ドS女と狂人の逃走劇。リテイク
真面目バージョン。
日本をも巻き込んだ戦争が起こった現代にて、数を補うべく少年兵が幾人も出兵し死んで行く。
彼――朝比奈 傑もまた少年兵として敵国へと連れて行かれた者の1人であった。
一言で言えば地獄。銃弾が、悲鳴が、そして血が飛び交う戦場で理性など保てない。保つと言う余裕もない戦場で理性を保つなど強靭なメンタルを持っていなければ不可能であった。
ただの凡人に過ぎない彼に強靭なメンタルがある訳がなく、当然のように狂う。
それは不幸であり、幸運だ。
もうこれ以上、考えることもなく突撃すれば良いだけだ。
ただただ叫び続け、敵兵を殺し、恐怖を振り撒く。
そう考えれば狂うのは何も悪くない。自らの命を持って失われるはずだった味方の命を救うことが出来るのだ。
それはとても嬉しいこと。狂いながらにそう考えた彼は突撃をする。
命を擲つ覚悟で敵兵を殺し続けた彼はしかし――――死ぬことは出来なかった。
戦争は終結。
戦地で功績を上げた彼は名誉を賜るが、彼の心は満たされることはない。
日常へと戻れ。上官が最後に命令した言葉だ。
仲間は大いに喜んだが、やはり彼の心は満ちることはないし、響かない。
何も考えず、流れに身を任せるまま歩いた先で彼は出会う。
透き通った銀髪に、優しげな顔。
整ったルックスを持つ彼女を目にした彼は思った。
(これは果たして現実なのか?僕が見ている幻なのではないか?)
正直に言えば、どちらでも良かった。
彼は心の中で思う。例えそれが幻だとしても、目の前に居る。
彼の心に、瞳に、火が宿る。
(あぁ、彼女なら叶えてくれるだろうか)
友を失い、命を奪い、人として壊れた己を彼女なら受け入れてくれるのかと。
気が付けば彼は近付いていた。
一歩。また一歩と、幽鬼の如くフラフラと歩く。
気が付けば彼女の前に立っていた。
「なんですか、あなた?不審者なら警察を呼びます。呼ばれたくなければさっさと失せてください」
優しげな顔に似合わず刺のある声。
だが、彼は気にしない。早くこの気持ちを声にしたいのだ。
早く、速く、はやく。
気が付けば声に熱意が籠る。
久方ぶりに感じる緊張に心地好さを感じながら彼は口を開く。
「一目惚れです。付き合ってください」
こうして、――の絶望が始まった。




