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魔法使いは悪魔と踊る  作者: 青星明良
六章 運命を変えるペンダント
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第26話 悪魔とのダンス

(ま、まずい! 空飛ぶじゅうたんが私をキャッチするよりも先に、マルコシアスの炎が私を焼いちゃう!)


 そう思った直後、卯月の体は、下から突然わき起こった突風により、上へと吹き飛ばされていた。飛ばされた先には空飛ぶじゅうたんがいて、卯月は無事、じゅうたんに乗ることができた。


「ナタリーちゃん、ありがとう!」


 ナタリーの風の魔法マジックが、卯月をマルコシアスの炎から遠ざけ、空飛ぶじゅうたんへと運んでくれたのだ。卯月は地上のナタリーに礼を言った。


「手助けは一度だけというルールだから、私はもう助けてやれないぞ! がんばれ!」


 下から聞こえてくるナタリーの声にはげまされた卯月は、


(マルコシアスの言う通り、逃げてばかりいたら勝てない。何とかして背後に回りこんで、契約の儀式をしなくちゃ!)


 マルコシアスの後ろに移動すれば、炎の攻撃を心配しなくても済むはずだ。そう考えた卯月は、マルコシアスの背後をとろうと、空飛ぶじゅうたんを再び高速移動させた。しかし――。


「オレの背後に回ろうとしているのだろう? バレバレだ!」


 卯月の作戦をあっさり見ぬいたマルコシアスは、後ろをとられないように常に空飛ぶじゅうたんのほうに顔を向けながら飛び、卯月を追いかけた。


 スピードでは空飛ぶじゅうたんのほうがマルコシアスよりも上なのだが、またさっきみたいに振り落とされたらいけないため、卯月はじゅうたんを全力で飛ばすことができない。魔法使い(マジシャン)と悪魔の夜空での追いかけっこは、永遠に終わらぬダンスのように続いた。


「そろそろ、私の出番かしらぁ?」


 教会の庭から卯月とマルコシアスの空中戦を見ていたソフィーは、杖を天にかかげた。

 このハスの花の飾りが美しい杖は、ソフィーが愛用している『ハスの花香る杖(ロータス・ワンド)』という名の補助魔道具である。


「『憤怒の炎(ラース・ファイヤー)』」


 ソフィーが赤い瞳を光らせ、呪文をぼそりとつぶやくと、杖の先のハスの花が輝いた。


 しかし、何も起きない。


 そばにいたナタリーが(どうしたのだろう?)と不安に思っていると、


 ドカーン!


 けたたましい爆発音が上空でした。なんと、卯月を追いかけ回していたマルコシアスの顔が激しく燃えていたのだ。


「ほ、炎の魔法マジックだと? 炎が飛んで来るのが見えなかったぞ⁉」


 ソフィーが放った『憤怒の炎(ラース・ファイヤー)』は、肉眼では見えない炎の爆弾なのである。

 姿を隠したまま敵に接近し、命中すると大爆発を起こすのだ。この魔法マジックの標的となった者は、よけることが不可能に近いため、体が火だるまになる地獄を必ず味わうことになる。


 この強力な攻撃にはさすがのマルコシアスもおどろき、パニックになった。


「くそっ! 顔が熱い! お、おのれ~!」


 悪魔でも顔がぼうぼうと燃えていたら、たまったものではない。空中でジタバタもがき苦しみ、首を振ったり顔を前足で叩いたりして、何とかして火を消そうとした。


「卯月ちゃ~ん。マルコシアスが復活する前に、早く契約の儀式ぃ~」


「は、はい!」


 顔が燃えているマルコシアスをぼう然と見ていた卯月は、ソフィーにうながされ、マルコシアスの背後に回った。マルコシアスは苦しみながらも口から火を吐き続けているため(パニックのあまり無意識にしているらしい)、やはり前方から接近するのは難しいのだ。


「よ、よし! 契約の儀式を……」


 卯月は左手を天にかかげ、ソロモンの指輪を光らせた。

 これでようやく契約を結ぶことができると安心しかけたが、ここまで追いつめられてもなお、マルコシアスはおどろくべきしぶとさを見せたのである。


「オレが背後の敵を攻撃できないなどと、いつ言った!」


「え? き、きゃぁぁぁ⁉」


 マルコシアスのお尻に生えているヘビのしっぽがグニャグニャと変形し始め、なんとヘビの顔になったのだ。


 ヘビの顔は「シャァァァー!」と牙をむき、卯月にかみつこうと襲いかかって来た。


「へ、ヘビさん、ちょっと待って! ……あれれ? こ、言葉が通じない?」


 ヘビはマルコシアスの体の一部で、自分の意思があるわけではない。だから、動物と会話ができる卯月が何を言っても、返事などしないのである。


(か、かまれる!)


 猛スピードでマルコシアスに接近していた卯月は、急な方向転換ができず、みずからヘビの牙に向かって突進していた。


 もうダメだとあきらめかけた時、


「卯月ちゃーんっ!」


 大きな赤い鳥が、旧校舎のそばの森の方角から大急ぎで飛んで来た。


 その鳥は、マルコシアスのしっぽ――ヘビの頭を口ばしで「えい! えい!」とつついた。


 ヘビの顔はフェニックスに何度もつつかれると弱ったらしく、またグニャグニャと形を変えて元のヘビのしっぽに戻った。


「フェニックス! 良かった! 無事だったのね!」


「当ったり前じゃん! 僕は不死鳥だよ? 卯月ちゃんを助けるために、仲間を集めていたんだよ」


「え? 仲間? ……あっ!」


 卯月が、フェニックスが飛んで来た森のほうを見ると、カラスのクロ助を始めとするたくさんの鳥たちがバサバサと羽音を立てながら駆けつけて来て、マルコシアスの頭、翼、お腹、お尻を四方八方から口ばしでつつき始めたのである。


「クロ助くんたち、助けに来てくれたの?」


 ――フェニックスの臆病者が、一人で行くのは恐いから力を貸してくれと言ってきたんだよ。卯月のためと聞いたら、断れないしな!


「く、クロ助の親分、それは卯月ちゃんには内緒って言ったじゃん!」


 ――うるさい! お前だけカッコつけようとするからだ!


「ひぃ~! ごめんなさ~い!」


 知らない内にフェニックスとクロ助は友だちになっていたようだ。それにしても、伝説の不死鳥がただのカラスを「親分」と呼んでいるのは、ちょっと滑稽である。


「ちょこまかとオレの体の周りを飛び回る、うるさい鳥どもだ。そんな攻撃、痛くもかゆくもないぞ! 決闘の手助けは一度きりというルールだ。さっさとオレから離れろ!」


 マルコシアスは鳥たちを追い払おうと、翼をバサバサと乱暴に動かしたが、クロ助たちは吹き飛ばされても、しぶとく再び飛んで来て、魔獣に食らいついて離れようとしない。鳥たちに、決闘のルールがどうのこうのと言っても、ムダだった。


「みんな、がんばれ! がんばれ! よぉ~し……僕が応援の歌を歌っちゃうぞ~! ファイトだみんな♪ ファイトだみんな♪ おっかないオオカミなんてやっつけろ~♪」


「ぐ、ぐえ~! や、やめろ、フェニックス! 耳元で歌うな! オレは、お前の情緒もへったくれもない歌が大嫌いなんだ!」


(今なら、契約の儀式ができるかも……)


 フェニックスと鳥たちがマルコシアスの注意を引きつけてくれている今こそチャンスだと考えた卯月は、再度、左手を天にかざそうとした。


 だが、その前に、マルコシアスの堪忍袋の緒が切れたのである。


「貴様たちなど、相手していられるかーーーっ!」


 オオカミの遠吠えのごとく、マルコシアスが怒鳴り、翼を大きく広げた。


 すると、卯月の体にビリビリと震動が伝わるほどの衝撃波が生じ、フェニックスやクロ助、他の鳥たちも遠くへと飛ばされてしまったのである。

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