続×3・魔法主体のゲーム世界で魔力0 〜冒険といえばダンジョンだろうか〜
ここは剣と魔法とロリコンの世界。
いや、ロリコンは関係ない。
「副団長にしろ王子にしろ、なんでこんな私みたいなのに絡んでくるんだろ」
「可愛らしいからでは?」
王都ではアラサーの騎士に結婚を迫られたり、20代と思われる王子に手籠にされそうになったり大変だった。いや、大変なのは相手の方かも知れない。前歯が無くなった王子はこの先どうやって生きていくのだろうか。入れ歯とかあるのかしらん。
「グレタが私のことを大切に思ってくれているのは分かってるつもりだけど今はそう言う話では…」
「そう言う話ですよ」
「…」
代々近衛騎士を輩出しているルーマン伯爵家の長女であるシュティーナ・ルーマンは、魔力量で人の価値が決まるこの国において、カラテ家という特殊な職業を授かり魔力0になってしまったために家を出てティナと名乗り冒険者になった。現在15歳と4ヶ月ほどだ。
「…もしも、私が魔法騎士とかになっていたら、どうやって冒険の旅に出たんだろ」
「なぜ冒険の旅に出るのが確定なのですか?」
普通であれば、別に伯爵家の娘が魔力を持っていようがいまいが大した問題でもないのだろうが、この世界は前世でやっていたVRMMORPGの世界だ。主人公が旅立たなければ話がはじまらない、とティナは考えていた。だが、VRMMORPGは自由度が高い物が多く、それこそ戦わずにずっと生産職をしたり、と言うプレイもありだろう。と言う事はティナもこの世界に生まれたものの普通に暮らして嫁に行く人生もあったわけだ。
「とりあえず、近衛騎士にはならなくて正解だったなと思ってね」
「そうですね…」
ティナは王都で仲間になったシェスティンも連れてダンジョンが近い街の冒険者ギルドにやって来た。ティナはもともと一緒に伯爵家を出たメイドのグレタと2人で冒険者をやっていて、シェスティンはティナが王都に行った際に襲ってきたドラゴンだった。
その後、ティナと一緒に冒険すると言ってドラゴンから人間になったシェスティンは現在スレンダーな黒髪美人だ。
この出会いも主人公補正だろうか。ドラゴンと知り合って一緒に旅に出る者が何人もいるのか、人によって違うモンスターだったりするのか、はたまたティナだけなのか。前世でやっていたこの世界そっくりなゲームにそう言う要素があったかは覚えていなかった。
冒険者ギルドの建物内に入ると、途端に騒然となった。
シェスティンから漏れ出す力は隠蔽を重ねた状態でも周りを威圧するほどだ。この世界の人間は基本的に魔力を持っているため、膨大な魔力量を持つ人間などは肌で分かる。
「あの、この人の冒険者登録をお願いしたいんですが」
「あ、ああ、新人さんですね。ちょ、ちょっと待ってくださいね」
ティナが声をかけるとギルドの受付嬢は奥に行ってしまった。
少しして、何人かの職員を連れてきた。
「うん、初心者・下位クラスをすっ飛ばして、いきなり一般冒険者で良いレベルだと思う。ただし…」
「ただし?」
シェスティンは気配が強すぎて魔物たちが寄り付かないだろうから、このまま森やダンジョンに行かせるわけには行かない、と言うことで、気配を隠す訓練をする事になった。
シェスティンに対して新入り弄り的な事は起こらなかった。彼女が手を滑らせただけでただでは済まない事が、肌で感じられるからだろう。気配を隠す事が出来る様になったらそう言う間抜けも現れるかも知れないが、ここにいる人たちが止めてくれる事を祈るティナだった。
「それにしても、シェスティンが大人しく冒険者講習受けていたのは意外だったわ」
ダンジョンに向かう道すがら、ティナが言う。
「従うかは別として、ゲームはルールがあるから面白い。ダンジョンくらい外から一撃で消滅させられる。それはつまらない」
「う、うん。一応、ルールには従おうね…」
実はティナについてきてしまった元メイドのグレタは下位冒険者なので、ダンジョンに入るのはルール違反だが、実際の彼女の能力はかなりのものでダンジョン程度では危険はないがルール違反はルール違反である。今もスキルで気配を消しているがそばにいるはずである。ティナにも分からないが。
ダンジョンは街に入り口があるわけではなく、街の近くの森の中にある。
ダンジョンは中位冒険者以上でなければ入れない決まりにはなっているが、別に見張っている人が居るわけではないので、たまに事故などもあるようだった。
ティナも先日までは下位冒険者だったが、王都で紹介状を書いてもらったのでダンジョンなどの一般人立ち入り禁止エリアに入れる様になっている。他の冒険者はシェスティンが一緒だから許可が出たと思っている者も少なくない。
ティナは先日まで薬草採取などをして暮らしている村娘だと思われていた。
ダンジョンには色々あるが、ここのダンジョンは洞窟タイプだ。
薄暗くジメジメしている。真っ暗ではなくなぜか明るい洞窟だ。
だからか、中にはキノコや苔が生えていた。
「はい」
「…ありがと」
上の方に生えていたキノコをシェスティンが取ってくれた。
だいぶ身長差があるので、どうしてもそうなってしまう。
一応、狭いところなどは手も身体も小さいティナの方が取りやすい。
今日はダンジョンなのでティナはシャツにオーバーオール、ショートブーツという出立だ。
手には軍手を付けている。真っ赤な長い髪は後ろで三つ編みにしている。
どう見てもダンジョンに来る格好ではない。結局ここでも表向きは苔やキノコを採取するのがメインの村娘だ。この世界では少女の姿のまま強い、みたいな事は起こりにくい。ティナが例外なのだ。説明がとても面倒というか難しいので諦めている。
今日のシェスティンは魔道士が着ていそうな白い生地に金糸で刺繍を施したフード付きのローブだ。
シェスティンの服は魔法で作り出した物なので、自由に変更できるためちょこちょこ替わっていた。
楽しいので。主にティナが。
遭遇する魔物を倒しつつ、アイテム採取しながら進むうち、シェスティンが時折耳をピクピクさせて遠くの様子を伺っていたと思ったら、ダンジョンの奥から三人組の冒険者が走ってくる。何かから逃げている様だ。
「退けっ。て言うかお前らも逃げないと死ぬぞ」
そう言ってシェスティンの横を通り抜けようとする冒険者を両手で1人ずつ捕まえた。
「ぐえっ」「な、何しやがる」
「グレタ」
ティナが呟くとどこからともなくメイド服のブロンド美人が現れて残りの1人を捕まえた。
「悪いね。私はストレングス3しかないからこう言うのは苦手なのよ」
「お任せください。私はストレングス700近くありますので」
ティナはステータスのほとんどを打撃力に変換するパッシブスキルを持っているため、戦闘時以外はか弱い少女なのだ。
「助けを呼んでくる、なんて言ってたけど、戻ってくるわけないわよね」
半泣きの少女は防御特化型の魔法使い、結界師だった。
勝ち目のない魔物と遭遇した際に、仲間を逃すために結界を張って通路を塞ぐ役をさせられたのだ。通路の幅いっぱいに広がったドーム状の結界は強固だが、術者は移動できないという制限があった。
巨大な鶏の首の代わりに3匹の蛇が生え、前足は熊の様に強靭で鋭い爪が生えた四足獣だった。
蛇の口からは炎、氷、雷がそれぞれ放たれ、同時に爪による攻撃もあり、結界を削っていく。
「もう無理っ」
頭を抱えてしゃがみ込んだ瞬間に結界が砕け散った。
「うわあああ」「ひええ」「いやああああ」
「え? なに?」
もうダメかと思った瞬間、頭上を聞き覚えのある声を上げながら、何か、いや人が飛んで行った。逃げて行った仲間、いや、仲間だった冒険者たちが戻ってきて戦っている。助けに戻ってきてくれた、という感じではないが。
「なかなか頑張るわね。これだけ戦えるなら仲間を囮にして逃げるなんて卑劣な事しなくても良かったんじゃないのかしら…」
「あ、あの…」
「大丈夫、助けに来た」
シェスティンはピンチに陥った少女を助けるのも冒険の醍醐味だと思っているので、とても嬉しそうだ。どこでそう言う知識を仕入れたのだろうか。
三人を仕留めた魔物がこちらに向かってくる。
「…そんな事はなかった、か。シェスティンはその子をお願いね」
「任せて」
魔物が前足を上げ攻撃モーションに移るまでの一瞬で間合いを詰め、拳を叩き込む。
この世界に存在するほとんどは魔法に依存しており、その防御魔法や強化魔法は相手の魔力に反応して機能する。つまり、魔力0のティナに対しては機能しないのだ。
そしてティナの打撃力はこの世界のあらゆる物質を破壊できるレベルに達している。
「君の仲間たちは残念だったけど、気を落とさないでね」
「は、はあ…」
少女を連れて街の冒険者ギルドまで帰ってきていた。
「ダンジョン内で発見された冒険者の遺品は発見者が所有権を主張できる決まりですがどうしますか?」
例の冒険者たちの遺品と、それまでに集めていたと思われる素材などのアイテムを回収してきたのだ。
「その子はパーティーメンバーらしいから、その子にあげてもらえるかしら」
「問題ないですよ」
ダンジョン内で起こったことはだいたい闇の中だ。
もともとありがちな小説を書こうというネタなのですが、これわざわざ書く必要あったか? と言うくらいいつも通りになってしまったので、どうなのって思ったけどせっかく書いたので公開してみました(オ