一時の幸せ
「ごめんなさい」
「気にすんな。俺の方こそ悪いな、無理させちまって」
「いいえ、ハリーは悪くないわ。意地を張ってしまった私が悪いの」
私は今、ハリーにおぶられている。
理由は足の筋肉痛。
慣れない長距離に足が疲弊してしまったの。
ハリーに身を預けながら思い出すは昨日のこと。
長距離の歩きに疲れて座った時に感じた足の痺れ。
その時は疲れ過ぎただけ、寝れば治ると思って起きたらこれよ。
申し訳なさからハリーの服を掴む手に力が籠る。
逃亡を始めてから早数日、未だに追手は来ない。
その事実にホッと安堵すると同時、もっと遠くに逃げなければと思うの。
その為なら多少の無理もしなきゃと頑張った結果が逆に遠回りになってしまうなんて……。
「無理すんなよ。謝る必要もないし、求めてもいないからな。今はただゆっくり休め」
「ありがとう」
ハリーの優しさが心に染みる。
迷惑を掛けていると言うのに気遣えるなんて、やっぱり優しいと思うわ。
だからこそ、申し訳なさが強くなるのだけれど。
ハリーの肩に顔を埋める。
くすぐったそうに笑うハリー。
こんな状況にも関わらず、私はちょっとだけ嬉しさを感じていた。
ハリーの鼓動を、体温を、匂いを間近で感じられるこの状況に。
とても安らぐの。
ハリーを感じるだけで体と精神の疲れが取れて行く。
こんな気持ち初めてよ。
まったく、ハリーはとても罪深い人ね。
私、もうハリーが居ない人生なんて考えられなくなっているんだから。
「責任、取ってよね」
「うひゃ!?」
「あら?とても可愛い声ね、ハリー?」
ちょっとした意趣返しで囁いてみたのだけれど、予想もしない可愛らしい悲鳴に驚いてしまう。
「おまっ!?落としたらどうするんだよ!?良いのか!?落としても!?」
「ふふ、ごめんなさい。つい、悪戯してみたくなったのよ」
顔を真っ赤に染めて怒鳴るハリーはそう言いながらも未だにしっかりと私を抱えてくれている。
そこに優しさを感じるのだけれど、それを指摘したら下ろされてしまうかしら?
少しだけ興味を惹かれる案に蓋をする。
言ったところで認めないだろうし、今下ろされるのは困るもの。
「はぁ……今、逃亡中だって分かってんのかよ」
「分かっているわ。それで無茶をしてしまったもの」
「なら、もう少し大人しくしていろ。俺の気が休まらねぇ」
そう言って再び溜め息を吐くハリー。
未だ赤みの残るその顔を眺めて思うは一つ。
色気が凄まじいわ。
ただ横目に見ているだけだと言うのに、ハリーの放つ色気に私まで顔が赤くなってしまう。
それに、ピタリと顔をくっつけてしまったばかりに間近に感じるハリーの声。
落ち着きのあるその声が耳朶を打ち、背筋がゾクゾクとする。
色気の塊と言っても過言ではない。
これで恋人が居たためしがないと言うのだから世の中は不思議よ。
でも、良かった。
ハリーがまだ、誰の物ではないという事実に私はホッと安堵を吐くの。
こんな考えはいけないと思うけれど、ハリーを一人占めしたい独占欲が邪魔をする。
ハリーの色々な表情を私だけが知っていたと思ってしまうの。
サリアの言った通り、私はとても悪い子ね。
自嘲から笑ってしまう。
それがハリーの首筋を擽ってしまったみたいで、また可愛らしい悲鳴を上げて怒るハリー。
ごめんなさい、と謝りながらも私は笑う。
辛くも慣れない生活ではあるけれど、ハリーが居るだけで楽しかった。
私とハリーだけの思い出が増えて行く。
それが嬉しかった。
見たことのない景色、見たことのない動物。
色んな知らないをハリーと一緒に知ることが嬉しかった。
この生活が、ハリーと一緒に居られるこの生活がずっと続けば良いと願う。
ただそれだけなのに……。
後もう少し……!




