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あの日見た光景➎

人里探しだけを念頭に置いて探すこと暫く。


俺は人生最大のピンチに陥いっていた。


「ガルルルルルゥ……」


黒い狼。瞳は真紅のような真っ赤な色で、口の中の鋭い凶悪な牙が幾つも見える。


俺は今まさに、魔物に襲われそうになっていた。


(チクショウ!!どうして魔物が居ないと思ったんだよ!!ああああ!!進むんじゃなかったぁああああ!!!)


心の中では幾らだって叫んで、嘆えていても俺の体はピクリとも動かない。


死の恐怖。殺し殺される世界と無縁だったその恐怖は今までに感じたどの恐怖をも勝り、俺の体を縛る。


心臓がバクバクと高鳴り、息が荒れる。刻一刻と迫る死に“生き残りたい”と強く願う。


どんな代償も、対価も、悪い事をした事だって謝るから救ってくれと願う俺の前で魔物は口を大きく開き始めた。


間から覗き見えるその先は赤く、奥に続くほど暗くなって行く。


脳裏に過ぎるのは牙でぐちゃぐちゃに噛み砕かれた俺が魔物の胃へと消えて行く姿。


「あ……あぁ……」


気が遠くなる。このまま気絶しちゃ駄目だと分かっているのに抗えない。


このまま死ぬぐらいなら痛みなく死にたい。

そんな思いが俺の抵抗心を削いで行く。


ボヤけた視界の先で、魔物はゆっくりと近付いて来る。


(く……そぉ……)


せっかくの異世界が、俺の人生が喰われて終わる事が悔しくて悔しくて仕方が無い。


(オ、マエ……ダケハ……シン……デモ……コロシテ……ヤル……カラナ……)

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