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26話 恥ずかしがり屋の燈子

別作品の書籍出版準備に入ることになり、時間の余裕が取れなくなりました。

準備が終了次第、連載を再開したいと思っています。

何卒、ご理解のほどよろしくお願いいたします。


潮ノ海月

 次の日の午前中、俺と結愛は屋上で顔をつき合わせて考え込んでいた。結愛が少し焦れたように、俺を見上げてくる。


「昨日は勢いで、学の恋愛相談に協力するって言っちゃったけど、具体的にどうしたらいいと思う?」


 結愛がぐんぐんと体を寄せてくる。結愛から甘くて爽やかな香りがする。その香織に若干ビビりつつ、俺は一歩退いた。そんなに迫ってくるなよ。顔が近い。


「協力するって言ったのは結愛だろ。俺は言ってない」


「あの場にいたんだから、共同じゃん。一人だけ逃げようとしないで」


 確かに昨日の学の熱意にほだされた。でも恋愛をしたことない俺が、他人の恋愛に協力するなんて、考えるまでもなく、最初から無理ゲーじゃん。


「学の気持ちはわかってる。だけど燈子の気持ちがわからない。燈子に聞くしかないけど……どうやって聞くかだよな」


「それがわからないから、こうして悠人に相談してるんじゃん。私だって恋愛に詳しくないんだからね」


 なぜ、そこで胸を張る。確かに結愛の胸は大きくて立派だが。


「俺達が悩んでいてもしからないだろ。誤魔化しながら上手く燈子から聞き出せるようなテクも俺達にはないんだし、燈子に直接、聞くしかないだろ」


「じゃあ、悠人が燈子に聞いてよ」


「なんで俺だけなんだよ。結愛も一緒に決まってるだろ」


 女性は嫌なことは全て丸投げする癖がある。絶対に俺一人なんて嫌だからな。


 結愛が少し考える仕草をして、それから大きくため息をついた。


「肝心な時に悠人はヘタレね。私がいないとダメなんだから。わかったわ。私も一緒について行ってあげる」


 なぜ俺がヘタレ扱い。それも上から目線。理不尽だ。


「そうと決まれば、昼休憩に燈子を捕まえるか?」


「昼休憩だと時間がないわよ。放課後に捕まえましょ」


「わかった。それでいこう」


 やることも決まった。時間も決まった。あとはどうなるかわからないが、やれるだけのことはやってみよう。俺と結愛は頷きあって、屋上を出て階段を降りていった。


◇◇◇


 HRが終わるチャイムが鳴り、担任の先生が教室から出ていった。俺は素早くカバンを持って席を立つ。そして燈子を見ると、燈子が教室を出ていくのが見えた。


 慌てて後を追いかけて廊下に出て、歩いている燈子の隣に並ぶ。そんな俺を燈子が怪訝そうな顔で見た。


「何か用? 私、これから先生のお手伝いをしに、職員室まで行くんだけど」


 燈子の隣を歩くのはいいが、何を言っていいのか思いつかない。どうしたらいいのか悩んでいると後ろから結愛が追いついてきた。


「悠人、もう燈子に聞いた?」


「……まだ。何て聞けばいいんだよ」


 結愛が俺を見て深くため息をつく。それを燈子が見て、俺達に「何?」というような顔をして首を傾げた。結愛が意を決したように口を開く。


「何て言ったらいいのかわからないから、直球で聞くね。燈子は学のことどう思ってんの?」


「は? 結愛、何言ってんの? 廊下で大声を出さないで。 こんな所じゃ恥ずかしいよ」


「結愛、もっと言葉選べよ。直球すぎるだろうが。俺が悩んでた意味ないじゃん」


「だって、私だって何て言えばいいのかわからないんだもん。仕方ないじゃん」


 どうして女の子というのは土壇場になると短気になるというか、考えなしというか、潔いというか、もうどうにでもなれだ。


 燈子はいたたまれなくなったのか、急に走り出して職員室の中へ飛び込んでいった。俺と結愛も燈子を追いかけて職員室の中へ入る。


 すると燈子は担任の先生のデスクまで歩いていったので、俺達は職員室のドアのところで待つことにした。


 燈子が担任の先生からプリントをもらい、コピー機の前に移動した。あそこなら話していても目立たない。今がチャンスだ。俺と結愛はゆっくりと燈子に近づいた。


 燈子はチラリと俺達を見た後にコピー機に目を移す。


「学のことは、よく知ってる。だって幼稚園からの幼馴染だもん。家も隣だし」


「好き? 嫌い?」


 結愛、もっと言葉を選べよ。二者択一かよ。


「そんなこと言われてもこまるわよ」


 燈子がコピー機を見ながら、段々と顔色がピンク色に染まっていく。結愛は燈子の様子などかまわず、確信に迫る。


「学が燈子のこと好きなこと、知ってるのよね」


「うん……幼稚園の時から、好き、好き、って言われ続けてたから……知ってるわよ」


「それで燈子の気持ちは?」


 結愛、グイグイといき過ぎだろ。なんでお前はそんなに度胸がいいんだよ。もっとオブラートに包めよ。すでに燈子の顔はピンク色を超えて真っ赤だ。


「嫌いじゃないわよ……だって幼馴染だし、友達だし……」


 コピー機が印刷する音が止まった。燈子が用紙を胸に抱えて俺達を見る。その顔は恥ずかしさに染まっていた。


「ここで、これ以上話せないよ。プリントを先生に渡したら、用事は終わるから、それまで待ってて」


 と言い残して、そそくさと担任の先生の所へ向かっていった。そして燈子は担任の先生と何かを話、ペコリとお辞儀をした後に俺達の元へ戻ってきた。


「さあ、帰りましょ」


 燈子はドアの前でペコリと頭を下げ、職員室を出ていった。俺達もお辞儀をして燈子の後を追う。


 俯きながら、黙ったまま、燈子は歩き続ける。俺と結愛は隣を歩きながら、燈子が話してくれるのを 待った。校舎と出て校門に着いてしまった。


「やっぱり、こんな恥ずかしいこと、人に言えない。絶対に言えない」


 いきなり燈子が走り出す。結愛と俺は互いに顔を見合った。


「追いかけるわよ」


「お、おう」


 必死で走り続ける燈子を俺達は急いで追いかける。


 なぜ逃げるんだよ。どうして俺達がこんな目に合うんだよ。


 燈子は走り続け、とうとう家まで辿り着き、玄関のドアを開けて、中へ逃げ込んでしまった。俺も結愛も燈子の家を見ながら立ち尽くす。


 いったい、これからどうすればいいんだよ。

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