第11話 声が聞こえる
いくつもの炎の塊が降り注ぐ空。
その中に、巨大な炎の塊が煙を引きながら落下している先にティアはいた。
直撃までは、ほんの僅かな時間しか残されていない。
まずは、瞬時に魔力バリアの出力を高めて、もしもの場合に備える。
ティアの身体を覆う魔力バリアがバチバチと光を放ち始める。
空には風の魔力が多い、風の魔力を操り炎の塊の軌道を変えてみようと決める。
両手を巨大な炎の塊へ向ける。
「風たちよ!」
ティアの言葉とともに、強烈な風の渦が炎の塊へ向かっていく。
巨大な炎の塊が落下速度を緩めた。
「お! いけるのです!」
すると、巨大な火の塊がそれまで以上に勢い良く燃え始めた。
「な、なんでなのです!」
巨大な燃えさかる炎の塊から吹き出した炎が、ティアにかすっていく。
慌てたティアはすぐに冷静さを取り戻す。
次は、水の魔力で巨大な壁を作る。
もう時間がないので魔力効率は無視して、全力を出してみようと考えた。
「おりゃぁぁあ!」
ティアは叫びながら、両手を前に突き出して水の魔力を操った。
熱気を増していた空気が、急激に温度を下げていく。
イメージはあの巨大な炎の塊よりも大きな水の壁だ。
目の前の空間に、キラキラと光が溢れていく。
次の瞬間、目の前に巨大な水の壁が出来上がる。
イメージと少し違ってあまり厚さがないが、高濃度の魔力が凝縮しているのが分かる。
落下する巨大な炎の塊が水の壁がぶつかった。
大きな衝突音とともに、高音のキュイーンとする音が辺りには響き渡る。
凄まじい水蒸気をあげながら、巨大な炎の塊は炎を撒き散らしながら、壁に沿って形を変えていく。
水の壁の強度は充分なようだ。
水の壁の内側には、熱気さえ通していない。
「このまま押し返してやるのです!」
魔力を操り、巨大な水の壁を前に突き出す。
「どぉおりゃぁぁあ!」
大した抵抗もなく、巨大な炎の塊を押し返していく。
炎の塊と水の壁が触れた場所は、いたるところで爆発するように炎が弾け飛んでいる。
炎の塊を海へ落とそうと、水の壁の角度を変えると壁に沿って炎の塊が落ちていく。
そのまま海に落下した炎の塊は、爆音と水蒸気をあげながら海中に沈んでいった。
その後は、飛来する火の玉がいくつかあったが、翼で空を飛び簡単に避けることができた。
回避行動をとりながら、飛来する炎たちはどこからかと探すと、燃える世界の広さが大きくなっていた。
前に見たときの三倍ほどの広さだ。
空からの見下ろしているため、それでも全体も見渡せるほどの広さである。
ティアは近くの上空まで飛び、観察をする。
その中心はドロドロとした炎で埋め尽くされており、そこから炎の塊が吹き出していたようだ。
ピークは過ぎたのか、炎の塊は溢れ出すぐらいの勢いだ。
「海底に何かあるのかな?」
ティアの探索魂に火がつきそうになった、その時。
「凄まじい力だな」
「こんなこと、ありえないよ」
誰かの声がした。
その声は上空からだ。
ティアは慌てて上空を探すと、そこには2人の人が空に浮かんでいた。
男性と女の子だ。
「あの子がやったのかな?」
「そうだろう。凄まじい魔力量を感じるぞ。気をつけろ」
女の子の質問に男性が答えている。
ティアは固まってしまった。
ティアの目に涙が溢れてくる。
そんなティアを見て、男性が素早く身構え叫ぶ。
「信じられん! こんな魔力は感じたことがないぞ! 暴走しているのか!」
ティアは感情を抑えることができないようだ。
「うわぁぁぁああぁぁぁん!」
ティアの大粒の涙が、頬を伝わり落ちていく。
女の子が空を緩やかに移動して、ティアに近づいていく。
それを見て、慌てる男性。
「おい! 何をやっている!」
女の子は男性に振り返り、微笑みながら言う。
「大丈夫。この子に悪意は感じないわ」
女の子はティアへ顔を向ける。
「泣いているじゃない? 何か困ってるのよ。助けてあげないと」
女の子の優しい声を聞いて、ティアは顔を上げる。
「私たちは敵じゃないよ」
女の子は微笑みながら、ティアに話しかけてきた。
騙されてもいい。
利用されてもいい。
もう死んだっていい。
ティアはそう心に決めた。
ティアは翼を羽ばたかせ、女の子にゆっくりと近づいていく。
ティアに比べると女の子は大きいが見た目は少女だ。
ふわりとした肩まで伸びる金髪が、とても良く似合っている。白い上品な服でスカートが素敵だ。
そんな服装もティアには喜びの涙でよく見えていない。
ティアに向かって、女の子が両手を広げて言う。
「おいで」
ティアはゆっくりと女の子の人差し指に触れる。
指の、手の、人の温かさ。
寂しくて寂しくて、いつの日か諦めてしまっていた誰かとの出会い。
まさに永遠といえるほどの時間を、孤独に過ごしてきた。
ようやく出会えた。
ティアの涙は止まらない。
心が震えている。
ティアの手を、女の子が指先で優しくなでる。
「お、おい! 星が! この星の力が動き出したぞ!」
いつの間にかに、女の子の後ろにいた男性が慌てている。
「一体どういうことなんだ! まさか!? この子がこの星なのか!」
男性が驚愕とした表情でティアを見ている。
女の子は男性を無視して、ティアに優しく話しかけてきた。
「大丈夫だよ。何もしないよ」
ティアの涙に濡れた頬を、女の子は優しく指先で拭いてくれた。
ティアは他人の優しさに触れ、さらに感動してしまう。
ティア本体の意識も感動しているが、疲労感を探る意識が警鐘を知らせてきた。
疲労感の数値が急激に減っている。
ここで意識を失うのは嫌だ。
現状の確認をしなきゃなのです。
原因を探そうと意識を見渡すと、数を数える意識が思考の隅に映る。
1カウントずつ増えていく数字を見ると、自然と心が落ち着いてきた。
震える大気。
星自体が鼓動しているような気がする。
淡々と数字のカウントは進んでいく。
鼓動はゆっくりとなり、大気の振動はなくなっていく。
小さなティアの涙は止まった。
視界が正常を取り戻す。
美しい金髪の可愛らしい女の子の顔がよく見える。
女の子は、優しく微笑みかけてくれている。
小さなティアは震えながら口を開く。
「会いたかったのです」
素直な気持ちを言葉にした。
女の子は、微笑んだまま優しい声で返事をくれた。
「私も、君に会えて嬉しいよ」
小さなティアはとびきりの笑顔になり、女の子の胸に飛び込んだ。
女の子は手のひらで優しく身体を包んでくれる。
数を数える意識のカウントが進んでいく。
75620087130984156
何度も数え直したことかあるが、きっと誤差だろう。
七京五千六百二十兆八百七十一億……
地球の年月に換算すると、およそ24億年。
ティアが数を数え始めてから、24億年以上が経っている。
誰かに会いたい。
ようやくティアの願いが叶ったのであった。




