新キャラ登場!
予定外キャラだよ!
お婆さんと別れ、私は森の中を進む。
いま居る場所はお婆さんの家から近く、見慣れた光景が続いていた。
「あら?これは以前採取した薬草ね。もう生えるなんて、植物の生命力は凄いわ」
視界に入った1つの植物。
先日お婆さんと一緒に採取した植物だ。
たった数日前の出来事、それが既に懐かしい。
切り取られた葉は再生を始め、他と比べて小ぶりながらもしっかりと日を浴びて栄養を蓄えていた。
その生命力に感心すると同時、進む足取りは重くなる。
正直に言えば、今からでもお婆さんの家に帰りたかった。
あの穏やかな家でお婆さんとひっそりと暮らしていたかったの。
けれど、それはもはや叶わぬ願い。
思いを振り切るように首を横に振る。
「しっかりしなきゃ」
この程度で挫けていたら駄目よ。
この先ではもっと辛いことが待っているのだから。
自らを叱咤し、道を進む。
正面だけを向いて進むの。
違う方向を見てしまえばまた郷愁に駆られてしまう。
それでは駄目、甘えを捨てないと。
痛む心をソッと奥に仕舞い込み歩くこと暫く、ある地点を前に私は止まる。
「来たわよ!居るのでしょう!?」
周囲に人の気配はない。
それなのに私は声を発した。
必ず彼はここに居る、そう確信したために。
「お待ちしておりました。レンゲルト公爵令嬢」
木の上から飛び降りて参上した彼の名はヘリオス。
王子直轄の親衛隊だ。
優雅に頭を下げて礼を取るが、その仕草が何処か胡散臭い。
苦手な相手よ。
こういうタイプって良い人そうに装って騙すタイプが多いから苦手なのよね。
これも前世の影響かしら?
顔を顰めかけ、それをグッと堪える。
「待たせてしまってごめんなさい。別れるのに時間が掛かってしまったの」
「いえいえ、大事な方との別れというのは時間が掛かるもの。私も時間が潰せたので謝る必要はございませんよ」
「そう、ありがとう。それで、あの……あの件は大丈夫なのでしょうね?」
思わず声を潜めて問うてしまう。
私達以外に誰も居ないと言うのに。
ヘリオスは笑う。
安心してくださいとでも言いたげにね。
それが胡散臭いと思うのは私だけかしら?
「ご安心よ。王子には伝えておりませんよ」
「本当ね?」
「はは、信用されてませんね~。実際、私以外に誰も居りませんでしょう?」
改めて周囲を伺うがヘリオスの言った通り、彼以外の人の気配はしない。
それでも不安が残るのだけれど、それを言い出したらキリがない。
ここはヘリオスを信用するしかなかった。
どうしてよりにもよって見つかったのがヘリオスなのよ。
他の人ならまだ信用できたのに。
それだと逆に報告されていた恐れがあるからヘリオスで良かったとも言える。
別の意味で信頼できるヘリオスに思わずジト目を向けてしまう。
「そんなに不安ですか?私、これでも王子からの信頼は高いのですよ?」
「いえ、貴方で良かったなと思っただけよ」
驚きからパチクリと目を見開くヘリオス。
思ってもみなかったと言いたげね。
実際、こんな状況でもなければこんなことは言わないわよ。
「ハハ!まさか貴女様から褒められるとは、私、王子に殺されるちゃうかも!?」
「そう。冗談は言っていないで私を案内しなさい」
相手にするだけバカらしく、バッサリと会話を切ればヘリオスはわざとらしく肩を落としながらも案内を開始する。
向かうは森の出口、そこから王城へと移動するそうよ。
結局、私は王子の下に自らの意思で戻ることにした。
ハリーの献身を無駄にすることだって分かってるわ。
けれど、そうも言っていられなかったの。
目の前を歩くヘリオスを見る。
お婆さんと暮らし始めて暫くした頃にヘリオスに見つかった。
なるべく外には出ないようにしていたのに、たまたま外に出たタイミングでヘリオスと遭遇してしまったの。
洗濯の帰り道、急に横からひょっこりと顔を出して来たのよ?
“お久しぶりです!”
なんて言いながら登場したものだから思わず悲鳴を上げ、腰を抜かしたのを覚えているわ。
どうしてここに、驚きと困惑から見上げる私にヘリオスは言う。
“どうやら老婆と暮らしてるようですね?”
その言葉に顔から血の気が引いた。
もう既にそこまで把握した上で声を掛けてきたというの!?
その事実に私は恐怖に襲われた。
その情報を王子に報告すればどうなることか、想像に難くない未来に私はヘリオスに懇願した。
“私の出来ることなら何でもするからお婆さんには危害を加えないで!!”
ヘリオスは驚き、そしてフッと笑う。
“では、私と一緒に王子の下に帰るのなら見逃して上げますよ”
私は数瞬悩み、そして頷く。
それでお婆さんの命が助かるのなら、私1人の人生なんて安いもの。
ただ、ハリーの願いを反故にしてしまうのが申し訳なかった。
命を賭してまで助けてもらいながら、結局は自らの意思で戻る。
なんとも盛大な家出ね。
得た物は少しの幸せと、後悔だけ。
檻の中の鳥は結局は檻の中でしか生きられない。
これなら家出なんて考えなければ良かった。
そのお陰で得た物もあったけれど、それ以上に失った物が多かったわ。
ハリーもその1人。
そこで、ふと疑問が湧いた。
「ねぇ、サリアは無事かしら?」
「それを聞いてどうしたいのでしょうか?」
「いえ、ただ気になっただけよ……」
先程までとは異なり、無の貌で此方を振り向き問うその声に私は嫌な予感がした。
それを聞いてはいけないと、本能が叫ぶの。
咄嗟に顔を逸らし、誤魔化す。
ヘリオスはそうですかと呟き、また顔を前へと戻す。
「貴女様のメイドは無事ですよ」
「えっ?」
「私から言えるのはここまでです。もし知りたければ王子に聞くことですね」
酷く真剣な声。
一瞬、聞き間違えかと思ったけれど、間違いなく言っていた。
サリアは無事だと、何か含みのある発言ではあったけれど、それでも生きていると分かっただけ嬉しかった。
私はその事実に安堵したの。
「ありがとう、教えてくれて」
「いえいえ、これは私の気紛れですから。王子には秘密でお願いしますよ?」
此方を振り向き、悪戯っぽく笑い口元に人差し指を宛がいウィンクするヘリオス。
その言葉に私は分かってるわと応え、笑う。
今まで胡散臭いとばかり思っていたけれど、もしかしたら優しい人かも知れない。
この程度で絆されかけるなんて、私はチョロいかも知れないわね。
それでも、教えてくれたことには感謝しかないわ。
「ありがとう、ヘリオス。貴方、意外と優しいのね」
「えぇ、私はとっても優しいのですよ。さて、そろそろ着きますよ」
その言葉に釣られ前を見た先、遠くの方により強い光が差してるのが確認できる。
あれが森の出口、ここを出てしまえばもう戻ることは出来ない。
心を過ぎる寂しさ。
もう二度とお婆さんには会えないのね。
後ろを振り向くけれど、森が続くばかりでお婆さんの家は見えない。
「どうされましたか?」
「いえ、何でもないわ」
声を掛けられ顔を戻せば出口はすぐそこ。
そして、その先に待つ質素な馬車が一台。
それが私を運ぶ馬車だと言われなくても分かる。
これが本当の別れ。
最後にチラリと後ろを振り向いてから、後ろ髪引かれる思いを振り切るように私は馬車へと乗り込むのだった。
王子のヤバさをどれぐらいにしようか悩み中。