続き⑦
前回と違い、スムーズに書けた。
「………は?」
中は荒れていなかった。
空気も険悪な物ではなく、和やかな物である。
予想外と言えば予想外だが、雰囲気が良い分にはこれと言って問題もない。
だが、そこに居た人物に俺は呆気に取られた。
鬼だ。筋骨隆々の赤い鬼が居た。
妖怪の代表格と呼べる鬼が厳めしい顔で胡座をかいていたのだ。
その顔が此方を向く。ただそれだけ。
なのに、俺の足は震える。
生物の格とでも言うべきか、根本からして人とは違うと分からせられる。
腰を抜かさなかったのを誰か褒めて欲しい。
「ほぉ……ナヨが見て欲しいと言っていた子供は貴様か」
「は?え?」
見定めるように見詰めるその瞳が恐ろしかった。
気分は肉食獣に目を付けられた小動物のようだ。
声からして怒ってる訳でも、食べようと思ってる訳でもないのに俺は1歩後退る。
頭ではなく本能がそうさせた。
逃げなければという生物の生存本能だ。
それぐらい目の前の存在は恐ろしかった。
「ふはっ!イッキよ。お主は自らの顔が怖いことを自覚せい。怯えているではないか」
「無茶を言うな!顔を見ずにどうやって診察しろと言うんだ!」
神――ナヨの一言で顔が逸れる。
思わずホッと安堵した。
生きた心地がしなかったのだ。
落ち着いたことで気になるのは、イッキと呼ばれた鬼について。
会話の内容からして彼が専門家なのは間違いがないだろう。
言っては悪いが、見るからにして脳筋タイプにしか見えないが、腕は確かなのだろうか。
疑いたくはないが、思わず疑問が顔を覗かせる。
「くく………腕は確かだから安心せい。認めたくはないが、これでも妾の知る限り随一の医者じゃ」
「おい。ワシは今すぐ帰っても良いんだぞ?来て欲しいとわざわざ頼まれたから来たんだ」
「ほぉ、約束を反故にするつもりか。覚悟は出来るとるのじゃな?」
「はっ!蹴りを付けるにはちょうど良いぐらいだ!」
「疑ってすみませんでした!助けてください!!」
一色触発の空気に俺は慌てて謝罪した。
もう少し気を付けるべきだった。
ここには心を読む神と、険悪な中の鬼が居るのだ。
さっきは何故か喧嘩にならなかったが、その恐れがあることを考えておくべきだった。
それに、俺のために来てくれた相手を疑うなんてお門違いだ。
頭を下げて謝罪する俺に対し、返って来た返事は予想外の物であった。
「フハッ!」
「ハッ!」
「「ハハハハハハハハハ!!」」
笑っていた。
これ以上ないぐらいに爆笑していたのだ。
これには思わず呆然とする。
今の何処に笑う要素があったのか分からなかった。
その疑問に対し、目元に溜まった涙を拭きながら鬼が答える。
「はぁ、はぁ、人の子にしては中々素直な奴だな貴様。ナヨが救いを求めるのも分かる。こんなに笑ったのは久方ぶりだ」
「えっと……これは……?」
「驚かせてすまんのぉ。これは妾達の挨拶みたいなものじゃ」
「昔どんぱちやっていた名ごりでな。今もこうして口撃し合っているだけよ」
「思えば、妾達も大人になったものじゃ」
「大人と言うには歳を取りすぎたがな」
「違いない」
さっきの嘘のように和やかな雰囲気だ。
というか、待て。昔そんなに仲が悪かったのか。
どんぱちやる程とはいったいどれだけ仲が悪かったのだろう。
神達の言う昔がどれぐらい前かは分からないが、当時に生まれなくて良かったと思う。
この時代に生まれたことに感謝しつつ、口を開く。




