12話 機会があれば
スィーツ店に入って楕円形の大テーブルに座る。なぜか俺の右隣に玲奈さんが座り、左隣りに遥馬、怜央が座り、その隣に結愛、楓姉さん、湊斗が座った。
ウェイターが注文した品を持ってきて、それぞれの前に品を置いていく。
「さー皆、今日は遠慮なく食べてくれ。全て玲奈さんの奢りだから」
なぜ怜央が偉そうに言うんだよ。お前が支払うわけじゃないだろ。
玲奈さんは会社の必要経費で落ちるから、今回は奢ると言っていたけど。甘えていいのかな。
「皆、食べてね。今日は皆とお近づきの印だから」
玲奈さんが紅茶を飲みながら、ニッコリと笑う。
「いただきまーす」
湊斗が元気よく返事をする。湊斗は玲奈さんのことを気に入ったみたいだ。明らかに結愛と楓姉さんは玲奈さんを避けている。狙われているから仕方ない。
湊斗は玲奈さんの隣に座れて上機嫌だ。玲奈さんはマネージャーになる前はモデルをしていたらしい。湊斗がデレデレするのもわかる。
腑に落ちないのは、なぜ俺の隣に玲奈さんが座るんだよ。あまり関わりたくないんだけど。
「悠人くんだっけ。結愛ちゃんと楓ちゃんと仲良さそうだけど、悠人くんから、二人を説得してくれないかな? 私、諦めたくないの。お願い」
玲奈さんが、目を潤ませて、大人の色気で迫ってくる。しかし俺には通用しない。
女はお願いごとがある時、色気を迫る時もある。これは常套手段だからな。昔、澪姉ちゃんで経験済みだ。こんなことでは俺は騙されない。
「それは無理。俺には関係ないですから」
こういう場合はズバッと断ったほうがいい。中途半端に言うと、押してくるからな。
玲奈さんが俺の肘を指で摘まむ。
「随分とはっきり言う子ね。そんなこと言わないで、お姉さんのお願いを聞いてくれてもいいじゃない」
女のお願いと言うのは言葉を変えた命令と一緒だ。ワガママが通るまで押し通してくる。澪姉ちゃんで散々とくらっているからな。その手は俺には通じないよ。
「結愛と楓姉さんのことは結愛と楓姉さんが決めることです。俺では無理、諦めてください」
「何よ。釣れない子ね。そんなのだと女の子からモテないぞ」
「よく言われますね。俺、モテなくてもいいんで」
玲奈さんが皆を見回して、俺を指差す。
「この子って、いつもこうなの? ちょっとおかしくないかしら?」
「悠人は女性嫌いなので、放っておいたほうがいいですよ」
結愛ナイスアシスト。なぜ結愛も楓姉さんも諦め顔なんだよ。
「悠人の女嫌いは、結愛も私も困ってるんです」
楓姉さんがニッコリと笑う。全然、困ってないだろ。
玲奈さんが振り返って顔を近づけて、ジーっと俺を見る。
「悠人くん、少し髪の毛を上げてくれないかしら? 顔がよく見えないのよね」
「イヤですよ」
「いいから、いいから」
眉毛の下まである前髪を玲奈さんが無理矢理に両手で上げる。そして驚いたように目をパチパチとさせた。
「あら、悠人くん、小顔だと思ったら、髪をあげたら、女の子みたいな顔じゃない。すごく可愛い。隠すなんて勿体ないわ」
それを言われるのが嫌だったんだよ。小学校低学年の時は、澪姉ちゃんに着せ替え人形のように女の子の服を着せられるし、同級生にはからかわれるし、散々顔でいじられてきた。
俺にとって顔はコンプレックスでしかない。だから前髪を伸ばして隠してるのに。
結愛も、楓姉さんも、湊斗まで何を驚いた顔をしてるんだよ。止めろ、俺を見るな。
「もういいですよね」
俺は思わず玲奈さんの手を払いのけた。それでも玲奈さんはニコニコと笑っている。
「いいじゃない。悠人くんの顔って私好みよ。私、悠人くんのファンになっちゃう」
「からかわないでください」
どうして俺にだけ絡むんだよ。怜央も遥馬も他人のフリみたいにしてないで、俺を助けろよ。
「悠人くんも、私達の事務所へどう? 悠人くんは磨けば光る原石だとお姉さんは思うんだけど」
「断固お断りします」
断っているのに、玲奈さんはウキウキした表情で笑っている。
「それじゃあ、事務所は諦めるから、お願いを聞いて。一度でいいから、事務所でお姉さんにコーディネートさせて。皆も行きましょ」
お願いを一段下げてきたな。一段下げても要求を通す。女性の常套手段だな。その手には乗らないぞ。
「そう言って、俺達を事務所に引き入れようとしてもダメですよ。お断りです」
「ばれたか」
玲奈さんが悪戯を見つかったような顔で笑む。本当に綺麗な人だな。
「事務所に連れていくのは諦めるわ。でも機会があれば、悠人くんのコーディネートはしたいな」
「機会があればね」
「今日はそのぐらいで許してあげる」
玲奈さんがスクッと立ち上がってカバンを肩にかけた。
「私、仕事があるから、後は皆で楽しんでね。結愛ちゃん、楓ちゃん、私は二人のことは諦めてないから。悠人くん、機会があったら絶対にコーディネートさせてよ。それじゃあね」
そう言い残して玲奈さんは去っていった。竜巻のような人だな。
玲奈さんがいなくなって皆どこかホッとしたような、安堵な雰囲気が流れる。その中でガバっと怜央が立ち上がった。
「これで邪魔者はいなくなった。皆で大いに楽しもうじゃないか」
邪魔者と思っていたのか……玲奈さんがいなくなると元気だな。
それからは怜央を中心に騒がしくなったことは言うまでもない。
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