5話 課題プリント
澪姉ちゃんとヅケ丼を食べた後、YouTubeで歌を聞いていると、スマホから通知が届いた。スマホの画面を見ると、結愛からのLINEだ。いったいこんな時間に何の用だろう。
俺は素早く指をスワイプさせて、結愛に向けてコメントを打つ。
『何の用?』
『学校に課題のプリントを忘れてきた』
『で、何の用?』
『課題を見せて。宿題したいから』
そんなことは知らん。宿題のプリントを持って帰らなかった結愛が悪い。明日、先生に怒られろ。
『断る』
『なんでよ。こんなに頼んでるのに』
まったく頼んでる奴の態度ではないよな。だから女の子のお願いはイヤなんだよ。
『宿題まだやってないから』
『それで?』
『プリントは渡せない』
『それなら今から一緒にしよ』
今から来るなよ。憩いの一時を邪魔されたくない。家に来られても、宿題をしていないから、プリントを渡して帰すこともできない。
『イヤだ。断固ことわる』
『今から行くから』
おい、人の話を聞け。イヤがっているだろうが。女の子は思い込んだら一直線の所があるからイヤなんだ。
それからしばらくすると家のチャイムが鳴った。俺は玄関のドアの所へ行き、チェーンロックをかけ、ドアを少しだけ開ける。
すると結愛がドアに手をかけて、ドアを開けようとしたが、チェーンロックでそれ以上ドアは開かない。
「ここ開けてよ」
「イヤだ。断る」
「一緒に勉強しよって言ってるだけじゃない。勉強教えてあげるから」
「お前だって、成績は俺と似たようなもんだろ」
「ぐだぐだ言ってないで、このドア開けなさいよ」
俺がドアを強引に閉めようとすると、結愛がドアの隙間に足と体を入れて、ドアが閉まらないようにブロックする。
押し問答をしていると、いきなり後ろから拳骨を落とされた。振り返ると澪姉ちゃんが下着姿で、両腕を前に組んでいた。
「悠人、何してんのさ。外に誰がいるんだい?」
「澪ちゃん、私、結愛。勉強しに来たんだけど、悠人が意地悪してドアを開けてくれないの。澪さん、ドアを開けて」
結愛の奴、澪姉ちゃんに泣きつくなんてズルいぞ。
澪姉ちゃんが強引に俺の体を引っ張ってドアから遠ざけ、チェーンロックを外して結愛を玄関の中へ入れた。
「玄関でごちゃごちゃしてたら、ご近所迷惑になるだろ。もっと考えな」
なぜ、俺が怒られるんだ。理不尽だ。
「澪ちゃん、ありがとう。失礼します」
結愛がリビングへ入ってきて、澪姉ちゃんにペコリと頭を下げる。
結愛と澪姉ちゃんも同じマンションで暮しているので顔見知りだ。そしてなぜかこの二人は仲がいい。
高校二年になって結愛と同じクラスになってから、ちょくちょく結愛が課題プリントを忘れて、家に課題プリントを取りにくる。いつもなら先に宿題を終わらせいるから、プリントを結愛に渡して終わりだが、今回のように家の中へ入れたのは今日が初めてだ。
澪姉ちゃんがソファーに胡坐をかいて、ニッコリと笑む。
「結愛なら大歓迎さ。部屋で悠人に襲われたら、大声で叫ぶんだよ」
「だれが、こいつを襲うかよ」
「悠人はヘタレだから大丈夫。澪ちゃん、ありがと」
誰がヘタレだ。俺は女に興味がないだけだ。決してヘタレではない。
部屋の中に入り、ベッドの横に立てかけてあった、折り畳み式のテーブルを出して、中央に置く。結愛がちょこんとテーブルの前に座った。
机の上のカバンの中から課題のプリントを出して、テーブルの上に置いた。そして俺は椅子に座ってスマホをいじくる。
「ねえ、一緒に勉強しないの?」
結愛が不思議そうな顔で俺を見上げて来る。
「俺は後でプリントをするから、プリントの問題を写したら帰れよな」
「えー一緒に勉強したらいいじゃん」
「それってカンニングになるだろ」
「いつもはいい加減なこと言ってんのに、何をかっこつけてんのよ。私の前に座りなさいよ。それとも私の前に座るのが恥ずかしいの?」
そんな訳あるか。結愛相手に緊張するなんてないわ。
俺は澪姉ちゃんの裸や下着姿を見て育ってきたんだぞ。結愛と距離が近くなったぐらいで緊張するか。
仕方がないので、俺は椅子から立ち上がり、ドガッと結愛の前に胡坐をかいた。すると結愛が満足そうに、ノートを出してプリントを写し始めた。
プリントに集中しているので、いつものようにうるさくない。結愛も黙っていると普通に美少女なんだよな。今着ている白のニットも似合っている。
そんなことを考えていると、澪がジロリと顔を上げた。
「何見てんのよ。まさか私の胸を見ようとしてたんじゃないでしょうね」
「誰がお前の胸なんて見るかよ。俺は女に興味がないんだぞ」
確かにニットのVネックが大きく開き、少し胸の上まで見えているが、胸までは見えていない。これぐらいドキドキなんかしない。澪姉ちゃんで鍛えられているからな。
でも気まずいことには変わりなく、俺は視線を逸らすため、スマホをいじくることにした。
しばらくすると結愛が困ったようにペンをあごに当てる。
「ねー、この問題の答え、教えてよ。私、わかんない」
「それぐらい自分でやれよ」
「だからわかんないって言ってるじゃない。丁寧に教えてくれてもいいじゃない。ケチ」
「ケチでけっこう。コケコッコー」
「ムー」
結愛が肌をピンク色に染めて、頬を膨らませる。そしてじーっと無言で俺に視線を送ってきた。
(こうなると女の子は頑固なんだよな)
「解説するだけだからな。答えは自分で見つけろよ」
俺はため息をついて結愛に勉強を教えていく。まったく女の子は手間がかかる。
結愛がプリントを見ながら小さく呟いた。
「ありがとう、悠人」
しかし、その言葉は小さく、俺の耳には届かなかった。
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