どん底からの❽
暫く本を読み耽っていると後ろから気配を感じた。
条件反射で敵襲だと判断した私は本を放り投げて後ろへと振り向き剣を抜こうと腰に手を伸ばすがそこには何もない。
普段から身に着け慣れているだけに剣が無いという事に一瞬とは言え気を取られてしまう。
すぐに“しまった!”と思うも遅い、上から迫る影が大きくなるのを見て私もここまでかと覚悟を決める。
トン。
殴られたにしては軽い音と痛みに私は戸惑う。
「まったく。本は汚さないようにとは言いましたが、放り投げてもいいとは言ってませんよ」
「ル、ルジスト……か?」
「はい?それ以外に誰が居ると言うのですか?」
恐る恐る顔を上げた私は懐疑的な視線を向けるルジストを見て困惑する。
反射的とは言え、今、私は何をしようとしたのか。
そんなの考えるまでもない。私はルジストを殺そうとしたのだ。
剣を所持していなくて良かった。私は初めて心の底からそう思った。
もし所持していたら親友に傷を付けるところだったんだから……
「顔が真っ青ですね。もしかして、私に怪我を負わせていたかもと後悔してるのですか?」
「ッ!!」
的確に心の中を読まれた私は絶句する。
その反応を見て確信を得たのか、ルジストは肩を竦めて首を横に振った。
「気にしなくて良いですよ。背後に立った私が悪いのですから」
「だが、そう言われても納得する訳には……」
「では、罪滅ぼしとして私の手伝いをしてもらいましょうか」
「ッ!!ああ!!!なんでも言ってくれ!!私に出来る事であれば手伝うぞ!!」
思わぬ提案に私はにべもなく応じる。
「それでは、とあるダンジョンの攻略を手伝っていただきたい」
「ダンジョン?何か欲しい物でもあるのか?」
「はい、そこでしか手に入らないと言われたので取りに行こうかと思いまして」
「そうか。それで、何処のダンジョンなんだ?」
「無名のダンジョン」
「無名とは……まさかとは思うがあのダンジョンのことか?」
「ええ、頭に思い浮かべているダンジョンで合ってます」
「そうか……あそこに……」