ヒロインの母➐
その日は唐突に訪れた。いつもなら夫が帰って来る時間にも関わらず一向に帰って来る気配が無い。
急な仕事が入って遅くなってるのかも知れない。そうは思うが、何故か嫌な予感がする。
胸の内がモヤモヤとし、漠然とした不安感が押し寄せるのだ。
落ち着く事も出来ない私は眠たげな娘をメイドに預け玄関前で待ち続ける。
幾ばくかの時が経った頃、馬車を引く馬の蹄の音が聞こえてきた。
夫の帰宅だと確信した私は身嗜みを整え、入ってすぐ出迎えられるように扉の正面で待つ。
音が止むのを合図に使用人が扉を開けると見慣れない馬車が横止めされていた。
夫ではない事に落胆はあったが、それより来客予定のない馬車を訝しく思う。
門番が通した事から夫の許可は頂いてるものとは思うが、知らせもない事から急を要する要件であるのは間違い無い。
不安が大きくなり、先程から感じてた不吉な予感が強くなる。
外れて欲しいと祈りつつ、候爵夫人として客の対応を行う。
夫の部下を名乗るライル・クラシャー様は夫から預かった手紙を届けに来たのだと言う。
渡された手紙を受け取った私はライル様に夫について尋ねた。
それによると、隣国で不穏な動きがあり、その対応で今現在も夫は忙しくしてるそう。
先程から感じていた不安の正体が判明し、思わず眉が寄ってしまう。
差し迫った危機では無い事が救いだが、危機的状況に変わりは無い。
隣国と言えば真っ先に思い浮かぶのがグラドス帝国。現皇帝になってから争いが絶えない国だ。
もしその国が戦争を仕掛けようとしてるのならば果たしてこの国は勝てるのだろうか?




