第17話 南極へ
「ティア! すごいよ!」
そう叫んだマリーの髪は、風に吹かれてなびいている。
ユタの肩に乗るティアは結界の異変に気づく。
結界が風を通しているようだ、このままでは呼吸できる空間を維持できないかもしれない。
ティアは魔力を操り結界を強化して、風を通さないようにする。
ティアの手際は素早く的確で、マリーとユタはそのことに気づいていないようだ。
マリーの星に行くには、真っ白な世界へ行き、転移の儀式とやらを行う必要がある。
この星は、海であふれており大地がなく、儀式のための足場がないから真っ白な世界が選ばれたそうだ。
ちなみに、真っ白な世界は南極というらしい。星の反対側には同じような世界で北極もあると言う。
出発準備を始めた二人を見て、水の小島で行けばいいとティアは提案した。
マリーとユタは、実際に水の小島を動かすまではあまり信じていなかったようだ。
二人が飛ぶ速度よりは遅いらしいが、充分な速度だそうだ。
「ティアのおかげで、星の歴史は大きく変わるかもしれんな」
「それはいいことなのです?」
「使い方次第だな。いい方向へ進めるように皆で努力するんだ」
「ふ〜ん」
人ごとのようにしているティアを見て、ユタは笑う。
「お前は凄いぞ。もっと自覚を持つことだな」
ユタには褒められているのか、怒られているのか分からないが、悪い気はしなかった。
「このまま真っ直ぐ進めば着くよ」
マリーは探知能力に長けているらしい。何かを探すことや、気配を探ることができて、他者からの悪意なんかも分かるらしい。
マリーの力も貴重な能力だそうだ。
ティアはマリーの肩に飛び移る。そして、魔力を操り、マリーの指差す方角へ水の小島の方向を微調整する。
「多分、今日中に着くよ。夜にはなりそうだけどね」
「よく分かるのです? どうやってるのです?」
「どうやって? う〜ん、説明は難しいよ。勉強と練習を繰り返したんだよ。私の星に来たら教えてあげるよ」
「やった! 嬉しいのです!」
喜びはしゃぐティア。
きっと、あっという間に習得してしまうだろうという予感を感じるマリーとユタは目が合い、笑う。
「ティアには、先に教えておくことが沢山あるな」
「夜までよ。間に合うかな?」
ユタとマリーは、ともに頷くのであった。
その後は、ユタとマリーによる、他の星に行く際の注意事項の話が始まった。
ティアは、真剣に話を聞く。
普通の星と違って、ティアは自力で覚醒した初めての星だそうだ。
噂が広まると、騒動になる可能性もある。
しばらくは、一部にしか伝えないことになり、普通の目覚め方をしたように振る舞ってほしいらしい。
その普通を振る舞うというのが難しいらしい。
普通は目覚めの時を迎えた星には、ユタのような力を持つものたちが10人ほどのチームを組んで迎えに行くらしい。
転移の門を作り、降臨の儀式を行い、目覚めた星に身体を与えるそうだ。
目覚めて間もない星は、赤子のようなもので、本人に問題がなければ、マリーの星のような過ごしやすい星へ避難させて、必要な知識や技術を与えるそうだ。
「本人に問題があるというのは、どんなことなのです?」
「滅多にないことだが、目覚めた時から狂気に侵されているような星だな。危険な星だと判断されると奈落の底行きとなる」
ティアは奈落の底という言葉に、身震いを感じた。
「初めて聞く言葉なのに、なぜか知っていた言葉たちは何なのです? 二人と言葉が通じたのも気になっていたのです」
「ようやく目覚めたばかりの星から、よく聞かれる質問が出たな」
ユタとマリーが笑っている。
「星は不思議な力を持って生まれる。ある程度の記憶を持っているのだ。言葉もそのうちの一つだな」
「星は転生を繰り返しており、前世の記憶を引き継いでいる。そんなことを唱えるものもいるよ」
ユタの説明に、マリーも口を出した。
「なぜ言葉が通じるのか。なぜ知らない言葉に聞き覚えがあるのか。これもたくさんある星の謎のひとつよ。興味があるなら、研究チームに入るといいよ」
マリーの話では、星たちには様々な研究チームがあるという。一定の知識と技術を納めた星は、次に自分の興味のある研究を行うらしい。
覚えることはたくさんありそうだ。
ユタとマリーの話は続く、聞きたいことが次から次に出てくるが、質問をするのはマリーの星へ行ってからの方が効率が良さそうだ。
そんなことを話すと、ユタはそうしてくれると助かると笑っていた。
マリーの星に行くにあたって、ティアがお願いされたことは三つ。
魔力を使うのを控えてほしい。
他の星たちと争わないでほしい。
星の歴史をしっかりと学んでほしい。
と、いうことであった。
特に、星の規律という、星たちのルールは覚えるのが大変らしい。
「ティア。頑張るのよ」
マリーが応援してくれる。
「マリーも、全部は覚えておらぬだろうが」
ユタが突っ込むと、マリーはヘソを曲げたりもした。
穏やかな海の上空を、三人を乗せた水の小島がすいすいと進んでいく。
日が暮れようとしている。
夕食を済ませて、目覚めたばかりの星の振る舞い方を教わっていると、気温が下がってきた。
マリーが身震いをした。
「寒くなってきたわね」
それを聞いたユタが、大きな鞄から白い毛皮のマントを取り出す。
それに包まり、顔だけを出すマリー。
ユタは相変わらず露出の多い服のままだ。
「ユタは平気なのです?」
「俺は星の力で護られているからな」
ティアは、ユタの魔力の流れを見る。
身体を覆う魔力バリアが、一定の温かさを保つような仕組みになっている。そんなに難しい魔力の編み方ではなさそうだ。
「なるほどなのです」
ティアはユタの魔力の流れを見ながら、指揮者のように指を振り、水の小島に張られた結界に同じような魔力を編み込んでみる。
結界が少し光ると、結界の内側は暖かくなってきた。
「どう?」
ティアが得意そうに聞くと、ユタとマリーは呆れている。
「向こうに着いたら、そういうことを簡単にやってはいけないぞ。普通の星は、目覚めてすぐにこれほど星の力を操れはしないのだからな」
「でも、すごいよね。こんな力の使い方を簡単にしてしまうなんて」
「あぁ。ティアを巡って争いが起こりかねんな。まずは誰に任せればいいのか」
ユタは頭を抱えた。
その後も話は続いたが、ある程度は伝え終わったようだ。
「後は、しばらくは俺とマリーが目を光らせておけば、なんとかなるか」
「クロトンとカイルなんかは、すぐにティアの力を見抜きそうだよね。クロトンは星の力に夢中だから、こっち側についてくれるだろうけど」
「カイルか。面倒にならなければいいのだが」
「面倒はユタ様に任せるよ!」
マリーの笑いに、ユタはため息をつく。
マリーとユタの関係性は見ていて楽しい。
ティアも笑った。
白い世界が見えてきた。南極だ。
前に見た白い世界の時ほどは吹雪いてはいないが、辺りは海が凍るほどの寒さのようだ。
パキパキと流氷が割れる音が、そこら中から聞こえてくる。
「ずいぶん早く着いたな。しかし、このまま行くのは危険だな。ここで朝を待って向かうことにしよう。ティア、この結界は朝まで持つのか?」
「もちろんなのです!」
ティアは薄くかかった雲より高い所へ、水の小島を移動させた。
「ここなら、星を眺めながら休めるのです」
「すてき! ティアが男だったら惚れてしまうよ」
マリーが喜んでいる。
ティアは首を傾げた。
「私は女なのです?」
「ティアは、今は両性みたいね。カエルとかと一緒よ」
「え!? そうだったのです!?」
「そのうち進化の時が来るから、その時に性別は決めるといいよ。たぶん女の子になると思うけどね」
ティアはケロッとした顔をする。
まだまだこの世界には謎が多いのです。
いつか全ての謎を解き明かしてやるのです!
がんばるぞー!
ティアは星を眺め、心にそう決めるのであった。
しばらくの雑談のあと、目を閉じて眠りにつくティア。
大きく見える月は少し欠けている。
月と無数の星たちが、ティアの明るい未来を照らしているようだ。




