25話 学から相談
午後のHRが終わり教室を出て帰ろうとすると、ドタドタドタという足音が聞こえてきた。気配を感じて振り向くと、学が手をワタワタとさせながら走ってくる。
「待たれい。待たれい。悠人殿、まだ帰るでない。待たれい」
走ってきたので、いつもきれいに七三に分かれている髪の毛が乱れている。そんなに急いでどうしたんだ?もう俺に用はないはずだが?
先日の撮影で、学はちょっと変わった変人だが、悪い奴ではないことを知った俺と結愛は学と親しくなっていた。
「なんだ学、俺に何か用か? 今から帰るところなんだが」
「左様、友と見込んで、相談に乗ってほしいことがあるのだ。フォト部まで一緒に来てほしい」
学は良い奴だが、カメラのこととなると頭がおかしくなる。あまりフォト部へ近寄りたくない。
「また撮影しようと言う訳ではないよな?」
「違う。違う。滅相もない。吾輩のことを誤解してはいかん。撮影の時は撮影という。今回は個人的な相談だ。お頼み申す」
「これだけお願いされてるんだから、一緒に行ってあげたら」
隣に立っていた結愛が学に助け船を出した。この間の撮影の時から、結愛は学に好意的だ。
学の裏表のない性格が結愛に好まれたのだと思う。
「わかった、学。少しでいいなら一緒に行こう」
「申し訳ない。感謝する」
学と二人で肩を並べて歩き出すと結愛が後を付けてきた。顔だけ振り返り、結愛を見る。
「何でお前も一緒に来てんだ? お前は用がないから、帰っていいんだぞ」
「学の相談事でしょ。興味あるじゃない。私も行く」
結愛が好奇心満々な顔をして宣言する。確かに興味はあるよな。
部活練に着いて、フォト部のドアを開けて中に入る。この間も来たけれど、壁に貼られている写真の数はいつ見ても圧巻だ。
学が机の引き出しからスチール製の箱を取り出し、蓋を開けてアルバムを数十冊取り出した。
「これは吾輩の私物でしてな。誰にも見られぬよう、部室に保管しているモノです」
「何かわからんが、厳重に保管してるんだな」
「まずは悠人殿と結愛殿に拝見してもらいたい」
結愛と俺にそれぞれにアルバムと渡す。アルバムを開くと小さい女の子が楽しそうに遊んでいる写真が目に飛び込んできた。
結愛がビックリしたように目を開く。
「これって燈子じゃない」
「左様、吾輩が五歳の頃にカメラを父親殿から貰ってから撮りためたモノです」
五歳から撮り溜めた写真か。全て燈子ばかりだ。それにしてもすごい量だな。
結愛が若干引きつった顔で学を見る。
「これってストーカー……」
確かにストーカーと言われても仕方ないかも。この量だからな。俺と結愛の視線に気づき、学が必死に両手を前にしてワタワタする。
「そうではない。そうではない。吾輩はストーカーではないぞ。燈子を見ていると勝手にシャッターを押してしまうのだ。燈子ほどの被写体はないのだ。いやらしい気持ちは一切ない。」
学は変人だが、裏表のない善人だ。嘘をついているとは思えない。
「ひとまず、学を信じよう」
「ありがたい」
これだけ燈子の写真を見せられたんだから、だいたいのことは想像が着く。
「相談したいことは燈子のことか?」
「そうなのだ。この胸の想いをどうすればよいのか……シャッターを切る度に想いが募るのだ」
俺は大きく頷いて、結愛の顔を見る。結愛が「何?」という表情で俺を見る。
「結愛、恋愛相談だ。後のことは頼む」
「何、言ってんのよ。悠人が相談を受けてるんじゃない。悠人が聞きなさいよ」
「恋愛話と恋愛相談は女の領分だろ。女嫌いの俺が恋愛なんてわかるはずないだろ」
「勝手に女の領分にしないでよ。私だって恋愛なんてわかんないわよ」
俺と結愛が言い合っていると、学が疑問な表情をして首を傾げる。
「悠人殿と結愛殿は付き合っているのだろう。それだけ仲がよいのだから」
どういう見方をしたら、俺と結愛が付き合っているように見えるんだ。学、眼科へ行ってこい。絶対に重症だぞ。
俺と結愛が付き合っていると学に言われてから、結愛が顔を真っ赤にして、頬に手を当てて、体をフニャフニャと動かしている。
「私と悠人がそう見えるんだ……私達まだなんだけどね……キャー」
小さい声で結愛がブツブツと呟いている。なんだか怖い。
「俺達は付き合ってなどいない。ただの腐れ縁だ」
「腐れ縁とは何よ。もう少し言い方あるでしょ」
「いちいち噛みつくな」
「それほど仲が良いのに不思議であるな」
学があごに手を当てて、考えるように俺達を見る。俺達、二人のことは放っておいてくれ。
「俺達のことはいいだろう。それよりも早く相談しろよ」
「燈子のことが好きなのだ。猛烈に好きなのだ」
「そのことは大量の写真を見ればわかるが、それで?」
「大願を成就したい」
燈子と上手く付き合いたいということか。俺は女嫌いだぞ。どうやって女の子と付き合うのか、方法も知らないぞ。
「俺にはわからん。結愛、出番だ。頑張れ」
面倒くさくなった俺は全面的に結愛に任せることに決めた。結愛が大きく息を吐いて、小声で「仕方ないな」と呟く。
「今まで燈子に告白したことは?」
「そんな節操のないことはしたことがない」
「燈子は学が想ってること知ってるの?」
「吾輩は上手く隠しているからな。燈子は知らないと思う」
隠せているように思えないんだが、一応、学の言うことを聞いておこう。
結愛が真剣な顔で学に質問を続ける。恋愛のことになると、途端に女の子は真剣になるものだよな。
「燈子を好きになったのは、どれぐらいから」
「あれは三歳の春であるな。吾輩が幼稚園に入園した時が初めて燈子と出会った時であるその時、天から光が降りてきて、燈子が光に包まれ……」
どこかのファンタジーか。聞いてられんわ。
やることはわかっている。まずは燈子の気持ちを聞くのが先だ。行動するのはそれからでいい。俺は早々と頭の中で優先順位を決めた。
椅子に座った俺は、結愛に学を任せて、夢の世界に旅立った。結愛に揺すられて目が覚めた時には部室の中は夕焼け色に染まっていた。
部室を出た後に、結愛にこってりと絞られたことは言うまでもない。
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