16話 陽菜
休憩時間に席に座って湊斗と大和の二人とだべっていると、タタタタという足音が聞こえ、振り返ると陽菜が立っていた。
「へへへ、悠人、元気? 来ちゃった。テヘ」
陽菜がニッコリと笑って顔を近づける。その様子を見て、湊斗と大和が目を見開いている。そういえば二人には紹介していなかったな。
「Bクラスの陽菜だ。中学の時の同級生」
「エヘヘ、陽菜ちゃんだよ。よろしくね」
陽菜が陽気に湊斗と大和に手を振る。釣られるように二人も黙ったまま手を振り返す。
陽菜の制服はスカートが特に短く、スタイルの良い脚が目に眩しい。陽菜って、こうやって見るとスタイル抜群なんだよな。男子に人気なのもわかる。
湊斗が不思議な表情をして、俺と陽菜を交互に見た。
「陽菜って、あの色々と噂のある陽菜だよな?」
陽菜が目を大きくして、唇に指先をあてがう。
「なんだか色々と噂が飛んでるのよね。パパ活してるとか、援交してるとか、全部全部嘘だけどね。ちょっと危ない友達はいるけど、皆、良い人ばかりだよ」
「陽菜はコンビニバイトしてるぐらいだもんな」
「そうそう、パパ活や援交してるなら、お金に困ってないよね。私、超貧乏だしー。キャハハ」
いつも思うが、陽菜は何を話しても明るい。全く噂など気にしていないようだ。嫌なこと全てを吹き飛ばす太陽のようだ。
陽菜はギャルだから、陰口を言われることも、からかわれることも多いのだろうな。
「それで、今日は教室まで来て、俺に何か用か?」
はじめの疑問を陽菜に問いかけた。すると陽菜がニパッと微笑む。
「そそ、今日はコンビニの店長から連絡があってね。シフトの関係で、今日のバイトが休みになったの」
「それと俺が何か関係があるのか?」
「空いた時間ができたから、悠人とモールに一緒に行こうと思って、お誘いに来たのよ」
陽菜に暇な時間ができたことはわかる。しかし、なぜ俺が買い物に付き合わないといけないんだ?
(女の子はいきなり問題を爆弾のように持ちこんでくる。流れを読まずにぶち込む。女の子はそういう行動を自分で可愛いと思っているから厄介だ)
「話しが見えないんだが」
「だから今話したじゃん」
「どうして俺を選んだ?」
「コンビニでいつも会うから」
全く話しが通じない。陽菜は俺が一緒に買い物へ行くのが当然といった態度で、大きな胸を張る。たしかに立派だとは思うが、俺は興味がない。
(女の子は自分が当然と思ったことには疑問を持たない。ここでおかしいと言うと反論と取られかねない。だから厄介なんだよ)
俺は深々とため息をつく。
「俺にも予定というものがあるんだが」
「わかってるって、どうせ放課後は暇でしょ。だから私が付き合ってあげるって言ってるじゃん。光栄に思えよ。エヘン」
ダメだ。話が通じるとは思えない。
「俺だって、夕食の材料の買い出しや、家の片付けや掃除もあるし、洗濯もしないといけないし、やることがいっぱいあるんですけどね」
「わおー、悠人って超便利―。 一家に一台ほしいわ。 私の彼氏にならない?」
「断固、ことわる」
「キャハハハ、悠人っておもしろーい」
ダメだ。何を言っても陽菜を喜ばせるだけだ。
そんなことを話していると結愛と楓姉さんが集まってきた。あー、話が大きくなりそー。
「陽菜じゃない。さっきから何を悠人と話しているの? 私も混ざってもいいよね」
「結愛じゃん。おひさー。悠人と一緒にモールに行こうと思って誘いに来たのー」
俺、結愛、楓姉さん、陽菜の四人は同じ中学出身だ。だから自然と顔を合わせていて、親しくはないが知り合いだ。
陽菜の言葉を聞いて、結愛が少しご機嫌斜めになったような顔をする。
「へー、それなら私も参加していいわよね?」
「えー、悠人と二人で遊びに行こうと思ってたから無理ー」
「そうなの。悠人はそれでいいの? 陽菜と二人でモールに行くの?」
なぜ俺が問い詰められることになってるんだ。理不尽だ。
楓姉さんがやんわりとした物腰で、陽菜と結愛の話しに割って入った。
「あらあらあら、ここで揉めても仕方がないわ。皆で楽しく一緒に買い物に行きましょ。皆で行ったほうが楽しいに決まってるでしょ。私も陽菜ちゃんと一緒に買い物がしたいわ」
「そんなに陽菜と一緒に買い物に行きたい?」
「うんうん、一緒に行きたいわ。よろしくね」
「仕方ないなー。キャハハハ」
流石は楓姉さん、陽菜の心を掴んだよ。やっぱり楓姉さんには勝てないな。
楓姉さんの提案を聞いて、結愛も満足そうに笑んでいる。
「それじゃあ、俺も行く」
「俺も暇だから行く」
湊斗と大和が一緒に行くと言う。これで俺は参加しないと言えなくなった。俺の都合は一切無視か。
陽菜がその場で一回転して、人差し指を片目を瞑る。スカートが短いので、ギリギリまで見えそうだ。大和と湊斗がガン見している。
「皆、陽菜と一緒に遊びたいのね。陽菜ちゃんモテモテ。キャハハ。それじゃあ、放課後に迎えに来るね。悠人、絶対に逃げるなよ。キャハハ」
そう言って、タタタタタと足音を立てて、教室を去っていった。
Bクラスの生徒はこんなのばっかりか。
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