どん底からの➏
ここは元々、隠れ蓑として私が用意した一家屋だった。
買った理由は秘するとして、街から程良く離れ、外道から逸れた森の中にひっそりと建っているので隠れ家として素晴らしい立地だ。
だが、何故ここに一家屋があるのかは全くの不明だが……
ともかく、ルジストはこの一家屋に用事があるそうだ。
それにしても、
「ルジスト、どうしてここが私の家だと分かった?」
「さあ?なぜでしょうか」
答える気が全く無いルジストに対し、溜め息を漏らす。
「まあ、良い。それよりここには何をしに来たのだ」
「見てれば分かりますよ」
そう言って薄ら笑いを浮かべたルジストはドアを開けて中へと入ると、目の前にある床に手を置いた。
その行動の意図が読めず首を傾げる私の目の前でルジストは蓋を開ける要領で床を開く。
その先には真新しい木材で作られた部屋が存在した。
「!?!?!?」
信じられない光景を目にしてしまった私は声も上げられないほど驚く。
「この家の床下に部屋なんかあったか……?」
少なくとも私が知る限りではそんな部屋があったという記憶も、話を受けた事もない。
「目の前にあるのですからそれが真実ですよ」
「いや!!それで誤魔化されると思うな!!これは流石に教えてもらうぞ!!」
有無を言わせない声で一気に言った私に対し、ルジストは仕方ないとばかりに首を横に振る。
「分かりました、お教えしますよ。これは『∣個室』空間魔法の一種ですよ」
「空間魔法!?あの限られた者にしか使えないという魔法か!?」
「ええ、そうですね。その空間魔法ですよ」
信じられない、そんな思いで一杯だが、ルジストなら使えてもおかしくない。
私はそう自信を持って言える理由がある。
それは、
「魔法が一番得意だったよな」
「ええ、魔法に関しては負けない自信がありますよ」
自信満々に言い切るルジストにイラッとする。
「ああ、そうだよ……魔法だけは一度も勝てた事がない。負け知らずだったな」
ぷいっとそっぽを向いて悔しげに呟けばルジストは嬉しそうな笑みを浮かべる。
「久しぶりに悔しげな表情を見れて良かったです」
「チッ!」
人の傷口に泥を塗るような事を言われて思わず顰めっ面になる。
「面白い物も見れた所で部屋の中に入りましょう」