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14話 凛

「はにゃ?」



 玄関のドアを開けて、ボサボサ頭の凛が、眼鏡ずらしたまま顔を出した。


 なんて顔をしてるんだ。学校でも見たことのない、だらしない姿だぞ。



「アハハハ、大和と悠人じゃん。何しにきたの?」


「凛が休んでいるから見舞いに行きたいと大和が言い出したんだよ。俺は付き添いだ」



 大和は凛の姿を見て安心したのか、声をなく佇んでいる。



「にゃははは、心配かけちゃったのね。ごめんね。部屋に入る?」



 家の中に誘われたがどうしたものだろう。大和を見ると、コクコクとしきりに頷いている。凛の家に入りたかったら自分でしゃべれや。ややこしいわ。


 俺は凛に隠れるようにして、大和の脇腹を摘まんで捻った。



「イタっ、凛、入ってもいいのか?」


「いいよん。入って、入って」



 何だか、凛の様子が学校と違うな。いつもこんなテンションだったけ? それとも熱で頭をやられたのか?


 俺が悩んでいると、隣で手と足を同時に出すような勢いで、カチカチに緊張した大和が凛の家へと入っていった。俺も続いて入る。


 家の中は狭く1LDKしかなかった。この間取りで家族が住んでいるとは思えない。

家の中は物が乱雑に置かれ、キッチンは綺麗で使われている様子はない。


 リビングの端にある机の上には、大型のモニターが二台置かれており、机の下にはデスクトップパソコンが置かれていた。そしてリビングの中央にはコタツが設置されていて、コタツの上にもノートパソコンが置かれている。コタツの周りには何か書かれた用紙がばらまかれていた。


 部屋の中を見回して、大和が不審気に凛に声をかける。



「あれ? ご両親は?」


「いないよ。だって両親と妹は別の家に住んでるもん」



 あっけらかんと凛が答える。



「凛は一人暮らしだったのか?」


「そうだよ。言ってなかったっけ」



 大和が呆れたように問うと、簡単に凛が答えた。



「私、父ちゃんと折り合いが悪くてね。私が将来はニートになるって言ったら、父ちゃんが怒っちゃってさ。だからお母ちゃんと相談して、今年の春から一人暮らしを始めたわけ」



 凛がヤレヤレと言うように両肩を竦めて手を振る。全く反省した様子はない。


 そんなことを言ったら、お父さんが怒るのは当たり前だろう。将来ニートになる宣言は、学生としていかがなものかと思うぞ。


 部屋の雰囲気からすると、病気で休んでいたようには思えないな。



「学校を三日も休んで何してたんだ? LINEも既読にならないしさ」


「あ……私って集中すると、それだけしか見えない質だから……」



 集中して何かをしていた訳か。コタツの周りにある何かの書類が気になるな。


 俺がコタツのほうへ足を向けると、凛がアワアワと慌て出した。そんなに慌てると本気で見たくなるじゃないか。



「ダメ! それは見ちゃダメ! 悠人、やめて! 大和、とめて!」



 凛が両手を前に出して俺の体を掴もうとするが、俺のほうが一歩早かった。俺は用紙を何枚か掴み取り、内容をシゲシゲと見る。これはさすがに凛も焦る訳だ。俺が拾った用紙は漫画の原稿だった。



「これ……怜央と遥馬が裸で抱き合っているのだが? これはBL漫画か?」


「うう……悠人に見られちゃったよ。絶対に皆や怜央や遥馬には言わないで」



 こんなの皆にも本人にも言えないぞ。凛が腐女子なことは、本人から聞いているが、ここまでだとは思っていなかったぞ。


 大和も俺の隣にやってきて、床から原稿を拾って、呆然と見ている。言葉もないようだ。



「もしかして、これが学校を休んだ原因か?」


「うう……同人誌の締め切りに間に合わなくて」


「アホか」



 同人誌に掲載するBL漫画が間に合わず学校を休んでいたなんて、先生や両親が知ったら嘆くぞ。


 凛が必死に俺の腕を掴む。



「お願いだから、お願いだから、絶対に誰にも言わないで。燈子に知られたら、本気で説教される。燈子は怒ると本当に恐いのよ。それだけは絶対にイヤー」


「そんなこと俺は知らん」



 お前など燈子に成敗されてしまえ。


 ガックリと膝から崩れ落ちる凛を大和が受け止めた。



「凛がイヤがってるから、言わないでやってくれ。俺からも頼む」



 大和が頭を下げることではないと思うが。凛も仕方のない奴だな。



「休んだ理由はわかった。それで締め切りは間に合ったのか?」


「まだ終わってないのよー。悠人、大和、手伝って。手伝って」



 なぜに俺がそんなことをしないといけないんだ?



「断固、断る」



 同人誌の締め切りに、凛が間に合わないとしても、俺には関係のない話だ。


 大和は静かにコタツに座って俺を見る。



「凛が助けてと言った。それだけで十分だ」


「それじゃあ、大和だけ手伝ってろよ。俺は帰る」



 身を翻して玄関へ歩こうとすると、凛が俺の脚をガッシと掴んで離さない。



「もう部屋の中へ入ったんだから、絶対に離さないからね」



 お前はゾンビか。


 そうしていると大和が立ち上がり、俺の胴を両腕で締め上げる。骨が軋む。痛い、痛い。大和が俺の体を締め上げたまま問いかけてきた。



「手伝うか? 手伝うと言え」



 強制じゃん。大和の奴、本気だな。俺は諦めて体の力を抜いた。



「手伝うよ。それでいいだろ」


「悠人、ありがとな」



 大和はそう言って、両腕を外した。凛、大和、俺の三人はコタツに座って原稿を手に取る


 手伝うと言っても何をしていいのかわからない。



「凛、手伝うから、俺達は何をすればいいんだ?」


「私がペン入れをするから、悠人は消しゴムをかけて、大和は私の指示通りにスクリーントーンを貼っていって」


「今の時代、PCで作業したほうが早くないか?」


「同人誌は手書きのほうが味わいがあっていいのよ。私の趣味よ」



 もう何も言うまい。俺と大和は凛の指示通りに作業を進めていく。作業は二十時になる頃にどうにか終わった。本当に疲れたよ。


 BL漫画になるなんて……怜央、遥馬、有名になるって、大変なことなんだな。俺は初めて二人に同情した。


 今日の感想を一言にすると、もうBL漫画は読みたくない。

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