第14話 赤い果実
水の小島に張られた魔力の空間は、呼吸に適した空間であった。
マリーが背伸びをしている。
「やっぱり気持ちが楽になるわね!」
ユタもマリーを見て微笑みながら、首をならしてリラックスしている。
ティアは魔力空間の魔力の流れを見ていた。
「ふむふむ、これは呼吸できる空気を生み出して結界を張ってるのです。この合理化された魔力の流れはすごいのです。無駄がなくて洗練されているのです。この石たちに秘密がありそうなのです」
ティアが置かれた石を見ながら、早口でつぶやいている。
ユタがティアの後ろで独り言を聞いている。
「分かるか? よく考えられているだろう? この星の欠片を使った星法式の研究には、私も少し関わっていてだな」
ティアとユタは、魔力を使った話に花が咲いていく。
話に夢中になっていると、マリーの声がした。
「おーい! 食事の用意ができたよ」
ティアは食事という言葉を聞いて、何かを思い出しそうになる。
そして、食事という言葉はとても魅力的に感じた。
ユタはまだ星の力について話していたが、ティアはマリーの方へぴょんと飛び立った。
ユタは悲しい顔をして、ティアとマリーの元へ。
水の小島の地面には、いくつかの程よい大きさの葉っぱの上に、何種類かの豆と果実が並んでいた。
三人はそれを囲んで座る。
ティアは目をまんまるにして、食事を見ている。
「食べていいよ。保存食ばかりだから、そんなに美味しくないけどね」
マリーがそう言って、何かの豆を手に取りポリポリと食べる。
ティアもマリーが食べたのと同じ豆を両手で取る。
小さなティアにとっては、かなり大きい。
ティアは、ためらうことなく豆にかじりついた。
ガチンッ!
「かたっ!」
ティアにとっては、豆は硬くて食べられそうもなさそうだ。
「あははは。ティアには硬かったかぁ」
マリーは、ひとつの赤い果実をティアに手渡す。
「それは、硬くなくて甘いよ」
赤い果実も、小さなティアにしてみれば大きいものだが、さっきの豆とは違って柔らかな持ち感である。
赤い果実からは、ほのかに甘い香りがする。
ティアは思わず唾を飲み、今度も勢い良くかじりついた。
シャクッ!
一口かじると、酸っぱさを感じたが、すぐに甘さが口の中を広がっていく。
我慢できずにゴクリと飲み込むと、口の中に爽やかで甘い余韻が残った。
ティアは真剣な表情だ。
「う!」
マリーとユタが心配した顔で見てきた。
ティアの顔がほころんでいく。
「うまぁぁい!」
ティアは赤い果実に一心不乱にかぶりついていく。食べながらウマウマと声が漏れている。
赤い果実の中心には、少し硬い種がいくつか入っていたが、これはなんとか噛み砕けた。
ティアが赤い果実を食べ終わると、ティアの両手は果汁でベタベタに。
顔を上げると、マリーが嬉しそうにこちらを見ている。
「もう一個ほしいのです!」
「あはは。好きなだけ食べていいよ」
「マリーはいい人なのです!」
ティアは喜びながら、赤い果実の中に突撃していくのであった。
食事をしながら、マリーとユタが何か真面目な話をしていたが、食べることに夢中で聞いていなかった。
ちなみに、赤い果実にも味に違いがあり、あんまり甘くないのもあることが分かった。
甘くないやつはユタに全部あげたのです。
まだ食べてない食べ物があったが、お腹は満たされてしまった。
「マリーぐらいの大きさになれたら、もっと食べられるのです。とっても残念なのです」
ティアのつぶやきに、マリーとユタは声を出して笑った。
「進化の時が来たら願ってみるといい。きっとティアなら大きくなれると思うぞ」
ユタが笑いながら、教えてくれた。
この世界には、まだまだ知らないことが多そうだ。
「楽しみなのです!」
そんなティアの身体は、果実の汁でベタベタだ。赤い果汁で、見ようによってはホラー映像だ。
マリーが鞄から布を出す。
「湿らすほどの水を」
マリーがつぶやくと、布が濡れていく。
ティアはとっさに魔力の流れを追う。
マリーの布を持つ手から出る魔力が、辺りの水の魔力に干渉しているようだ。
とてもシンプルな魔力の使い方なのです。
魔力の流れが滑らかなのは、使い慣れた方法なのだろう。
マリーは濡れた布で、ティアの身体をキレイに拭いてくれた。
身体を拭いてもらってる時に、ティアは自分が裸だったことに気付く。
ティアは赤くなり、もぞもぞと両手で身体を隠す。
「う! 私、裸だったのです。な、なんだか恥ずかしいのです」
そんなティアを見たマリーとユタは、また声を出して笑うのであった。
ユタが持っていた白い布を、器用に服にしてくれた。その服を着たティア。
「簡単なものだが、今はこれでいいだろう? マリーの星に行くのなら、仕立てることもできるぞ」
「ユタもいい人なのです! ありがとう!」
ユタは照れながら、水筒を手に取り水を飲んだ。
「しかし、ティアは水も飲まずに、よく平気だったな?」
「ほ? 水は作れるのです!」
「水を作れる? 魔力でか?」
「そうなのです!」
「魔力で生み出した水を飲むと、腹を下すぞ?」
ティアの言葉を聞いて、ユタとマリーはまた心配な顔をしている。
ティアは人差し指を立てて、自慢げに言う。
「魔力をうまく使うと、飲める水は作れるのです!」
ティアは魔力を操り、空気を冷やす。
二人に分かりやすいように、氷の結晶ができるまで空気を冷やしてみた。
周囲に冷気が漂う。
マリーは目をパチクリさせており、ユタは魔力の流れを目で追っているようだ。
ティアは指を振るい魔力の質を変えて、今度は冷した空間を温め始める。
すると、氷の結晶が溶けて水滴になっていく。
空中に漂う水滴を魔力で操り、ティアは手のひらに水を集めて、にこりと笑う。
「どう?」
辺りに暖かな風が戻ってきた。
ユタとマリーは、空いた口が塞がらないようだ。
ティアは手に掬った水を飲む。
「ほら! 飲めるのです!」
「私も飲んでいい?」
マリーが両手を出すと、ティアが魔力を操り水が集まる。そして、水道の水のように水があふれ落ちてきた。
マリーは手を洗い、その水を掬い、飲む。
「美味しいね」
「よかった!」
それを見ていたユタも同じように水を飲んだ。
「うまいな」
「よかったのです!」
マリーとユタは、互いに目を合わせている。
先にマリーが笑い出す。すぐにユタも笑い始めた。
「ユタ! ティアに会えて良かったね!」
「そうだな! 自分がいかに何も知らなかったことがよく分かった!」
二人はしばらく笑っていた。
よく分からないが、首を傾げながらもティアは悪い気はしないのであった。
「そういえば、二人は何でここにいたのです?」
「星はある程度の星の力を持つと、目覚める時が来るのだ。その目覚めには前触れがある」
ティアの何気ない質問にユタが答えてくれる。
「目覚めの時は声が聞こえてくるのだ。我らは、その声を大いなる意思と呼んでいる」
「大いなる意思?」
「ティアは聞いたことがない? とても美しい声よ。名前を授けてくれるの」
マリーも話に混ざってきた。
「聞こえたことがあるのです」
ティアは、あの永かった暗闇での記憶を遡り、静かに答えた。
ユタの話は続く。
「やはりな……その声で星は目覚めるのだ。目覚めると星の力が輝き出す。我らは輝き出した星へ出向き、降臨の儀式を行い、星は身体を手に入れるのだ」
「なるほどなのです」
「でもね、この星はまだ星の力が輝いていないの」
マリーがそう言うと、マリーとユタは真剣な顔になる。
「みんな夢を見たの。同じ日に。荒れ狂う世界で涙を流しながら強く叫ぶ、透き通るような青い髪の女の子の夢よ」
「不思議なことだ」
マリーとユタは、ティアを見つめる。
「ティアにそっくりだったよ」
ユタが頷いて、話し出す。
「かなり昔から、預言者はこの星はすでに目覚めていると言っていた。何度か調べには来たが、何も収穫はなくてな」
「で! 私たちが調べに来たのよ」
「雲に覆われた荒れ狂う風と酸の海の星。夢はこの星に似ていたからな。しかし、来てみると風がずいぶんと穏やかになっていたな。そして、昨日の夜の、凄まじい風とあの雷だ」
「ずいぶん遠くからでも見えたのよ。キレイだったのよ? ちょっと怖かったけど」
ティアは昨日の夜のことを思い出した。
「それ! 私がやっちゃったかもなのです」
「「え?」」
マリーとユタが驚いてハモる。
震えるユタ。
「雲が薄くなったのは、ティアの力なのか?」
「そうなのです! 雲を散らそうと思ったのです!」
唖然とする二人。
しばらくして、マリーがユタをゆっくりと見て言う。
「ユタ様も、形無しね」
ユタは大きな口を開けたまま、固まってしまったのであった。
三人は水の小島の上。
穏やかな風が、三人のいる場所を申し訳なさそうに通り過ぎていった。




