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底辺へようこそ!【旧:頑張れ!毎日投稿!!】  作者: 冬空
鬱なる世界にお別れを(作者イチオシ)
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閑話 手料理

以前投稿した、アホの子ノーアの改訂版。

改訂版とは付くけど、内容はほぼ別物。

「今日は私が作ってみても良いかしら?」

「料理したことがあるのか?」

「無いわ。それでもハリーのために料理を作りたいの。申し訳ないけれど、作り方を教えてくれないかしら?」


夜、私はハリーに願い出た。

何もせず、ただおんぶされているだけなのはハリーが良くても、私が許せない。

だからせめて、料理でハリーを喜ばせて上げたいと思ったの。

その為に手を借りるのは本末転倒な気がするけれど、気にしたら負けよ。

意気込む私にハリーは笑う。


「良いぜ。この俺がみっちりと作り方を教えてやろうじゃねぇか」

「お、お手柔らかに頼むわ……」


なんだか猛獣に睨まれた気分ね。

もしかして、あの時のこと根に持っているのかしら?

そんなことはないと願いたいけれど、獰猛に笑うハリーを見て否定しきれない。

ビクビクと怯える私の前に置かれる食材。

後ろに回ったハリーが私の手に自らの手を重ねてくる。

たったそれだけことなのに、鼓動が早くなる。


「それじゃあ、包丁を持って切ろうか?」

「ええええぇ!」


ぶるぶると震える手。

耳朶を打つハリーの声に顔が赤くなる。

なにコレなにコレなにコレなにコレェ!?

料理を習う筈が、全然集中できない。

あまりの羞恥に股を擦り合わせる。


「おいおい、震えてちゃあ、食材切れないぜ?」

「分かってるわ……!!」


貴女が色仕掛けするのが悪いのよ!

そう思うのに、もっと仕掛けて欲しいと願う私が居る。

変態染みたその願いを鋼のメンタルでグッと心の底に押し込む。

これでもう大丈夫……なはず!

震える手で包丁を持った私はまな板に置かれた食材に刃を当てるのだけれど、震えるせいで力が入らない。

落ち着くこうとするのに、ハリーが居るせいで落ち着けない。

悪戦苦闘する私の手に異なる力が加わる。

ハリーの手だ。

私の震えを抑え、足りない力を補うことであっさりと食材が切れる。

サクリと切れた食材はハリーによって操られた私の手によって避けられ、また新たに食材を切って行く。


「こういう感じにやるんだ。出来るか?」

「えぇ、当たり前じゃない」


興奮は落ち着いていた。

興味の矛先が初めてする料理に向けられたためだ。

先程の切り方を思い返しながら食材を切る。

サクリと音を立て、まな板に触れる。

たったそれだけのことが楽しくて、気が付けば全ての食材を切り終えていた。


「じゃあ、次だ。この鍋の中に食材を入れろ」

「分かったわ。入れる順番はあるのかしら?」

「んなもん無い。好きなように入れろ」


それで良いの?と思うけれど、ハリーが言うのならそうなのでしょう。

それでも火の通りにくそうな食材から先に入れて水を注ぐ。


「そしたら焚き火の上に置いて茹でるだけだ」


火力が高過ぎないかと、直接火に置いて良いのかと思うけれど、ハリーが言うのならきっと大丈夫。

それに、何度かそれで料理をしてるのも見ているもの。

なんだかハリー専用のイエスマンにでもなった気分。

それを悪くないと思ってしまう辺り、私は駄目かも知れない。

煮立ち、アクが浮いてくる。


「アクは取った方が良いわよね?」

「アク?なんだそれゃ?」

「え?アクを知らないの?」

「悪いか?」


不機嫌そうにそっぽを向くハリー。

私は今、どんな表情を浮かべているのだろう。

思い出すは時たま出されるスープの味。

えぐ味が気になっていたのだけれど、それはきっと私の舌が肥え過ぎただけ。

平民として暮らすにはこの味にも慣れないと、そう思って飲んでいたのに、まさかのアクを抜いていなかっただけなんて。

沸々と湧く怒り。

作ってもらって怒るのはお門違いとは思いながらも、言わずにはいられなかった。

初めてかも知れない、人にアク抜きの大事さを説くことになるなんて。

全てを聞き終えたハリーは頭を掻く。


「つまりは不味くなるってことで良いか?」

「端的に言えばそうね」

「悪いな、不味い料理を食わせちまって。俺ぁ、誰にも料理を教えてもらったことがなくてな」

「っ!?私の方こそ、ごめんなさい。ハリーの料理に文句を言ってしまって……」


一瞬浮かべた悲しげな瞳。

ハッとなって謝るけれど、後悔後先立たず。

してしまったことは変わらない。

頭を下げて謝る私の頭上でハリーが溜め息を吐く。

ビクリと震える体、何を言われるか怖かった。

怯える私にハリーは言う。


「気にすんなよ。ノーアが悪い訳じゃない。悪いのは―――」

「ハ、リー……?」


誰かの名をボソリと呟くハリー。

恨みの感じられる声に顔を上げる。

ハリーはとても暗い顔を浮かべていた。

思い出したくもない何かを思い出して顔を暗く染めていたのだ。


「何でもない。それより、アクを取らなきゃだろ?」

「え、えぇ、そうね」


誤魔化されたその先の言葉。

そこにあるのはいったいどんな言葉で、感情なのだろう。

疑問に思うも、触れるのを恐れて聞けなかった。

ハリーに促されるままアクを抜き、火が完全に通るのを待って火から離す。

湯気が立つその鍋を覗けば、肉多めのスープの出来上がり。

初めて作った手料理に私は思わず歓喜の声を上げる。


「凄い!とっても美味しそうよ!!」

「これゃあ、旨そうだ。さっそく食べても良いか?」

「ええ!私が装うから待っててちょうだい!」


張り切る私にハリーは苦笑する。

そこに、先程までの暗い表情はなかった。

私はそのことにホッと安堵しつつ、器にスープを装い最後にスプーンを添えてハリーに渡す。


「どうぞ。ハリーが最初に食べて」

「良いのか?ノーアから先に食べても良いんだぞ?」


私は首を振る。


「良いのよ。私の最初はハリーであって欲しいの」


料理に限らず、色んなことを。

口にはしなかったけれど、ハリーに伝わったと思う。

ハリーは恥ずかしげに頬を掻きながら、そうかと言ってスープを飲む。


「旨いな……」


思わずと言った様子で漏れ出た一言。

シンプルな感想。

けれど、私にはそれだけで十分だった。

ハリーの浮かべる柔らかい笑み。

その表情は語っていた。

こんな旨いもんがあるのかと、こんなに温まる料理があるのかと、ハリーの表情は語っていたの。

幸せそうに食べるハリーを見て、気が付けば私は満面の笑みを浮かべていた。

私の方こそ、ハリーのお陰で色々なことを知れた。

ハリーと出会わなければ知ることのなかったことよ。

私の方こそお礼を言わせて欲しいの。

私は貴女に会えて――


「良かった」

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