの思考の速さなら大抵の問題は乗り越えてしまえる気がするのであった。



 南極と呼ばれた、真っ白な世界。


 巨大な雪の山が見えてきた。



「あれだよ」



 マリーが、その山を指差す。


 横殴りの吹雪が、地上付近を走り抜けている。この空域も、吹雪いてきた。


 

 雪の山まで来ると、上空でユタたちは止まった。


 

「我ら来たり、どこか」



 ユタがなんか言っている。


 すると、ユタの言葉に反応したのか、雪山の中腹の丘から光の柱が立ち上がった。


 光の柱に近づいてみる。


 転移の陣とやらは、雪に埋もれているようだ。


 ティアはどうするのか興味が湧いて、マリーの毛皮から出ようとする。



「だめ! 寒くなっちゃうよ!」



 マリーに捕まえられてしまった。


 仕方なく、毛皮の中にもぞもぞと戻る。


 

「しばらくすれば、姿を現すだろう」



 ユタの言葉は本当だろう。


 光の柱が、周囲の雪を溶かし始めている。


 これも、水の小島に置いたあの石と同じような設置型の結界なのだろう。


 ティアは魔力の流れを追いながら、そう予測したのであった。


 ふとティアは気づく。



「ここまで、さっきの島で来ちゃだめだったのです?」



 マリーが、ハッとした顔をして言う。



「そ、損した!」


「楽をしすぎると良くないよな」



 ユタが適当な理由を絞り出している。


 というわけで、ティアの作る水の小島の出番だ。


 今度は石を置かなくてもいいように、最初から快適な空間を過ごせる結界もつけてみた。


 その結界を体験したユタとマリー。


 二人は口をあんぐり開けていた。



「こんなことってある?」


「空気を生み出すなど、あのクロトンでさえ独力では出来なかったというのに」


「まさしく、世界が変わるかもね」



 マリーとユタが驚きながら話している。


 役に立てて嬉しい。


 でも、疑問が出てくる。

 


「ユタとマリーの体を包み込んでいる力は、呼吸できるように空気を変換しているのです。なんで、こんな空間に広げようとしないなです?」


「お前のような複雑な力の使い方は、誰も知らないぞ。もちろん、試したことも幾度となくもある。うまく発現できたことはないがな。こういう複雑な力は、星の石を使って効率のいい方法を組み込んで使うのだがな」



 また知らないことが話から出て来た。


 星の力と魔力は何が違うのだろうか。


 きっとマリーの星へ行けば、謎が解けるのだろう。


 ティアは、先のことを考えて胸が踊った。

 


 新しい水の小島で、転移の陣とやらが現れるのを待つ。


 結界の外は吹雪いて来ているが、ここは快適だ。


 ユタとマリーは、ティアの力のことで盛り上がっている。


 聞き覚えのない単語が多く、話の内容はよく分からなかったが、ティアのことをずいぶん評価してくれているようだ。


 話に何度も出てくるクロトンという名前は覚えてしまった。


 クロトンは星の力に通じていて、奇跡のような力をいくつも開発したそうだ。


 他にも何度か話に出てくるカイル、ダン、プルル、メル、アレス、ナンナというのも名前だろう。


 ティアは、忘れてしまいそうなことは記録するものが必要だなと思いながら、二人の会話を聞いていたのであった。


 

 ティアが光の柱を見ると、雪の丘にぽっかりと穴が空いていた。


 底には、長方形の石が組み上げられている不思議な場所が見えていた。


 長方形の石たちは、明らかに人工的な直角と直線でできている。



「あれが転移の陣なのです?」



 ティアは、ユタとマリーに聞こえるように言う。


 二人はその場所を見下ろす。



「そうだ。あれが転移の陣だ」


「ティア。私の星に行くよ」


「楽しみなのです!」



 三人は転移の陣へ、飛び立った。


 マリーの星はどんな所なのか。


 ティアは、新しい体験に出会えることに期待をしているのであった。




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