ヒロインの母⑪
その日の夜、リビングにて私と夫は向かい合っていた。
久しぶりに会った夫は仕事の忙しさを表すように濃い隈が出来ており、少し窶れていた。
無理をしてる筈なのに、眼だけはそれを感じさせない強い眼差しを此方に向ける。
その強い眼差しに私は怖気づくと共に職場での夫の姿が垣間見えて、新たな一面が知れて不謹慎ながら嬉しを抱く。
すると、どうしてか夫はフッと笑みを浮かべた。たったそれだけなのに場に漂う重苦しい空気が霧散し息を吸うのが楽になるのを実感する。
どうして急に夫が笑ったのか、その事について考えた私はある可能性に気付く。
“もしかして……”
頬に熱が集まるのを感じる。口を撫でるように手で触れてみると僅かに弧を描いていた。
頬だけだった熱が顔全体に広がる。夫の顔が見れなくなった私は俯き気味に顔を逸らした。
すると夫は楽しげな笑い声を漏らし、「すまない」と謝罪をしてくるが一向に止む気配が無い。
それで余計に羞恥心を煽っているのが分からないのかと私は怒りを抱く。
その思いはじわじわと広く大きくなり羞恥心を超えて覆い尽くすかと思ったタイミングでポンっと、頭の上に手が置かれた。




