第8話 黄金のリンゴ団と黒バラ十字団
ソフィーは、フランスの魔法使いだった。
彼女が生まれた時代、ヨーロッパでは魔女狩りが流行していた(この場合、魔女というのは女だけでなく、男のことも言う)。
不思議な術を使って悪さをしているというウワサのある人間たちを捕まえて裁判にかけ、
「こいつは魔女だ!」
と、一方的にそう決めつけて、火あぶりの刑に処したのである。
悪事を働いている魔術師は、だいたいの場合が悪魔に魂を売った契約魔術師だったのだが、普通の人間には、ひっそりと暮らして魔法の研究をしている魔法使いと悪魔の下僕である契約魔術師の区別がつかず、魔法使いであろうが、契約魔術師であろうが、手当たり次第に火あぶりにされていた。しかも、ひどい話なのは、処刑された人間の大半が魔女だと勘ちがいされた、魔術など使えない一般人だったということである。
このような残酷な時代を生きぬいたソフィーが世界中の魔法使いたちを集めて結成した秘密結社こそが「黄金のリンゴ団」だった。
その主な活動内容は、魔法使いの仲間が協力して魔女狩りから身を守り、自分たちの存在を世の中から隠すことである。人々がこの世界に魔術というものが本当にあることを忘れてくれさえすれば、魔女狩りはおさまるとソフィーは考えたのだ。
「黄金のリンゴ団」の活動により、魔女狩りはだんだんと行われなくなった。
しかし、人々が魔術の存在を完全に忘れることはなかった。
なぜなら、契約魔術師たちが結成した「黒バラ十字団」という秘密結社が、世界各地で契約魔術を使い、悪事を働いていたからである。
悪魔に自分の魂を売り渡さなければ魔術が使えない彼らは、生まれながらにして魔法が使える魔法使いに対して強い対抗意識を持ち、魔術を隠すどころかどんどん使って、金もうけや戦争の道具にしていたのだ。
「黄金のリンゴ団」と「黒バラ十字団」の対立は、こういったおたがいの考え方のちがいから起き、現在にいたるまで続いていたのであった。