迷走中、迷走中。こちらは迷子センターです。
もぉ、やだぁ……!自分のこだわりの強さに嫌気が差す。
途中までは良いんだよ?途中までは!
そこがどうにも気に入らないらしくて、ずっとやり直せって言い続けてる!
はぁ………気が狂いそう。
足音が聞こえる。
この時間に、この部屋に来る者は限られている中で、果たしてその音はいったい誰の物か。
サリアの物ではないわ。
サリアならノックをする筈だもの。
なら、後は誰か。
考えるまでもなかった。
疼く歓喜を噛み殺して顔を上げる。
「よぉ、今日も会いに来たぜ」
「えぇ、待っていたわ」
ずっと。
声には出さず、心の中で付け足す。
昨日ぶりに見たハリーはとても輝いて見えたわ。
ハリーの周りだけ一層輝いて、鮮やかに見えるの。
ドクンと一層早く鳴る鼓動。
嬉しいと、会いたかったと叫ぶ心。
心が歓喜に染まり、ポカポカと温かくなる。
これが恋。
誰かを好きになる気持ち。
私はその音に耳を傾けながら、ハリーを見上げる。
「昨日の返事をしても良いかしら?」
「良いぜ。聞かせてくれよ、ノーアの答えを」
ニヒルに笑う。
それだけでカッコいいと思ってしまうのだから、恋とは厄介ね。
自然と浮かべる笑み。
フワリと優しい笑みをきっと私は浮かべている。
見えなくても分かるの。
それに、ほら。
目を開き、顔を僅かに赤く染めるハリーを見たら魅入られているのがバレバレよ。
ハリーのそんな表情は初めて見たけれど、色気が増して此方の方が赤くなっちゃいそう。
そうしたらお揃いね。
思わずクスリと笑う。
「私は貴女と行きたいわ、ハリー。どうか私を外に連れ出して」
「今、俺の名前を……」
初めてちゃんと名を呼んだ。
ハリーは大きく目を見開く。
先程までの羞恥は何処かに行ってしまったみたい。
少しばかり残念ね。
もう少し後に言えば良かったと後悔する。
「それで、ハリーの返事はどうかしら?」
分かっているのに私は問い掛ける。
次に答えるのは貴女の番。
言外に私はハリーに伝える。
貴女の声で聞きたかった。
貴女の声で言って欲しかった。
さぁ、早くその答えを聞かせて。
「決まっているだろう?俺ぁ約束を果たす男だ。良いぜ、ここから連れ出してやるよ」
「女なのに何を言ってるのかしら?」
「おい!せっかく俺が連れ出してやるって言ってんだぞ!?茶々を入れるんじゃねぇ!」
可笑しい。
あぁ、可笑しい。
嬉しくて嬉しくて堪らない。
私が望んだ答えをハリー、貴女は言ってくれる。
それだけでとても嬉しかったの。
何もかも自由に行かない人生でそれがどれだけ嬉しいことなのか、ハリーは分からないかも知れない。
けれど、それで良いの。
ハリーには打算で付き合って欲しくないの。
私の茶々に文句を溢すハリーに私は近付く。
私よりも身長の高いハリーを見上げて言うの。
「ありがとう。私を助けようとしてくれて」
「……気にすんな。俺は俺のためにノーアを救う。ただそれだけだ」
「そう、優しいのね」
たったそれだけの為に、果たしてどれだけの人が行動できるというのかしら。
ハリーはその凄さを理解していない。
これでも私、公爵令嬢よ?
それも厳重に守られたお姫様を救おうなんて、それこそ勇者だけ。
かつて望み、諦めた存在が目の前に居る。
立派な鎧も剣も、ましてや性別すら違うけれど、間違いなくハリーは私にとっての勇者だ。
手を伸ばす。
檻に囚われた姫様が鉄格子越しに勇者に触れるように、私はハリーに触れた。
「ねぇ、私を――」
「お嬢様。どちらに行かれるつもりですか」
「「ッ!?」」
突如として混じる第3者の声。
驚く私とハリー。
それに、この声はまさか……!
気のせいであって欲しかった。
聞き間違えであって欲しかった。
そう願うのに、現実は何処までも残酷だった。
「どうして、ここに……サリア」
「お嬢様こそ、どうして賊と密会をしているのでしょうか?その理由を説明していただけますね?」
「それは……」
無なる貌で問う、その声に私は声を詰まらせる。
何と答えたら良いのだろう。
どう説明したら良いのだろう。
正解が分からず瞳を彷徨わせる。
何も答えない私からサリアはハリーへと標的を変え、問う。
「そこの賊、お嬢様を誑かす貴女は何者ですか?」
「俺かぁ?俺はただの悪たれさ。あんたの言ったように誑かしに来たんだよ」
「違うわ!貴女は私を助けようとしてくれたのよ!!」
気が付けば叫んでいた。
自らを悪党と嘯くハリーを否定したくて。
貴女は悪党なんかじゃない。
とても優しい人よ。
そう叫ぶ私を見てハリーは肩を竦めるだけ。
どうして分かってくれないの!
どうして気持ちが伝わらないの!!
行き場のない怒りの矛先を求めて心が暴れる。
「お嬢様?聞いておられますか?―――お嬢様!!」
「ひゃい!!」
サリアの一喝に背が伸びる。
怒りが霧散し、心に生まれるは恐怖。
体を震わせながらサリアを見れば呆れていた。
溜め息を吐いて、やれやれとばかりに首を振っていた。
「お嬢様がまさかこんなに感情的になるなんて……」
「お、怒ってるかしら……?」
恐る恐る問えば、サリアはフッと笑う。
「いいえ、逆に懐かしくあります。昔のお嬢様もこんな風に子供らしかったと」
「それは私が子供っぽいと言うの?」
サリアはどうでしょう、と答えをはぐらかす。
思わずムッとなってしまう。
私はそんな子供っぽくはないと、そう訴えるのに肯定してくれない。
気が付けば恐怖は消えていた。
それどころかサリアに詰め寄る余裕さえある程だ。
さぁ、早く肯定して頷くのよ。
私は間違っておりました。お嬢様が正しかったですって。
さぁ、さぁさぁさぁ――。
「仲良いなぁ、あんたら」
後もう少しでサリアから言質を取れるというタイミングでハリーが話し掛けてくる。
邪魔が入ったと思わず頬を膨らませてしまうけれど、懐かしげに此方を見るハリーに私は魅入られてしまう。
どうしてそんな顔をするの?
誰を思い浮かべているの?
気になるのに聞けない。
踏み込むのが怖かったの。
それを聞いて嫌われたらどうしよう、一緒に行けなくなったらどうしようて、考えるだけで怖くなるの。
だから、私はその疑問を見なかったことにして口を開く。
「当然よ。サリアは私の幼い頃からずっと一緒に居たんだから」
「そうかよ。大事にするんだぞ?」
「………えぇ、当たり前じゃない」
一瞬浮かべた悲しげな笑み。
もう取り戻せない何かを思い出して悲しげに浮かべていた。
それを見て悟れないほど鈍感ではないわ。
ハリーはたぶん、大事な人を失くした。
それもハリーにとって、とても大事な人が。
心が痛かった。
どうしてハリーから奪ってしまったのだと、世界に訴えたいほどに。
私がもし、サリアを亡くしたらその喪失はいったいどれ程のものか。
考えただけで恐怖するの。
共感を求めていないのは分かっている。
それでも、何もせずにはいられなかった。
私はハリーに抱き付く。
「サリアだけじゃなくて、貴女も大事な人よ。私にとって掛け替えのない存在。大好きよ、ハリー」
「ばっ!?」
言うのならここだと思ったの。
落ち込むハリーの気持ちを変えるにはこれが最適だと。
その予想は当たる。
驚き、目を見開くハリーの瞳に負の感情はなかった。
純粋な驚きと羞恥のみが存在したの。
その事に私はホッと安堵する。
ハリーに悲しい表情は似合わないと思うし、いつものように笑っていて欲しかった。
「私は何を見せられているのでしょうか………はぁ。お嬢様、本当に外へと行くつもりですか?」
「えぇ、私は決めたの。ハリーと一緒に行くって」
「危険を承知の上で、覚悟の上で行かれるという事ですね?」
「当たり前じゃない」
覚悟を問うサリアに私は目を逸らさず答える。
危険がないなんて思えるほど、頭がお花畑じゃないわ。
もし、危険なんてなければ監禁なんて不要ですもの。
けれど、危険を、未知を恐れていては運命は変わらない。
私は運命を変えたい。
定められたレールを外れて自由に生きたいの。
それにね、サリア。
私は1人じゃないわ。
ハリーと、好きな人と一緒に居られるの。
それだけで、どんなに辛いことでも乗り越えられる。
だから、安心して。
そう言って笑いかければサリアは溜め息を吐く。
「何を言っても無駄ですか」
「ふふ、私は意外と頑固なのよ?」
「はい、それは十分な程に理解しました。お嬢様が頑固で、逆に私の方が折れてしまいそうです」
「なら、早く諦めて折れることね」
「悪い子になられましたね」
残念とでも言いたげだけれど、口は笑ってるわよ。
全然悲しいそうじゃないじゃない。
このやり取りも後僅か、分かるだけにもう少し長く話していたかった。
けれど、そんな私の願いはサリアによって砕かれてしまう。
「お嬢様、このサリアにも手伝わせていただけませんか?」
「それだとサリアが……」
「良いんです。私は今までお嬢様の状況を見ていることしか出来ませんでした。最後くらい、 助力したいのです」
「サリア……」
覚悟の決まった顔。
そんな顔で言われてしまえば何も言えないじゃない。
サリアも頑固なところがある。
もしかしたら、私の頑固さはサリア譲りなのかしら?
ふとそんな事を思ってしまうけれど、もうそうなら嬉しい。
あんな親じゃなく、サリアに似ることが出来て私は嬉しさを感じたの。
「じゃあ、お願いするわね。私達を無事に外まで案内してちょうだい」
「承知致しました。このサリアにお任せください」
こだわりさんとのやり取り
ワシ「あれで完成で良いじゃん。他がレベチなだけで、あれも中々良い出来だと思うよ?」
こだわりさん「やり直せ」
ワシ「いや、これ以上やっても出来ないって分かってるだろ?」
こだわりさん「やり直せ」
ワシ「気が狂いそうなワシの気持ち考えてよ。あんさのせいで没になったの幾つあると思ってる?」
こだわりさん「やり直せ」
ワシ「いや、だから」
こだわりさん「やり直せ」
ワシ「………はい」




