表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/51

第14話 赤い果実




 水の小島に張られた魔力の空間は、呼吸に適した空間であった。


 マリーが背伸びをしている。



「やっぱり気持ちが楽になるわね!」



 ユタもマリーを見て微笑みながら、首をならしてリラックスしている。


 ティアは魔力空間の魔力の流れを見ていた。



「ふむふむ、これは呼吸できる空気を生み出して結界を張ってるのです。この合理化された魔力の流れはすごいのです。無駄がなくて洗練されているのです。この石たちに秘密がありそうなのです」



 ティアが置かれた石を見ながら、早口でつぶやいている。


 ユタがティアの後ろで独り言を聞いている。

 


「分かるか? よく考えられているだろう? この星の欠片を使った星法式の研究には、私も少し関わっていてだな」



 ティアとユタは、魔力を使った話に花が咲いていく。


 話に夢中になっていると、マリーの声がした。



「おーい! 食事の用意ができたよ」



 ティアは食事という言葉を聞いて、何かを思い出しそうになる。


 そして、食事という言葉はとても魅力的に感じた。


 ユタはまだ星の力について話していたが、ティアはマリーの方へぴょんと飛び立った。


 ユタは悲しい顔をして、ティアとマリーの元へ。


 

 水の小島の地面には、いくつかの程よい大きさの葉っぱの上に、何種類かの豆と果実が並んでいた。


 三人はそれを囲んで座る。


 ティアは目をまんまるにして、食事を見ている。


 

「食べていいよ。保存食ばかりだから、そんなに美味しくないけどね」



 マリーがそう言って、何かの豆を手に取りポリポリと食べる。


 ティアもマリーが食べたのと同じ豆を両手で取る。


 小さなティアにとっては、かなり大きい。


 ティアは、ためらうことなく豆にかじりついた。



 ガチンッ!


「かたっ!」



 ティアにとっては、豆は硬くて食べられそうもなさそうだ。


 

「あははは。ティアには硬かったかぁ」



 マリーは、ひとつの赤い果実をティアに手渡す。


 

「それは、硬くなくて甘いよ」



 赤い果実も、小さなティアにしてみれば大きいものだが、さっきの豆とは違って柔らかな持ち感である。


 赤い果実からは、ほのかに甘い香りがする。


 ティアは思わず唾を飲み、今度も勢い良くかじりついた。



 シャクッ!


 一口かじると、酸っぱさを感じたが、すぐに甘さが口の中を広がっていく。


 我慢できずにゴクリと飲み込むと、口の中に爽やかで甘い余韻が残った。


 ティアは真剣な表情だ。



「う!」



 マリーとユタが心配した顔で見てきた。


 ティアの顔がほころんでいく。



「うまぁぁい!」



 ティアは赤い果実に一心不乱にかぶりついていく。食べながらウマウマと声が漏れている。


 赤い果実の中心には、少し硬い種がいくつか入っていたが、これはなんとか噛み砕けた。


 ティアが赤い果実を食べ終わると、ティアの両手は果汁でベタベタに。


 顔を上げると、マリーが嬉しそうにこちらを見ている。



「もう一個ほしいのです!」


「あはは。好きなだけ食べていいよ」


「マリーはいい人なのです!」



 ティアは喜びながら、赤い果実の中に突撃していくのであった。



 食事をしながら、マリーとユタが何か真面目な話をしていたが、食べることに夢中で聞いていなかった。


 ちなみに、赤い果実にも味に違いがあり、あんまり甘くないのもあることが分かった。


 甘くないやつはユタに全部あげたのです。


 まだ食べてない食べ物があったが、お腹は満たされてしまった。



「マリーぐらいの大きさになれたら、もっと食べられるのです。とっても残念なのです」



 ティアのつぶやきに、マリーとユタは声を出して笑った。



「進化の時が来たら願ってみるといい。きっとティアなら大きくなれると思うぞ」



 ユタが笑いながら、教えてくれた。


 この世界には、まだまだ知らないことが多そうだ。


 

「楽しみなのです!」



 そんなティアの身体は、果実の汁でベタベタだ。赤い果汁で、見ようによってはホラー映像だ。


 マリーが鞄から布を出す。



「湿らすほどの水を」



 マリーがつぶやくと、布が濡れていく。


 ティアはとっさに魔力の流れを追う。


 マリーの布を持つ手から出る魔力が、辺りの水の魔力に干渉しているようだ。


 とてもシンプルな魔力の使い方なのです。


 魔力の流れが滑らかなのは、使い慣れた方法なのだろう。


 マリーは濡れた布で、ティアの身体をキレイに拭いてくれた。


 身体を拭いてもらってる時に、ティアは自分が裸だったことに気付く。

 

 ティアは赤くなり、もぞもぞと両手で身体を隠す。



「う! 私、裸だったのです。な、なんだか恥ずかしいのです」



 そんなティアを見たマリーとユタは、また声を出して笑うのであった。



 ユタが持っていた白い布を、器用に服にしてくれた。その服を着たティア。


 

「簡単なものだが、今はこれでいいだろう? マリーの星に行くのなら、仕立てることもできるぞ」


「ユタもいい人なのです! ありがとう!」



 ユタは照れながら、水筒を手に取り水を飲んだ。


 

「しかし、ティアは水も飲まずに、よく平気だったな?」


「ほ? 水は作れるのです!」


「水を作れる? 魔力でか?」


「そうなのです!」


「魔力で生み出した水を飲むと、腹を下すぞ?」



 ティアの言葉を聞いて、ユタとマリーはまた心配な顔をしている。


 ティアは人差し指を立てて、自慢げに言う。



「魔力をうまく使うと、飲める水は作れるのです!」



 ティアは魔力を操り、空気を冷やす。


 二人に分かりやすいように、氷の結晶ができるまで空気を冷やしてみた。


 周囲に冷気が漂う。


 マリーは目をパチクリさせており、ユタは魔力の流れを目で追っているようだ。


 ティアは指を振るい魔力の質を変えて、今度は冷した空間を温め始める。


 すると、氷の結晶が溶けて水滴になっていく。


 空中に漂う水滴を魔力で操り、ティアは手のひらに水を集めて、にこりと笑う。



「どう?」



 辺りに暖かな風が戻ってきた。


 ユタとマリーは、空いた口が塞がらないようだ。


 ティアは手に掬った水を飲む。


 

「ほら! 飲めるのです!」


「私も飲んでいい?」



 マリーが両手を出すと、ティアが魔力を操り水が集まる。そして、水道の水のように水があふれ落ちてきた。


 マリーは手を洗い、その水を掬い、飲む。


 

「美味しいね」


「よかった!」



 それを見ていたユタも同じように水を飲んだ。



「うまいな」


「よかったのです!」



 マリーとユタは、互いに目を合わせている。


 先にマリーが笑い出す。すぐにユタも笑い始めた。



「ユタ! ティアに会えて良かったね!」


「そうだな! 自分がいかに何も知らなかったことがよく分かった!」



 二人はしばらく笑っていた。


 よく分からないが、首を傾げながらもティアは悪い気はしないのであった。

 


「そういえば、二人は何でここにいたのです?」


「星はある程度の星の力を持つと、目覚める時が来るのだ。その目覚めには前触れがある」



 ティアの何気ない質問にユタが答えてくれる。



「目覚めの時は声が聞こえてくるのだ。我らは、その声を大いなる意思と呼んでいる」


「大いなる意思?」


「ティアは聞いたことがない? とても美しい声よ。名前を授けてくれるの」



 マリーも話に混ざってきた。



「聞こえたことがあるのです」



 ティアは、あの永かった暗闇での記憶を遡り、静かに答えた。


 ユタの話は続く。


 

「やはりな……その声で星は目覚めるのだ。目覚めると星の力が輝き出す。我らは輝き出した星へ出向き、降臨の儀式を行い、星は身体を手に入れるのだ」


「なるほどなのです」


「でもね、この星はまだ星の力が輝いていないの」



 マリーがそう言うと、マリーとユタは真剣な顔になる。



「みんな夢を見たの。同じ日に。荒れ狂う世界で涙を流しながら強く叫ぶ、透き通るような青い髪の女の子の夢よ」


「不思議なことだ」


 

 マリーとユタは、ティアを見つめる。


 

「ティアにそっくりだったよ」



 ユタが頷いて、話し出す。



「かなり昔から、預言者はこの星はすでに目覚めていると言っていた。何度か調べには来たが、何も収穫はなくてな」


「で! 私たちが調べに来たのよ」


「雲に覆われた荒れ狂う風と酸の海の星。夢はこの星に似ていたからな。しかし、来てみると風がずいぶんと穏やかになっていたな。そして、昨日の夜の、凄まじい風とあの雷だ」


「ずいぶん遠くからでも見えたのよ。キレイだったのよ? ちょっと怖かったけど」


 

 ティアは昨日の夜のことを思い出した。



「それ! 私がやっちゃったかもなのです」


「「え?」」



 マリーとユタが驚いてハモる。


 震えるユタ。



「雲が薄くなったのは、ティアの力なのか?」


「そうなのです! 雲を散らそうと思ったのです!」



 唖然とする二人。


 しばらくして、マリーがユタをゆっくりと見て言う。



「ユタ様も、形無しね」



 ユタは大きな口を開けたまま、固まってしまったのであった。


 三人は水の小島の上。


 穏やかな風が、三人のいる場所を申し訳なさそうに通り過ぎていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ