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4話 澪姉ちゃん

 マンションの玄関のドアに鍵を指す。あれ?……ドアが開いてるぞ?


 玄関からリビングへ入ると、ソファーに俺の女嫌いの一因が下着姿で寝そべっていた。



「姉貴、毎回言ってるけどさ、部屋の中で下着だけでいるのは止めろよ。俺も高校二年生なんだぜ」



 これが俺の頭痛の種で女嫌いの一因、円城学院大学に通う女子大生のみおだ。


 澪が髪の毛をガシガシと搔きながら起き上がってきた。そして胡坐を組む。色々と危ない所が見えそうで目を逸らす。絶対に見たくない。



「こら女が胡坐をかくなよ。少しは女性らしくしろよ」


「うるさいなー。家の中ぐらいいいじゃんよ。段々と小姑みたいになってるぞ、悠人」



 いくら注意をしても俺の言うことなんて柳に風。まったく聞いていない。



(だから女は嫌いなんだよ。都合の良いことしか耳に入らないんだから)



 ブレザーを脱ぎながら、俺は疑問に思ったことを口する。



「今日は、大学は? 出かけたんじゃなかったの?」


「あー、大学へ行ったらさ、講義が休講だった」



 そんなの前日に大学の用意をしていれば自然とわかることだろ。どうしてわからないんだよ。



「前日に確かめておかなかったのかよ」


「そんな面倒なことする訳ねーじゃん」



 この面倒臭がり屋め。黙っていると美人だけどな。性格が壊滅的なんだよ。本当に残念な姉だよ。


 澪姉ちゃんが俺の方を意味ありげに見上げる。



「それなら悠人が私の予定管理してくれよ」


「絶対にヤダ」



 そんなもの絶対に引き受けるもんか。そんなことをすれば、俺が色々と大学へ行く用意することになるに決まってる。それでなくても食事の準備、洗濯、家事全般は俺なんだぞ。


 ソファから立ち上げて、澪姉ちゃんがキッチンへ歩いていき、冷蔵庫のドアを開けて、オレンジジュースをコップに入れて一気に飲む。



「悠人が家の中の色々をしてくれるから、この家も安泰だ。本当に感謝、感謝。ワハハハ」



 絶対に感謝なんてしてねーだろ。澪姉ちゃんは昔から笑って誤魔化すタイプだからな。全く反省したことがない。


 ブレザーを片手に持って自分の部屋へ入る。机の上にカバンを置いて、普段着に着替えた俺は、ドバっとベッドに突っ伏した。そしてゴロンと仰向けになる。


 俺が四歳の時、何が原因かは知らないが、母さんが家を出て行ってから、父さんは仕事で俺達を養ってくれている。そして小さい頃から澪姉ちゃんは明るく元気で、いつも俺のことを守ってくれた。


 今思い返せば仲の良い姉弟だよな。いつの頃からだろう、気が付けば俺は女が嫌いになっていたけど。母さんが俺を置いて出て行ったことを引きずっているからかな。


 澪姉ちゃんが部屋のドアを開けて下着姿で入ってきた。いい加減、上着を着ろよ。



「おーい、腹減った。コンビニでケーキを四つ買ってきてくれ。ケーキ四つだからな。パンじゃーねーぞ」


「自分で買いに行けよ」


「私は下着姿なの。これで買い物に行ったら襲われるだろ」



 澪姉ちゃんの破天荒な行動と性格も、俺の性格が歪んだ一因になっているとも思う。俺はやれやれと思いながらベッドから立ち上がる。



「素直な子は好きだよ」


「誰も好かれたくねーよ」


「素直じゃないねー」


「うるせーよ」



 俺はパーカーを羽織って部屋を出る。そして玄関を出て鍵を閉めた。一応、妙齢の美人が部屋で下着姿でいるわけだし、用心しておこう。


 エレベーターを降りて一階のロービーを歩く。そしてロックを解除して外へ出た。外は夕暮れ時で、空が段々と赤く染まってきている。


 歩いて五分のコンビニに入る。レジ近くの台に置かれているケーキを見る。カゴの中にケーキ四つを入れ、それから苺大福とブラックコーヒーをカゴへ入れた。


 澪姉ちゃんは甘いモノが大好きなのにアンコだけは苦手だ。ブラックコーヒーも飲めない。だから苺大福とブラックコーヒーは、澪姉ちゃんに取られることはない。



(女からは自分の身は自分で守らないとな。油断は禁物。これは鉄則だ)



 レジへ持って行くと、カウンターに立っていた七瀬陽菜ななせひながニッコリと笑う。



「いらっしゃいませ、悠人」


「おう」



 陽菜は俺の同級生で、隣のBクラスだ。同じ中学出身で中学の時に少し絡んだ程度だが、なぜか俺によく絡んでくる。


 ビニール袋へ商品を入れ、俺の手に持たせながら陽菜が小声で囁く。



「後五分で休憩だからさ。悠人、外で待ってて。一緒に休憩しよ」


「あーめんどい。早く帰らないといけないんだけどな」


「いいから、いいから。約束したからね」



 一方的に約束を押し付けられた。女の子が使う常套手段だ。これで家に帰ったら学校で絡まれる。ここは諦めるしかない。


 コンビニの横の駐車場でブラックコーヒーのプルトップを開けていると、コンビニの制服を脱いだ陽菜が駆け寄ってきた。



「お待たせ、ニヒヒヒ」


「何がおかしいんだよ」


「いいから、いいから」



 陽菜は三条院学園に入学してすぐにコンビニのバイトを始めた。週に一度から二度のペースでシフトに入ってバイトをしている。


 コンビニを頻繁によく利用するので陽菜とは顔馴染になった。高校で陽菜はギャルを気取っている。だから色々と噂がある。


 本当かどうかは知らないが、俺に関係ないし。それに噂なんてくだらない。


 そんなことを考えていると、陽菜がコンビニから飛び出してきた。タタタタタと足音をたてて走ってくる。



「おまたせー。へへへ」



 俺がブラックコーヒーを飲んでいると、陽菜が手を伸ばしてきて、ブラックコーヒーを奪い取って、ゴクゴクと飲む。



「へへへ。やっぱりコーヒーはやっぱりブラックだぜ」


「人のコーヒーを横取りするな」



 陽菜が満足そうな顔でブラックコーヒーを返してくる。それ、今、口をつけたよな。



「もう、いらねー」


「ラッキー」



 陽菜は嬉しそうにブラックコーヒーを一気に飲む。そして飲み干すと、ニッコリと笑んだ。


 それから少しの間、陽菜の他愛もない話に付き合った。陽菜が一方的に話して、俺は相槌を打つだけだが、陽菜は満足そうに微笑んでいる。



「もう時間だからいくよ」


「ああ、またな」



 元気に駆け足でコンビニの中へと陽菜は戻って行った。俺は空を見上げる。一筋の飛行機雲が空に浮かんでいた。


 早く帰らないと澪姉ちゃんが待ってるな。

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