22話 学
「私は学、鏑木学だ。フォト部の部長をしておる。時間が惜しい。今日の昼休憩で良いか? 集合場所はフォト部の部室でよいな。遅れるでないぞ」
なんだ、この眼鏡をかけたおっさんは? 本当に高校生か? おっさんが制服を着ているだけじゃないのか?
「それでは約束だぞ、では」
何を勝手に決めてんだ。俺は何処へも行く気はねーよ。俺は学の腕をガッシっと掴む。
「ちょっと待て」
「もう用件は伝えたはず。吾輩は忙しいのだぞ」
「やかましいわ。勝手に何でも決めんな。お前のことなど知らんわ。誰が行くか。断る」
学は困ったような顔で眼鏡をクイッと上げる。
「ワガママを言ってはいかんな。吾輩が撮影してやろうと言うのだ。光栄に思うがいい」
「誰がそんなこと思うか。いい加減にしろ」
なんだこのややこしい奴は。俺が頭を抱えていると燈子がダッシュでやってきて、学の首根っこを掴んだ。
「学、何をやってんのよ。私の友達に迷惑かけないでよ」
「おお燈子ではないか。良い所にいた。この美少女男子に言ってくれ。吾輩は怪しい者ではない。ただ撮影したいのだ。カメラマン志望としては、こんな逸材を放置しておくことはできん。燈子からも説得してくれ」
「嫌よ。絶対に嫌」
「吾輩と燈子の仲ではないか」
「ただの腐れ縁の幼馴染じゃない。もう帰んなさいよ」
学は燈子の幼馴染か。変な幼馴染を持つと燈子も大変だな。燈子は深くため息をつくと、学の首根っこを捕まえて、引きずるように教室のドアのほうへ向かう。
「昼休憩にフォト部の部室で待っておるぞ。絶対に来るのだぞー」
学は必死に俺に手を振って、教室から消えていった。学が消えて教室の中に静寂が流れる。
なんだかわからないが、騒がしい奴だったな。
ホッと一息ついていると結愛がタタタタタと歩いてきた。
「あれ学だよね。悠人、学のこと知らないの? 学は三条院学園高校の中でも一二を争うぐらいの変人で有名よ」
あまり学校の噂には興味がないからな。噂は全てスルーすることに決めている。そうか学は変人で有名なんだな。納得できる話だ。
結愛が学のことを思い出したのか、少し緊張した表情で俺を見る。
「すごいカメラきちがいなの。学校新聞の写真も撮ってるほど腕はいいんだけど、性格がアレなんだよね。誠実な人ではあるんだけど、誤解されやすいのよね」
「結愛、お前、学のことよく知ってるな」
「撮影させてって、一年生の時に散々追い回されたわよ。狙った獲物は絶対に逃さないのよ。悠人もロックオンされたんだから、早めに諦めたほうがいいわよ。撮影を終わらせれば学の熱も下がるから」
狙ったものは逃さない。困った奴に見込まれたな。
廊下から燈子が手を叩きながら戻ってきた。ゴミのように放り投げてきたのだろうか。
「悠人、ごめん。学が迷惑をかけて。本当にごめんなさい」
「燈子も大変な幼馴染を持って大変だな」
「学もカメラのことがなかったら、まだ普通なのよ。カメラのことになるとおかしくなるの」
普通の人か。とてもそんな風には思えないけど。おもむろに燈子がペコリと頭を下げる。
「悠人、学は真直ぐな人なの。カメラにもすごく真直ぐで。お願いだから、どうかイヤわないであげてほしい。この通りだからどうかお願い」
燈子が俺に頭を下げるなんて。今まで一度もなかったぞ。
「わかった。学のことは嫌わない」
「じゃあ、昼休憩に学の所へ行ってくれる?」
「いや……それとこれとは……」
「やっぱり学のこと変だと思って嫌がってるんだ」
正直に言うと行くのは嫌だ。でも、それを言える雰囲気じゃないな。
「わかったよ。行くよ。行けばいいんだろ」
俺の言葉を聞いて燈子が嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
◇◇◇
「なんで私が付き添いしなくちゃいけないのよ。悠人だけで行けばいいじゃない」
結愛がむくれた顔をして口を尖らせる。
「学は燈子の幼馴染なんでしょ。燈子と一緒に来ればいいじゃない」
「燈子は今日も先生のお手伝いをしているよ」
「もっとゆっくりとお弁当を食べたかったのにー」
結愛の愚痴は止まらない。でも一緒に付いてきてくれる。本当に結愛はいい奴だな。
三階建ての校舎と出て、隣の部活練へ向かう。部活練の中には色々な部室が並んでいる。昼休憩なので、人通りはほどんどない。
二人でゆっくりと歩いていくと、フォト部と書かれた看板が斜めに吊るされていた。
「ここだな」
「呼ばれたのは悠人でしょ。早く開けなさいよ」
結愛にせかされてフォト部のドアを開ける。すると窓から入る日光に眼鏡のレンズが反射して、眼鏡をキラリと光らせる学がにこやかに待っていた。
「さあ、入ってくだされ。ようこそ吾輩の城へ」
フォト部の中に入ると、イケメンの男子学生や美少女の写真が所狭しと飾られていた。一カ所コーナーが作られている所もあり、そこを見てみると怜央と遥馬のコーナーだった。
本当にあいつ等も大変なんだな。思わず飾られている写真を見てしみじみしてしまう。
壁に飾られている写真の中には、結愛と楓姉さんの写真もあった。その人の雰囲気が伝わる良い写真だ。学は本当にカメラが好きなことが伝わってくるようだ。
キョロキョロと部室の中を見て回っていると、カシャ、カシャとシャッター音が聞こえてくる。
カメラを構えた学が嬉しそうにシャッター押している。
「さあ、撮影をはじめまするぞ」
昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴るまで、シャッターのボタンから学の指が離れることはなかった。
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