表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/27

3話 商店街で

 校門の前で皆と別れた。湊斗は楓姉さんを送って帰るという。大和、凛、燈子の三人は帰る方向が同じなので、三人で騒ぎながら別の方向へ歩いていった。


 俺と結愛は黙ったまま歩く。



「誰もあんたと二人で歩きたくないんだからね」


「俺だってお前を歩きたくねーよ。家が一緒の方向なんだから、仕方ないだろ」



 別に結愛と一緒に帰りたくはない。同じマンションに家があるため、どうしても帰る方向が同じになる。ちなみに俺の家は十二階で、結愛の家が十階だ。


 俺の家は父子家族で、父親が仕事柄、転勤が多かった。そしてこの街に移り住んだわけだ。この街に来てから十年が経つ。


 同じマンションということで、結愛とは学校への登下校で会うことも多く、腐れ縁だと思う。


 商店街を通り抜けようとすると、魚屋の親父が結愛に声をかける。


「結愛ちゃん、今日はイキのいいタイが入ってるよ。新鮮なイワシもあるよ。少し寄っていっておくれ。サービスするからさ」


「おじさんありがとう。それじゃあ、少し寄って行こうかな」



 結愛が嬉しそうに笑って、魚屋に足を向けた。



「それじゃあな」



 俺には関係ない。俺が結愛に背を向けて歩いていこうとすると、結愛に止められた。



「ちょっと待ちなさいよ。あんたの家も今日のご飯決まってないんでしょ」


「決まってないから、どうした?」


「あんたも夕食の具材を買っていきなさいよ。オジさん、安くしてくれるって言ってるじゃない」



 そんなの俺に関係ないだろ。俺は早く家に帰りたいんだよ。それに高校生がブレザー服で買い物のビニール袋を下げて歩くなんて恰好悪いじゃないか。



「俺、興味ねーし、先に行くわ」


「待ちなさいよ」



 結愛が俺の制服を掴んで離さない。俺は深い息を吐く。



(だから女はイヤなんだよ。なんで押しが強いのかね)



「わかった。少しだけ買って帰るわ」


「はじめから素直に言いなさいよ。本当に素直じゃないわね」


「へいへい。どうとでも言ってくれ」



 俺と結愛は二人揃って魚屋へ入る。中に入ると磯の香りが漂ってくる。親父がニマニマとした笑顔で、俺達を温かく見ている。



「いつも仲良くていいね」



 どこが仲いいんだ。よく俺達を見てから言ってほしい。今まで言い合いしてたんだぞ。



「おっちゃん、俺、刺身用のタイ三枚」


「毎度あり」



 親父が元気よく返事をして、ビニール袋へ刺身用のタイを三枚入れた。財布からお金をだして、親父に支払う。これで俺の用は無くなった。



「先に行くぞ」


「待ってよ。今、選んでるんじゃない。気をきかせなさいよ」



 これだから女の子の買い物には付き合いたくないんだ。絶対に買い物が遅くなるからな。



「おじさん、私も刺身用のタイを四枚」



 結局、俺と同じにするなら悩まなくてもいいだろ。女の子の心理はよくわからん。



「結愛ちゃんはきれいで可愛いから負けとくよ」


「おじさん、ありがとう」



 なぜ、結愛だけ負けてもらうんだよ。一緒に買い物してるじゃねーか。世の中、理不尽だ。


 魚屋を出ると、結愛がビニール袋を見せて、俺を覗き込む。



「これ今日は刺身にするの?」


「ん……親父と姉ちゃんの帰りが遅いかもしれないから、新鮮なうちにヅケにするつもりだけど」



 ヅケに浸しておけば、すぐに料理できるからな。ズケは簡単な料理だから手間も取らないし、美味い。


 結愛が「ふーん」と感心したような顔をする。



「悠人がするの?」


「俺が料理をしたら変か? 姉ちゃんも親父もいつ帰ってくるかわからねーから仕方ないだろ」


「不憫ね」


「ほうっておけ」



 結愛の家のように家事の上手い母親がいないんだよ。同じマンションなので、ゴミ出しの日などに結愛のお母さんと挨拶したことがある。


 笑顔の似合う美人なお母さんだ。結愛と似ている気もするが、そのことを結愛に言ってやる気はない。



(女の子はうかつに褒めると調子に乗るからな)



 商店街を抜けて、歩道を歩いていく。すると遠目から俺達が住むマンションが見えてきた。十五階建てのマンションは頭一つ抜けているので、わかりやすい。


 マンションの一階のロビーに到着すると、結愛が少し戸惑った仕草をして俺に聞いてきた。



「ヅケってどうするの? 簡単?」


「簡単だ。まず米を炊く。米はそのままでもいいし、酢飯にしてもいい。タイの切り身、大葉、青ネギをトッピングして、あとはヅケ汁を作ってかけるだけだ。」



 ヅケ汁は家々のよって違うからな。結愛がカバンからペンとノートを取り出す。



「もっと詳しく教えてくれてもいいじゃん」


「ヅケ汁は酒、みりん、醤油で作る。お好みに合わせてゴマも入れても美味い。大葉を細かく千切り、青ネギを小口切りにして用意する。のりをトッピングしても美味い。卵を落としても美味い」



 結愛はうんうんと頷いて俺の話を聞いていた。そしておもむろにペンとノートを俺の前に差し出してきた。



「書いて」


「面倒臭いだろ。ネットで調べたら、ズケ丼の調理方法ぐらいは出てくるぞ」


「いいから書いて」


「イヤだ」



 呆れた顔をして結愛を見るが、結愛は諦めないようだ。



(女の子は一旦言い始めたら、こっちが言うことを聞くまで引かないからな)



 仕方なくペンとノートを受け取って、ズケ丼のレシピを書いて結愛に渡した。



「ありがとう、悠人」



 なぜか結愛はニッコリと満足そうに笑って、顔を赤くしてマンションのロビーへと先に入っていった。不思議な奴だ。

ブックマ・評価☆(タップ)の応援をよろしくお願いいたします(#^^#)

下にある、☆☆☆☆☆→★★★★★へお願いします(#^^#)

作者の執筆の励みとなります。

よろしくお願いいたします(#^^#)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ