ボツ⑥
このボツ確か、ノーアの前世を書いた内容。
この時はまだ、前世の話とか書こうと思っていたっけ?
今じゃあ、そんなやる気もなくなったけど。
前世の私は――僕は体が弱かった。
「いつもありがとう、母さん」
「良いの。春が元気なだけで母さん、嬉しいの」
優しく笑い僕の頭を撫でる母さんに、僕はいつも申し訳なく思っていた。
僕がこんな体で無ければ生活を圧迫することも、父さんに逃げられることもなかったのに。
母さんはそんな事ないって、私の方こそ健康な体に産んで上げられなくてごめんなさいと悲しげに言う。
それが一層申し訳なくなる。
僕さえ産まれなければ、こんな苦労をしなくて良かったのに。
いつも僕は僕自身を責める。
それが間違いだって気付いていながらも、止めることは出来ない。
1人となった病室。
隣には誰も居らず、静かだった。
窓の外を見る。
見慣れた都市の姿。
僕はその光景から下へと目を向ける。
病院から程近いところに存在する小さな公園。
その場所で遊ぶ子供たち。
羨ましかった。
僕もあんな風に友達と駆けっこしてみたかった。
ワーキャーと笑ってはしゃいでみたかった。
でも、それが出来ない。
体の弱い僕では皆と同じように遊ぶ事も、笑い合うことも出来ない。
この体が恨めしかった。
こんな体じゃなければ友達を作って共に笑い合えた筈なのに。
布団を握る手に力が籠る。
心に溜まる鬱憤。
行き場のない思いに僕は苦しめられる。
駄目だと分かっていても羨む気持ちが、妬む気持ちが止まらない。
惨めだった。
出来ないことを羨み、不幸に嘆くことしか出来ないなんて。
自分が醜くい。
醜くくて醜くくて堪らない。
ベットに倒れる。
天井を見上げ、僕は溜め息を吐く。
心に溜まる感情を込めて。
「僕は―――」
思わず口に仕掛けた言葉。
寸でのところで唇を噛む。
その先を言ってはいけない。
僕は誰に生かされている。
誰に育てられている。
疑問を自らに投げ掛ける。
母さんだ。
僕に生きて欲しいと願う母さんのために僕はまだ、生きている。
光から目を背けるように体を横に向ける。
これ以上あの光景を見てしまえば頭がおかしくなりそうだった。
破れかけた蓋に封をする。
そんな感情は、心なんて抱いていないと見なかったことにする。
これで良い。
何の問題もない。
今日もまた日常が過ぎ去るだけ。
そう思っていたのに――。
「初めまして!私、梨里って言うの!!よろしくね!!」
「僕は春。こちらこそよろしくお願いするよ」
隣のベットに新しい住人が増えた。
とても明るくて、眩し過ぎるそんな子。
風を感じた。
新しい風だ。
訪れる変化に僕は期待した。
この退屈な人生を梨里なら変えてくれるんじゃないかって。
その期待は当たった。
初めて会って以来、梨里は事あるごとに梨里は僕に話し掛けた。
飯が少ないと、いっぱい動きたいと、色々なことを僕に語ってくるのだ。
どうやら梨里は足の骨を不慮の事故で折ってしまったらしく、治るまで病院で暮らすことになったそう。
ほら、と言って見せられるギプスの取り付けられた足。
包帯に隠れて見えないその中はいったいどんな状態なのか。
怖いもの見たさで興味が惹かれる。
けれど、理結局は口にすることはなかった。
それで梨里に嫌われてしまったら悲しいから。
他愛もない日常の中で梨里と話せるだけで僕の心は満たされる。
日に日に笑顔を浮かべる回数が増える僕に母さんは喜んだ。
僕は嬉しかった。
悲しそうな表情を浮かべるばかりだった母さんを笑顔に出来て。
僕は梨里に感謝した。
君のお陰で僕の日常は素晴らしい物になったと、そう感謝した。
梨里は良かったと無邪気に喜ぶ。
その姿を見て僕は笑みを浮かべる。
心が暖かかった。
梨里を見ているだけで心がポカポカとして、嬉しさが込み上げる。
初めての感情に僕は困惑した。
胸に当てた手から鼓動を感じる。
いつもより早い。
思わず咳き込む