続き③
今度こそ本当に苦労の末に辿り着いた。
滝のように流れる汗を拭い、俺は鳥居を見る。
「間違ってはなさそうだな」
もしこれで間違っていましたなんてことになれば諦めて帰っているところだ。
そんなことにはならずに済んでホッと安堵しつつ、この先をどう登って行こうかと思案する。
体型の変化と言うのは思った以上に影響が強く、とくに歩幅の変化は思った以上のものであった。
大人と子供ではこんなにも幅が違うのかと驚いた程だ。
幅のリーチが違えば当然、歩く回数も違う。
その違いの影響は俺の予想を上回り、何度も諦めそうになったことか。
なんとか頑張ってここまで辿り着いたが、最後の最後で難関が立ちはだかる。
「この長い階段どうやって登って行こう?」
いや、登るしかないのは分かっているし、登らないなんて選択肢もない。
ただ、この難関を前にすでに心が折れかけているだけだ。
中々踏ん切りがつかずあーでもない、こーでもないと楽して登れる方法はないかと思案するが、当然そんな物は思い付かず、1度頬を叩き覚悟を決める。
「よし!!」
やる気を奮い立たせ1度登ってしまえばなんてことのない道のりだった。
登った以上は後に引き返せないと思わせる心情がそうさせるのかなんなのか、理由は分からない。
さっきまでうじうじ悩んでいたのがバカらしくなり、このまま走って登りきってやろうかと思案する。
(この体、思った以上に元気があるんだよな)
子供が故か人外が故か、疲れはありつつもまだ動けるだけの元気がこの体にはある。
だからこそ、そんな考えが思い付いてしまったのだが。
流石に慣れない体で走れば怪我するのが目に見えているため実行には移さない。
ゆっくり気ままに階段を登るだけだ。
「やっと着いた」
あれから数分。登りきった先にある光景は昨夜と変わらないものであった。
昨夜のことなのにすでにちょっとした懐かしさを感じる。
少ししんみりとしつつ、真っ直ぐに社へと向かう。
「ん?」
着メロが鳴る。
これはまさか、慌ててスマホを取り出す。
画面に表示された名前を見た俺は緊張した。
その画面に表示された名前は父の名であり、メッセージを確認してすぐに連絡してくれたのだろう。
何を言われるか分からない恐怖に襲われながら、震える手で電話を繋ぐ。
「も、もしもし」
『あ、あぁ……LINE見たぞ。――で合ってるよな?』
困惑している様子が電話越しで分かる。
事前に説明してあるとは言え、そんな反応になるのもおかしくはないだろう。
だから、大丈夫。
若干震える声で俺は答える。
「そうだよ……信じてくれるのか?」
『正直に言えば信じがたいよ。――からのLINEでなければ悪戯メールかなにかだと思っていたさ』
俺の予想は当たった。
このまま電話を切られるのではないかと不安が顔を覗かせる。
『だが、俺は息子が嘘を吐かないって信じてるからな。安心しろ。で、大丈夫なのか?』
「はは……信頼が重い。あぁ、今のところ大丈夫だよ」
予想以上の信頼度に若干ドン引きしつつ、ホッと安堵した。
信じてる。たったそれだけの言葉で俺の不安は、震えは消える。
改めて事の経緯を説明しつつ、今の状況を共有。
「――――てな訳でいま神社にいる」
『なんというか大変だな。神社に居るって話だが、大丈夫なのか?その神?とやらが原因なんだろ?』
「それは分からないが、例え危険だとしても来た以上は引けないしな」
『――がそう言うなら俺は止めないが、時には逃げた方が良い時もあるからな?そこを見誤るなよ?』
「あぁ、ありがとう。気を付けるよ」
最後に、後で迎えに行くと告げられて父との会話を終える。
「待たせたな」
「いや、なに、邪魔をしもうて悪いのぉ」
「気にしないでくれ」
気づいたら居た。
あの時と同じく社の階段に腰掛け此方を見ている。
目を反らしていなかったが、いつの間に居たのやら。
相変わらず神出鬼没だ。
「で、この状況について何か言うことはあるか?」
「可愛らしくなったのぉ―――フハッ!冗談じゃ。そんな怒るでない」
「じゃ、教えてくれよ」
「正直に言えば、妾も予想外じゃ。人の子が妾に似た姿になるなど1度も起きたことがない。故に、対処法も不明じゃ」
「は?じゃあ、俺は一生戻れないって言うのか!?」
悩むまでもなくあっさりと結論を語る神の姿に俺は思わず声を荒げた。
神に詰め寄り問い詰める。
「少しでも良い!!少しだけでも良いからどうにかする方法を教えてくれよ!!なんだってする!!!ここに来たのが悪かったのなら土下座でもなんでもするから教えてくれ!!!」
順風満帆とは行かずともそれなりに楽しく過ごしていた人生が、人間関係が、無くなるのが恐ろしい。
地面が崩れて無くなるような、得体の知れない恐怖心に襲われる。
今までは気にしないように、それこそなんとかなると思っていた。
だからこそ、焦りはありつつも何処か楽観していられたのだ。
しかし、その唯一の希望から見捨てられた俺はいったいどうすれば良いのか。
そんな思いが、感情が、心を渦巻く。
「落ち着くのじゃ。妾は何も見捨てるとは言うてないぞ。少し冷静になれ」
「……じゃあ、助けてくれるのか?」
困った子だとでも言いだけに神は俺の頭を撫でる。
これじゃあまるで俺が子供のようだと撫でられながら思う。
違うと否定したいが、この容姿にこの状況では言い逃れが出来そうにない。
客観的に見て、癇癪を起こした子供と宥める親と言った感じだろうか。
この場に他に誰も居なくて良かったと安堵しつつ、短絡的だったと謝罪する。
「気にするでない。不安になる気持ちは分からんでもないからのぉ」
「なったことがあるのか?」
「昔に、な……歳を取るとなんでも昔に感じてしまう。歳は取りたくはないものじゃ」
あんたがそれを言うのか。
思わず出掛けた言葉を飲み込む。
不老を体現しておきながら歳を取りたくないとは、切れ散らかされてもおかしくない発言だ。
ただまぁ、同じ立場にはなりたくないとも思う。
永い時を生きるなんて俺には出来そうにない。
一刻も早い解決を望みつつ、先を促す。
「で、何か手立てはあるのか?」
「あるにはあるが、それがなんとも言えんのじゃ」
「は?どういうことだよ?」
歯切れの悪い言葉。
苦虫を噛み潰したような表情で神は言う。
「―――のぉ、お主。体を弄られとるぞ」




