第12話 褒められて
小さな身体のティア。
青色の腰下まで伸びるさらりとした髪。
背中には輝く翼が、光の加減によって透き通って見える。
ティアの目の前には、肩まで伸びるふわりとした金色の髪の女の子がいる。
私たちは、空に浮かんでいる。
「私はマリー。君の名前は?」
女の子が優しく話しかけてきた。
ティアは、とびきりの笑顔で自分に指を差して答える。
「ティア!」
やばいのです!
嬉しすぎて舞い上がっちゃうのです!
この人のために何でもしちゃう気分なのです!
女の子の可愛らしい顔が笑顔に変わる。
う! まぶしい!
なんなんだその顔は!
かわいすぎるのです!
マリー! マリーか!
素敵な名前なのです!
「ティア! とても可愛いね」
ティアのほっぺにマリーの指がつんと触れる。
ティアは硬直する。
え? なんて言ったのです?
私のことを、かわいいと言ったのです?
ほめられたのです?
小さなティアの顔が紅く染まっていく。
ほめられた!
ほめられたのです!
あぁ! なんて幸せなのです!
ティアの感情が荒ぶっていく。
少し離れた所の燃える世界から、大きな爆発音が聞こえた。
「お、おい! また星の力が騒ぎ始めているぞ!」
マリーの後ろの男性が慌てて叫んでいる。
マリーも少し動揺しているようだ。
「ティア! この星は君の星なの? 心を静めてくれないかな?」
女の子が申し訳なさそうな顔でお願いをしてきている。
ティアは、その表情を見て正気に戻った!
お願いされた!
この人のためなら、なんでもやるのです!
でも、この星は私?
ちょっと意味が分かんないけど、お願いされたとおりに心を落ち着かせるのです!
ティアは、ふぅぅと息を吐いて心を落ち着かせた。
それだけで、燃える世界の爆発がおさまっていく。
空に浮かぶ三人は、落ち着きを取り戻していく燃える世界を見つめていた。
男性が口を開いた。
「この子の力で間違いなさそうだ……な。一体どうなっている?」
男性が振り返り、怖い顔で見つめてきた。
太陽の光を受けて輝く白い髪は男性にしては長く、マリーと同じような白い服を着ているが、露出度が多くて強そうな筋肉が見える。
ティアは思わず身構える。
「ちょっと! 怖い顔しないでよ! 怖がってるでしょ!」
マリーが男性に指を指して言う。
それを聞いて、男性は悲しい顔をしていた。
「あの人はね、ユタっていうの。怖い顔してるけど悪い人じゃないよ」
「はい!」
マリーの言葉に、すぐにティアは手を上げて元気良く返事をした。
もともと何があっても受け入れる気持ちであった。
誰かと一緒にいられるなら、何が起こっても大した問題ではない。
もしも、悪い人たちだとしても孤独でいるよりは随分マシだ。
ティアは嬉しそうに、マリーの言葉を待つ。
「ティアはここで何をしてたの?」
「この世界の探検なのです!」
マリーの質問に元気良く答える。
誰かと話すのが楽しくてしょうがない。
もっと色々話したい気持ちが抑えられない。
ティアは目を輝かせながら、マリーを見つめる。
「この星はまだ酸の星で、生きるのは難しい星だよ。よく無事だったね」
はて? 酸の星?
意味は分からないけど、平気だったのです。
ティアは首を傾げる。
「星の力が守ってくれているようだ。どうやら力を使いこなしているようだが、どういうことなんだ?」
マリーのすぐ後ろから、ユタが難しい顔で話しかけてきた。
このユタって人は悪い人じゃないらしい。
ユタの質問にも答えてあげたいのです。
でも、質問の意味が分からないのです。
ティアがまた首を傾げる。
「ユタ、気持ちは分かるけど、答えを急ぎすぎよ」
ティアの仕草を見たマリーが妙に嬉しそうにユタに言う。
ユタはそれを聞いて、ムッした顔をした。
ティアは二人を見返す。
おぉ! 表情の変化も面白い!
二人は何を考えているのです?
仲良くなりたいから、素直に思ったことを話すのです!
何か問題が起こったら、その時に考えればいいのです。
ティアの頭をマリーが指でなでて言う。
「ティア。いくつか聞いてもいい? 嫌なことは答えなくていいよ」
ティアは勢い良く頷く。
「私たちの言葉が分かる?」
「分かるのです!」
ティアは即答した。
初めて聞く言葉なのに、意味が分かってしまう。
言われてみれば、確かに言葉が分かるのは変だ。
ティアはまた首を傾げる。
「この星がティアだよね?」
この星が私?
質問の意味が分からないのです。
とりあえず、素直に答えるのです。
「質問の意味が分からないのです」
マリーはにこりと笑い、ユタは真剣な顔で話を聞いている。
「いつからこの星にいるの?」
「この星には、つい最近来れたばかりなのです」
「どうやってここに来たの?」
「すごく強い光を探してたら、ここに来れたのです。どうやったのかは分かんないのです」
ティアが答えると、マリーとユタは驚いているようだ。
「誰かに起こされて、目覚めたわけじゃないの?」
「ずっとずっと、ひとりぼっちだったのです。マリーとユタは初めて出会えた、誰かなのです」
マリーとユタが、また驚いている。
ユタが静かに口を開く。
「最初の星」
マリーがその言葉を聞いて、勢い良くユタへ振り返る。
「まだ分からない。可能性の話だ」
ユタの言葉を聞き、マリーはティアに顔を戻す。
「ティア。君の話をもっと聞きたいわ。どこか休める場所を知らないかしら?」
「任せておくのです!」
ティアはにこっと笑うと、水の魔力を操り、その場に水の塊を生み出す。
「二人の大きさに合わせるのです」
ティアは指揮者のように指を振るい魔力を操る。
水の塊がキラキラと輝きながら広がっていく。
空に浮かぶ、半透明の水の小島を作り出した。
ティアは指を立てて、二人に笑いかける。
「これでいいのです?」
魔力で作り出した小島を見ている二人。
マリーとユタは、口を開けて言葉が出ないようだ。
あれ? 驚いてるのです?
何か間違っていたのです?
ちゃんと休めるってことを教えてあげるのです!
ティアは水の小島に降り立ち、翼を閉じる。
「こっちなのです」
ティアはマリーたちに手を振る。
マリーは空をスッと移動して、水の小島にゆっくりと足をつける。
「の、乗れるみたいよ」
マリーとユタはティアを褒めながら、水の小島に腰を下ろした。
ティアは褒められてごきげんだ。
穏やかな風が吹く。
澄み渡る青空にのんびりと雲が流れている。
ティアは笑顔で話しを始めるのであった。




