表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/27

6話 騒がしい朝

 下駄箱で室内靴に履き替えていると、後ろから声をかけられた。振り向くと湊斗と大和が立っていた。



「昨日さ、楓姉さんと一緒に帰ったじゃん。その時に課題プリントを一緒にしようと誘ったんだけどさ。楓姉さん、既に学校で課題プリントを済ませてあってさ。一緒に勉強はできなかったけど、プリントは借りちゃったぜ」



 湊斗が嬉しそうに俺に報告してくる。どこがそんなに楽しいのかわからないが、湊斗が嬉しいならそれでいいか。


 湊斗の話を聞いて、大和がガックリと肩を落とす。



「俺も凛を誘ったんだぜ。でもよ、燈子に勉強を教えてもらったほうがわかるって言ってよ。燈子と凛の二人で燈子の家に行っちまったんだぜ。三人で帰っていたから仕方ないけどよ、俺って不幸だわ」



 大和は凛にぞっこんだからな。凛はそのことに気づいていないんだから仕方ないだろ。でも燈子も少しは大和のことを応援しろよ。


 雑談をしながら、俺、湊斗、大和の三人は階段を登って二階へ行く。そしてすぐのAクラスのドアを開けて中に入る。そして自分の席へ行き、机の上にカバンを置いて、椅子に座る。


 席は俺の前が湊斗で、俺の後ろが大和だ。席に座って周りを見回すと、演壇の前に燈子が座って、すでに机の上に一限目の授業の用意がされている。真面目かよ。


 通路側の後ろを見ると、猫背になりながら凛がスマホをいじっている。どうせ朝からアニメを見ているのだろう。よく飽きないよな。


 そして通路側の一番前の席を見ると、楓姉さんと目が合った。楓姉さんがニッコリと笑って手を振り、立ち上がってこちらへゆっくりと歩いてくる。


 湊斗が振り返り、ニヤリと笑う。



「楓姉さんがこっちに来るぜ。俺に用事なのかな?」



 別に俺は楓姉さんに用事はない。しかし楓姉さんはスタイルが良いな。歩く姿も雅だな。


 楓姉さんが俺達の所まで歩いてきた。そしてニコニコと微笑む。



「湊斗くん、課題プリントはできたかな? 昨日貸したプリントを返してほしいの。プリントがないと私が宿題を忘れたように思われるから。いいかな?」



 その言葉を聞いて、慌てて湊斗がカバンを開いて、中からプリントを取り出して、楓姉さんに返した。



「ありがとう楓姉さん。プリント助かったぜ。答えも写させてもらったぜ」


「あらあら、課題は自分で答えを考えないとダメですよー。湊斗くんはいけない子ですねー」



 楓姉さんが「メー」と言って、湊斗の額に人差し指を当てる。楓姉さんが叱っても、恐さは全くなく、ほんわかした気持ちになる。この人には勝てそうにない。



「いけませんよー」


「はい」



 それだけで湊斗の顔がフニャリと蕩けたようになった。湊斗の奴、楓姉さんにメロメロだな。


 教室のドアの付近が慌ただしくなったような気がして視線を向けると、結愛がはあはあと息を荒げて立っていた。どうも走ってきたようだな。


 まだHRが始まるまで十分に時間があるのにどうしたんだ?

 

 不思議に思っていると、結愛がズカズカと俺達の方へ歩いて来る。そして俺の前で立ち止まった。皆が面白そうに俺と結愛を見ている。


「昨日の課題プリントの最後の答えが間違っていたわ。朝、見直しをしていて気づいたの。昨日は世話になったから悠人に教えようと思って」


 結愛が手に持ったノートを俺に渡す。


「サンキュー」



 カバンの中から自分のプリントを取り出して、最後の回答を書き替える。そしてノートを結愛に返した。すると楓姉さんが不思議そうに首を傾げた。



「結愛、昨日、悠人くんにお世話になったの?」


「そうなの。昨日、課題のプリントを机の中に忘れちゃって、だから悠人の家で一緒に勉強したの」


「あらら、結愛は悠人の家で一緒に勉強したのね。二人っきりで勉強をしてたなんて。ウフフ……仲良しさんね」



 楓姉さんの言葉を聞いて、自分が何を言っているのか気づいた結愛は顔を真っ赤に染めて俯いた。



「別に一緒に勉強しただけで、何にもねーぞ。俺は女に興味ねーからな」


「そうね。悠人くんは女に興味ないもんね。でも結愛には優しいのね」


「そんなことねーわ。しつこく頼まれたから、断るのが面倒になっただけだ」



 楓姉さんが猫のような目をしてコロコロと微笑む。



「そうなら、私も今度、しつこく頼んでみようかしら? そうすれば悠人くん、私と一緒に勉強してくれる?」


「やだよ。楓姉さんは結愛のように頭悪くねーし、頭いいじゃん。俺が勉強を聞きたいわ」


「いいわよー。いつでも勉強をおしえてあげるわよー」



 楓姉さんが俺をからかって遊んでいる。それを見た湊斗が焦って手をあげた。



「楓姉さん、俺に勉強を教えてくれよ。俺もわからない所、いっぱいあるからさ」


「いいですよー。今度、皆で一緒にファミレスでも行って、勉強しましょうね」



 湊斗よ、まだまだ楓姉さんと二人きりで勉強するには日にちがかかりそうだな。頑張れよ。


 そんなことを皆で話していると、タタタタタと足音が聞こえてきて、さっきまで座っていた凛が飛び込んできた。



「ねねね、皆、課題のプリントやってきた? 私、昨日はアニメに熱中しちゃって、プリントしてないのよ。お願いだから写させて」



 昨日、燈子と一緒に勉強したんじゃねーのかよ。課題プリントぐらいしとけよ。


 後ろの席でガサガサとカバンに手を入れている音がする。そして大和がプリントを凛に差し出した。



「プリントはやってあるぜ。答えは全問書き込んである。凛、俺のプリントを使えよ」



 大和がポーズを決めて、上腕二頭筋を膨らませる。



「イヤよ。大和の答えなんて、絶対に間違っているもの。楓ねえさん、結愛、私に愛の手を、プリーズ」



 大和、沈む。上腕二頭筋もしぼんで、不憫だ。



「あらあらあら、凛もしかたのない子ですねー。今回だけですよ」



 そう言って楓姉さんがプリントを凛に渡す。毎回、楓姉さんが宿題を手伝うから、凛が宿題をしてこないんだよ。楓姉さんは皆に甘いからな。


 皆で騒いでいるとHRのチャイムが鳴り、廊下から担任の先生が教室の中へ入ってきた。それを見た、凛、結愛、楓姉さんの三人は自分の席に戻っていった。


 HRが始まった。俺はカバンを枕にして、机に突っ伏して寝る準備に入った。

ブックマ・評価☆(タップ)の応援をよろしくお願いいたします(#^^#)

作者の執筆の励みとなります。

よろしくお願いいたします(#^^#)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ