恋するお嬢様 改訂版その一
スランプ脱却用。
覚醒モードが完全に切れた。
もう少し短くしたいんでやり直し対象。
夜、私は本を読んでいた。
私にしては珍しく恋愛物だ。
ヒーローとヒロインが出会って恋に落ちる王道物。
今までは読んでも辛くなるだけと、読む機会はなかったけれど考えが変わったの。
正しくは心の変化。
恋と言う物を知ったが故の変化だった。
終盤まで読み進めたタイミングで聞こえる足音。
私は顔を上げる。
そこに居るは待ち人のハリー、いつも通りの格好で私の前に立っていた。
「会いたかったわ」
「珍しいな、ノーアが会いたがるなんて。いつもは素っ気ない反応をするだろう?」
「そうね。でも、気が変わったの。今日は早く貴女に会いたくて堪らなかったわ」
取り繕うまでもなく私は本音で答える。
予想もしていなかった反応にハリーは目を開き驚く様子を見せた。
私はクスリと笑う。
可愛らしい反応だと思ったの。
「おいおい、変わりすぎだろ。そんなに昨日の誘いが魅力的だったか?」
「えぇ、あんな魅力的な誘いをされたんですもの。乗らない手はないわ」
「たった1日で人がこうも変わるのかよ。俺ぁ、少し怖くなっちまうぞ」
全然怖がってないくせに。
言葉とは裏腹に首を竦めるだけ。
それの何処が怖がっているというのかしら?
嘯くのならもう少しまともな事を言いなさいよ。
呆れ、次いで浮かぶは笑みと喜色。
それがとってもハリーらしいと思ったの。
ふと顔を覗かせる悪戯心。
悪魔の囁きだ。その内容を聞いて私は興味を惹かれた。
私の頭と尻に角と尻尾が生える。
それはただのイメージ、私だけの妄想。
小悪魔になった気分でハリーに言うの。
「ねぇ、私、貴女のことが好きよ。付き合ってくれないかしら?」
「は?」
呆然と声を発するハリー。
どうやら理解が追い付いていないみたい。
予想通りの反応に私は口元に手を宛てがい笑う。
「貴女のせいで私、とっても変になってしまったの。責任取ってくれるわよね?」
「ちょ!ちょっと待て!!いきなり告白されても困る!!頭を整理させてくれ!!!」
やっと理解が追い付いたかと思えば頭を抱えて蹲るハリー。
ブツブツと呟くハリーの背後に私はひっそりと移動する。
疼く好奇心を抑え、ハリーの耳元にソッと顔を寄せ囁く。
「大好きよ、“ハリー”」
世界で一番。
ハリーの顔が真っ赤に染まる。
ボン!っと音でも鳴った勢いで赤く染まるの。
私は我慢しきれなくて笑ったわ。
腹を抱えて笑うということをこの時理解したの。
また、ハリーに教えてもらった。
その事実が堪らなく嬉しくて、幸せで、笑みが止まらない。
コツンと頭を小突かれる。
咄嗟に両手で頭を抑えてハリーを見上げると、呆れた溜め息を吐いていた。
角と尻尾が消える。
今更になって嫌われたのではないかと不安になる。
僅かに潤む瞳、不安げ揺れる瞳で見上げる私にハリーは言うの。
「驚いたじゃねぇか、あんましやんなよ。で、返事の答えだがオーケーだ。良いぜ、この俺が責任を取ってやるよ」
イケメン!
思わずぼうっと見てしまう。
好き、大好き。
そんな陳皮な言葉が胸を埋め尽くす。
そんなこと言われたらもっと好きになっちゃう。
キザな笑みを浮かべるハリーに私はメロメロ。
ハリーが格好良く見えて仕方ない。
心臓が煩かった。
吐息に熱が混じり、体が熱を帯びる。
これ以上ハリーを見たら新たな扉を開いてしまうそう。
咄嗟に顔を逸らして心を落ち着けようとするのだけれど、ハリーの顔が離れない。
一瞬、フラりとなって倒れかける。
「大丈夫か!?」
ここに来て追い討ち!?
ハリーに優しく抱き締められた私は手で熱を測られる。
今だけは止めて欲しかった。
ハリーの体のあちらこちらが私に触れるの。
お腹周りのガッシリとした筋肉とか、胸の柔らかさとか、色々と今の私には毒でしかない。
鼓動が早まる。
このままでは不味いと逃れようとするのに、逆に強く抱き締められてしまう。
「おい、凄い熱だぞ?体調崩してるのなら横になってろ。わざわざ俺を待つ必要はないからな?」
「ち、違うの………!!」
ハリーが離れてくれればそれだけで解決するの!
そう言いたいのに高まる心臓に上手く声を発せなくて、気が付けば私はお姫様抱っこされていた。
頭が真っ白になる。
あまりの驚きに一周回って冷静になった。
ゆっくりと心臓が落ち着いて行く。
ハリーの腕を軽く叩く。
「降ろしてくれないかしら?」
「駄目だ。ベットに連れて行くから大人しくしていろ」
「分かったわよ……」
真剣な瞳で言われてしまえば何も言えないじゃない。
これが惚れた者の弱み。
私は溜め息を吐くフリをして堪能する。
冷静になったとは言え、下心を失くした訳じゃない。
逆に冷静になったからこそ、楽しめる内に楽しんでおこうとすら思う程よ。
この時間がずっと続けば良いのに。
視界に入るベットを見て今度こそ溜め息を吐く。
布団が寄せられたベットの中に私が置かれる。
それも丁寧に靴を脱がせ、最後に布団を被せるという徹底振り。
細かい気配りに私は感心した。
ガサツに見えるハリーにこんな一面があるなんて。
「今日はこのまま寝とけ。続きは明日すれば良いからな」
今日はもう帰る。
そう言って去ろうとするハリーの手を掴む。
まだ話していたかった。
会うのを楽しみにして、今日一緒に行きたかったのに。
「行かないで」
気が付けば口にしていた。
まだ帰らないで欲しいと訴える私にハリーは頭を掻く。
怒られるのかしら、嫌われたのかしら、不安が顔を覗かせる。
緊張で汗ばむ。
ハリーが口を開きかけたのを見て、咄嗟に目を瞑る。
何を言われるのか怖かった。
どうか外れて欲しいと願う私。
口を開いたハリーは言う。
「ノーアが寝るまで俺が側に居てやる。だから、手ぇ離せ」
「本当に?」
「本当だ。だから、安心しろ」
「分かったわ」
手を離すのは寂しかったけれど、約束を取り付けることが出来た。
それが嬉しかった。
いつもより長くハリーと一緒に居られることが嬉しかったの。
ハリーは近くにあった椅子を持って来て座る。
がに股座りだ。
パンツとか色々見えてしまうのだけれど、平気なのだろうか?
この程度の事でハリーが顔を赤くするイメージがないけれど、疑問に思う。
「ねぇ、その座り方で気にならないの?色々と見えてしまってるけれど」
「ん?あぁ、気になんねぇよ。酷い時は真っ裸だからな」
真っ裸で過ごす。
ハリーならあり得そうだと、嫌な信頼が勝る。
それで襲われないのかと疑問に思うけれど、撃退してそうな姿が簡単に想像できてしまう。
これには呆れるべきか悩む。
「そんなことより、だ。調子が悪い時は寝るのが一番だ。手を繋いでてやるから目を瞑れ」
もう少し話していたと言うのだけれど、寝ろの一点張りで譲り気がないみたい。
私は諦めて目を瞑る。
無論、手は繋いで。
そんな簡単に眠るものかと、ハリーの体温を感じていたいと願うのに意識が闇へと落ちて行く。
まだ駄目と踏ん張るけれど、絶壁から落ちるように崩れた岩と共に落ち、深い眠りへと着いたのだった。




