18話 お出迎え
いつものように皆で校門から下校していると、見知った人影が立っていた。
「来ちゃった」
可愛い言い方をされても……可愛くない。
怜央と遥馬がグァムに撮影に行っていないのに、なぜ玲奈さんが校門の前にいるんだよ。どう見ても俺達を捕まえる気満々だろ。
「どうして日本にいるんです?」
「それは私が数名のマネージャーを兼務しているからよ。怜央と遥馬には別の者が同行しているわ」
チッ、グァムに行ってしまえばいいのに。
「私の顔を見て、舌打ちするのは止めなさいよ。これでも一応年上なのよ」
玲奈さんが両手を腰に当てて胸を張る。この人、無駄にスタイルいいんだよな。
周りを見ると、隣にいたはずの結愛と楓姉さんが、いつの間にか俺の後ろに立っていた。
頼むから俺を盾にするのは止めてくれ。
「それで、今回の用件は何です? 事務所へ行こうということならお断りしますけど」
「まだ諦めてないけど、今日は別件よ。この前、話していたでしょ。悠人くんをコーディネートさせてって」
「お断りです」
俺は家へ向かって歩き始める。すると玲奈さんと結愛が腕をガッシと掴む。なぜ結愛まで俺の腕を掴んでるんだよ?
「私達だけ残して、悠人だけ先に帰ろうなんて卑怯よ」
結愛、何を言ってるんだ……狙われてるのは俺だぞ。
「悠人が逃げたら、私達が標的になるものね。結愛の判断は正しいわ」
楓姉さんが両手をポンと叩いて、にっこりと笑う。
(そういえば女性は自分がピンチになると、必ず身代わりを用意するんだったな)
俺の身代わりになる者はいないのか。周りを見回すと凛と目があった。すると凛がスーッと目を逸らす。
「私、家ですることがあるから。もう帰るね」
「凛が帰るなら、俺も帰る」
「大和、今日は一緒に遊ぼうぜ。俺も行く」
凛、大和、湊斗の三人は、面倒なことになると察知したのか、そそくさと校門を離れて、家路へと去っていった。薄情者め。
燈子は先生の手伝いをしているので、まだ下校していない。
残る二人は結愛と楓姉さん。そう思って二人を見ると、なぜか期待を膨らませたような顔をしている。
玲奈さんが腕を離して、俺の正面に立つ。ちょっと顔が近いんですけど。
「機会があったらって言ってたよね。約束したよね」
「機会があったらとは言ったけど、今日とは言ってないし、約束した覚えもない」
俺が玲奈さんに反論しようとしていると、後ろから結愛と楓姉さんに両腕をロックされた。二人共、俺の味方じゃなかったのか。
「だって、悠人がコーディネートされないと、私達に回ってくるもん」
「それに悠人のコーディネートを見たいと思うの。面白そうだもんね」
結愛も楓姉さんも俺のことを考えてくれてないことはわかったよ。やはり最後に身を守るのは自分自身ということだな。だから女性は信用できない。
玲奈さんは勝ち誇ったように、俺の額を指でツンと差す。
「これで決まったわね。諦めなさい。行くわよ」
玲奈さんが先に歩き出す。俺は結愛と楓姉さんに囚われたまま、三人で後に続いた。こうなったら諦めるしかない。もう何も言うまい。
しばらく歩くとパーキングに真っ赤なメルセデスベンツA250eが止まっていた。
「さ、早く乗って」
玲奈さんが颯爽と乗り込む。そして結愛と楓姉さんが後部座席に乗り、俺が助手席に乗る。
「どこへ連れて行く気ですか。事務所なら断ったはずだけど」
俺が口を尖らせて言うと、玲奈さんが余裕の表情でにっこりと微笑む。
「事務所ではないわよ。私達の芸能プロダクションの系列会社に、カットハウスがあるのよ。あまり一般的には知られていないんだけど、読者モデルの子達も多く、カットに来ているわ」
そんな煌びやかな場所へ俺を連れていってどうするつもりだ。結愛や楓姉さんならわかるけど、俺は場違いだろ。
「俺はただの冴えない高校生ですけど」
「私の目に狂いがなければ化けるわ」
変な期待をしないでくれ。俺をそっとしておいてほしい。
俺達を乗せたベンツは約四十分ほど走り続けると、高級住宅街が並ぶ街並みの中に、カットハウスがひっそりとあった。
玲奈さんがカットハウスの中へ気軽に入っていく。
「こんにちはー。玲奈よー」
「はーい。おひさー」
「連絡した子、連れて来たわよ」
玲奈さんが、店の中にいる、スラっとした痩身の男性と気軽にハグをする。そして男性が俺達を見て、嬉しそうにニッコリと笑った。
「あら、可愛い子が三人も、嬉しいわ」
「奏ちゃん、三人共、まだ素人なの。逸材なのよ」
「私が鮮やかに染めてあげるわ」
なんだか男性の言葉遣いがおかしい。俺の背中に悪寒が走る。ひょっとしてアレなのか。
玲奈さんが俺の心配をよそに、俺達を男性に紹介した。そして男性が名乗る。
「私は時津風奏奏ちゃんと呼んでね。誤解されたら困るから言っておくけど、私のその気はないから安心して。私はノン気よ」
ノン気、いったいどういう意味だろうか。全くわからん。
俺達が呆然としている間に、奏ちゃんは店の扉の看板をクローズにし、カーテンを降ろした。そして店の奥の扉の前で振り返る。
「ボーっとしてないで、こちらへおいで」
戸惑っている俺達を玲奈さんが押して、奥の扉を通って中に入る。
するとカット用の椅子が設置されていて、その奥に撮影用の機材や照明器具などが設置されていた。
俺は呆然と立ち尽くす。これは完全にハメられた。
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