ボツ①
「目が覚めたようだね」
「えぇ……助かったわ、ありがとう」
私は助けられた。
横に立つお婆さんによって。
感謝を伝えるけれど、本音を言えば助けて欲しくなかった。
あのまま死んでハリーの後を追い掛けたかったの。
そんなことハリーは望まないし、犠牲を無駄にすることだって分かってるわ。
助けてくれたお婆さんにも失礼よ。
それでも、そう願ってしまうほど私の心はボロボロだったの。
私のせいでハリーを亡くした、その事実に私の心は耐えられそうにない。
それでも、まだ生きてるのはハリーの言葉があったから。
生きろと願うハリーの言葉があったからこそよ。
「はぁ……飯は食えるかい?」
「そう、ね……食べれるわ。良いの?」
「1人2人増えたところで変わらないからねぇ。それより腹を空かせて死なれる方が困るよ」
「ありがとう」
笑みを浮かべてお礼を言うけれど、きっと、とてもぎこちない笑みだったと思う。
私自身、上手く笑えてないと分かるの。
笑い方を忘れたように笑えなくなってしまった。
ハリーと出会う前に戻ったような、いえ、もしくはそれ以上に笑えない。
心にぽっかりと穴が空いたように感じるの。
去り行くお婆さん。
その背を見送りながら私は窓を見る。
ガラスのないその窓の先にあるは、雲1つない快晴。
私の心とはまるで違うその光景に、孤独感を強める。
「ハリー」
思わず漏れ出るその名。
私には貴女が居ないといけないの。
貴女の居ない人生はもう考えられないの。
なのに、どうして私を置いて行くの。
1人にしないって言ったじゃない。
責任取ってくれるって言ったじゃない。
頬を伝う涙。
私は静かに涙を流す。
嗚咽はしなかった。
するほど、今の私に元気はない。
「はいよ。これ食べて元気出しな」
「ありがとう」
目の前に置かれる1つのお椀。
中に入ってるのはお粥に似た料理。
私はそれをスプーンで掬って口に含む。
何も味がしない。
美味しいと分かるのに、無味に感じるの。
それでも掬う手は止まらない。
生きるためには食べないと。
じゃないとハリーの死が無駄になってしまう。
「生きる屍だねぇ、これゃあ」
生きる屍。
そうかも知れない。
今の私に義務以外の生きる意味が見いだせない。
ハリーが願うから私は生きる。
生きれる限り生きてハリーに褒めてもらうの。
頑張ったなって、褒めて欲しいの。
「また来るよ―――死んだら許さないからね?」
部屋を出る直前に掛けられた言葉に、私はキョトンと首を傾げる。
何を言っているの?
私は死なない。
死ぬ筈がないじゃない。
だって、ハリーが望みだもの。
不思議なことを言うお婆さん。
可笑しくて笑う。
「は、ははは………あれ?どうして涙が止まらないの?」
頬を伝い、布団を濡らす涙。
溢れ出て止まらない涙を手で拭うのに止まらないの。
なんで、どうして、疑問に思う私。
本当は分かっていた。
お婆さんの優しさに凍った心が溶かされ始めているのだと。
ハリーの死を受け入れ難かった心がゆっくりと受け入れ始める。
涙は止まらなかった。
それどころか声を上げて泣き始める。
痛む心を押さえるように胸に両手を当て、蹲る。
どうして、どうして、どうして、そんな声がずっと頭を巡る。
どうして、ハリーを死ななきゃいけないの。
どうして、私だけが生き残ったの。
どうして、お婆さんは私に優しくしてくれるの。
様々な疑問が過ぎ去り、