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胸糞悪い展開が苦手な方は回避をお願いいたします。



 『乙女ゲーム』と言われる分類体系のものがミサキが昔生きたの前世の世界では小説やゲーム、アニメで流行っていた。

可愛らしい女の子になりきって色々な試練やフラグに試され振り回され楽しみながら素敵な男の子達と恋を楽しむゲームだ。純粋に恋愛を楽しむものがあれば、欲望のままに18禁の展開を楽しむものもあったと思う。

そして『異世界転生』というものも『乙女ゲーム』と同様に前世の世界の小説やゲーム、アニメでは流行っていた。

自分が『異世界転生』した『乙女ゲーム』のヒロインだと気がついた時、ミサキはまだ10歳だったが家族が驚くほどに大はしゃぎしたという。

この物語がどんなタイトルでどんな形式のものだったか、ミサキははっきり覚えて居なかった。でも、沢山の素敵な男の子に囲まれたままヒロインはハッピーエンドを迎える話だったとは覚えている。

 物語はきちんと正しく美しいエンディングを迎えた筈だった。王子様とお姫様は幸せに暮らしました。めでたし、めでたし。おーしまい。となった筈だった。

 


 タイトルやストーリーは忘れても、選択肢は間違えない自信がミサキにはあった。だってそれに課金する為に前世のミサキは毎日バイトを頑張っていたから。バイトのシフトだってアップデート直後の時間帯は絶対に入れさせなかった。イベントは全て無欠席で、グッズに円盤はコンプ当たり前。コラボカフェに毎週通ってお布施した。

イベントに行けないバイトは次のバイトを必ず見つけてからすぐ辞めた。

イベントがなければ時給の良い休日祝日はむしろ喜んでシフトを入れていたから主婦組から凄く可愛がられたけど、趣味に没頭する姿をよく馬鹿にもされた。


誰よりも作品を愛していたと自負出来る。


 だから経験と朧げながらも異世界前世の記憶で、皆の求める事を答え、皆の求める事を与えることで聖女の肩書をもぎり取り地位を底上げし、ピンクブロンドのふわふわヘアに大きな緑の瞳という前世とは比較にならない程整った清らかで可愛らしい姿に磨きをかけ、愛らしく奔放な姿で推しの王子様の心をつかみとったミサキはお姫様にのぼりつめる自信があったし、実際、上り詰めた。そう、上り詰めた筈だった。



ハッピーエンドの歯車が狂ったのはいつだったか。



 父親の身分が男爵位と低いからとか、母親が庶民だからとかいう様々な理由で身分ロンダリングの為、早い時期からミサキは王城の中で生活を求められた。

侯爵家の令嬢となるための養子縁組は愛を慈しんだ王子と沢山の秘密を一緒に楽しんだ王子様の側近達が手配してくれた。

 ミサキの邪魔をした王子の元婚約者である悪役令嬢ディアドラは逆恨みが怖かったので断罪イベント後、国外に追放。口うるさいトラブルメーカーの小姑になりそうな嫌われ者の妹姫も早々に地下牢に閉じ込めていたから何の憂いもないはずだった。

みんなに好かれる聖女兼王妃様を目指して語学も史学もマナーも全力で頑張ってみんなに褒められた。王様にだって息子のお嫁さん以上の、それこそ王妃様以上の愛情を注いでもらった。

大好きだった王子も結婚式を前に立派な王様になる為の忙しい日々を過ごすようになった。けれど、同時に、その頃から王子は別の女の子達とも親しくなっていた。

庶民上がりの聖女を正妃として迎える王子様は国民の受けが非常に良かった。でも、その反面側妃を迎えることは難しくなったらしい。だが王家の跡継ぎは正しい血筋で有るべきだという権力を求める化け物達の思想の元、沢山の身分の高い令嬢達が、まるでミサキの真似をするかの様に奔放に王子の腕にまとわりつくのをミサキは目にする事が増えていった。王子も一度知った異世界前世の低い貞操観念と裏切りの蜜の味に目の前の花々に寵愛を注ぐ事を躊躇わなくなっていたんだと思う。


時間も空間も思考も離れていけばミサキと王子が話が合わなくなるのはあっという間だった。けれど、その頃のミサキはそれを悲しいとも寂しいと思えなかった。気づかない間に権力の化け物達の思惑で与えられていた離宮の一つにミサキが学生時代から可愛がっていた沢山の子犬が集まっていて、ひたすらにミサキを愛してくれたから。そして、ミサキだって王子様に会えない寂しさを埋めるように彼らを存分に慈しんでいたから。

気が付けばミサキも王子様も互いに互いを傷つけないようにしながらも、互いに深く傷つけあっていた。



 だから、もし、何か間違えていたとしたならば。



それは互いの手を取り合って一生懸命に恋の道を駆け進んでゴールしたミサキのせいでも王子様のせいでもない筈だ。


ならば、何が悪かったのか?


あの権力の化け物達。

あのミサキの恋路を邪魔した女の子達。

そして……


「そうよ。シリルのせいよ!!」


先程、帝都の屋敷にアシュクロフト皇帝の側近から届いた手紙をテーブルに叩きつけながらミサキは叫んだ。

こんな理不尽な事、しばらくミサキから離れている間に黒くなってしまったシリルのせいにちがいない。


 学園や離宮でミサキを愛してくれた沢山の子犬の一匹。シリルがハンゲイト公国の大公の息子の一人だったこと。


これがこの理不尽の理由。それだけだ。


そもそも、ミサキが帝都のこんな小さくでボロボロの屋敷に押し込められているのがおかしいのだ。

現アシュクロフト皇帝リチャードは当時、学園にやってきた隣国の皇太子、攻略キャラだった。学園にいた頃はリチャードだってオーウェンとミサキを奪い合ってくれていたし、熱い視線で見つめてくれた。

『王国の聖女になったから連れていけない』

卒業パーティの夜、そう言ってくれたのを忘れなかったから、わざわざ王国ごと子犬や離宮を捨てて帝都まできたのに、この扱いは酷すぎる。ミサキの知るリチャードは口は悪くとも、こんな状態になったミサキを放って置くはずがないのに。


きっとこれもシリルのせい。

彼はいつもミサキに不運を届ける酷い人だ。




◇◇◇




 彼、シリルはまだ学園にいた頃から、ミサキの為にと沢山の魔法石と呼ばれる宝石をプレゼントしてくれた。彼の母国ハンゲイト公国が産地だからと捧げられたそれらは、とても美しく、けれどなぜかしばらくするとすぐに煌めきを失い濁っていった。濁った魔法石はすぐにシリルが全て新しく美しい物に変えてくれていたから、その頃のミサキはプレゼントされた沢山の魔法石が貴重なものとは知らなった。


 でもいつからか……そう、断罪イベントの卒業パーティの頃から一時期シリルは姿を見せなくなっていた。


シリルが以前くれた魔法石は濁ったままで持ち続けていると、そのうち濁りが酷くなり、最後に黒い靄を吐き出しながら砕けた。砕けると、なぜか良くないことが続いた。だから、ミサキはこの濁りが彼がミサキを独占出来ないことに対する彼の逆恨みだと思って以前2つ下の学年にいた彼の弟に手紙をおくった。するとよくわからない手紙と共にまた魔法石が届くようになったから、ミサキはきっとシリルから愛しいミサキへのお詫びだと思って受け取っていた。


魔法石の提供は再開したものの、手元に残った以前はシリルが引き取ってくれていた濁ったモノの扱いには少し悩んだ。長く持っているとどうしても嫌な霞を吐き出し砕けてしまうのだ。けれど、もともとがこんなに綺麗な宝石なんだし完全に濁る前に人に譲れば良いんだと気がついてからは周りに沢山プレゼントして、貴重なものだと喜ばれ感謝さえされた。


あの卒業パーティぐらいからしばらく合わなかったシリルは、けれど王子との新婚旅行後すぐにまた離宮に姿を見せはじめた。

久しぶりに会ったシリルはぬいぐるみの様な金色の巻き毛も大きな栗色の瞳も黒く染めていた。少し驚いたけれど、昔は可愛らしかった少年は大人びた冷たさと色気をともなった、また別の魅力を持った青年になっていた。

 魔法石の霞の件を咎めれば、『君がいつまでも美しいままでいられるおまじないだったんだ』とシリルは優しく囁いた。だから咎められなかったし、彼の弟から贈り続けられる魔法石にもミサキはそのまま何の疑いも持たなかった。




 ミサキが正しく魔法石の濁りの意味を知ったのは王子の父親、王様が亡くなった夜。


 学園の頃、王子様の魔術関係の側近として学園に出入りしていた攻略キャラの一人。魔術師副団長まて出世したハイエルフのルミエールが、呪いに包まれた王の遺体を前に眼鏡越しの冷酷無比な視線で教えてくれた。

ミサキに向けられた嫉妬や憎しみといった悪意の全てを魔法石がその美しさの中に吸い取ったから濁っていたなんてミサキはその夜まで全く知らなかった。そしてそれが王子の手によって故意にもたらされた王の死の直接的原因だなんて信じられなかった。



だってシリルはそんな事、一言も言ってなかったから。

昨日だってミサキは会っていたのに。



いつの間にか黒い髪に黒い瞳へと変わっていたシリルはいつもミサキに沢山のこの世界の秘密を教えてくれていた。

シリルが再び姿を見せるようになったばかりの頃だから新婚旅行から帰ってすぐの頃だっただろう。

彼は土砂降りの雨音に眠れぬ夜、ミサキをベランダへと連れ出すと秘密ですよ唇に人差し指を当てそっと教えてくれた。


『知ってます?国王陛下にはもう一人、今の第1王子とは別の、お亡くなりになられた第1王妃との間に本物の第1王子がいたんですよ。彼がミサキと結ばれるのが本当はただしいシナリオだったのに。可哀相なミサキ。ミサキがこんな離宮に隔離されるなんて可哀想』


結婚したのに、正妃になったのに、いまだ王宮ではなく離宮暮らしが続くミサキに、本当のエンディングが別にあったから上手くいかないのだと教えてくれた彼は、本当のエンディングにたどり着く方法を教えてくれた。


『みんなには内緒ですが、この国の王族には素敵な魔術があるんですよ?』


望みが王族の血族がらみならば誰でも使えるおまじないを教えてくれたのもシリルだった。

王城内の使われていない神殿をシリルに与えミサキに敵意を持った王族や公爵家の人間を呼び出すだけ。

それだけで色々な嫌な事が消えていった。

まるでシリルが沢山与えてくれる魔法石の力を強くした版の様だった。本物の第一王子という既に失われて久しい魂はなかなか呼び出せなかったけれど、付随した願い事は次々に叶い、いらない者は一気に片付いた。

王子に意地悪を言う王様だってあっという間に片付いた。

その夜、ルミエールに会うまでミサキはずっとそう思っていた。




◇◇◇




「どうして、今さらシリルの弟とやりとりした手紙なんてものでてくるのよ?!」


手紙を持ってきた人物にも腹が立つ。

ミサキの前に聖女だった女。

そして、多分だけど、前作のヒロインだった人。

ミサキの出現を予言する事で聖女となったこの卑怯な女がミサキは昔から大嫌いだった。王妃となったミサキが実は物語の間の予言しかできず、新聖女としての予知能力が欠けることがわかったせいで、やっと出れる筈だった王国の神殿内から出ることが叶わなかったと聞いてた時は、こしすっとして、嬉しかったのに、なんで今は出歩いているのだろう。旧王妃のミサキだって軟禁されているのに腹立たしい。


「なんで、ゲームの内容と違うのよ?!!」


先程の手紙と共にテーブルを叩けば、上の茶器からお茶が溢れる。帝国で暮らし始めてからついた侍女が部屋の隅で震えてる。

手紙の白い紙に紅茶が吸い込まれ、茶色に染まりつつ、書かれた文字を滲ませる。


「違うわ。ゲームの内容とは同じ。ただお話が終わったの。今はアフターストーリー。ヒロインがいたとしても私達じゃない。私達はきっと脇役ね」


淡い茶色の前髪の間から人の目ではなく赤く大きな魔法石越しにミサキを見つめた前聖女はクスリと笑った。

前聖女メリッサは大きな刀傷と共に両目を潰された上、額に大きな魔法石を埋め込まれているのに、尚美しさを失わないのが気に食わない。せっかくバージルに濁らせた魔法石を埋め込させたのにしぶとく美しい。


「ねぇ、バージル。私は庶民から王子様に見初められたレイランド王国の王妃様であり聖女様なの。この国の女性のトップなの」


離宮に住む頃から、ずっと側に居てくれるバージルにお願いする。彼は必ずミサキの願い事を叶えてくれる。

同じ黒い髪に黒い瞳で顔形だってそっくりなのに、シリルとは大違いだ。


「そうなんだ。でもそのレイランド王国ってもうなくなっちゃった。残念」


キャラキャラ嬉しそうに笑っていうバージルにイラッとするが、願い事は口にしないと叶わないとシリルに……いや、バージルに教えられた。


「そう、レイランド王国はなくなったけどアシュクロフト帝国に変わったんだから私はアシュクロフト帝国でトップのお姫様になるべきなの」

「そうなの?そっか、ミサキはまた一番のお姫様に戻りたいんだね」

「当たり前じゃない!」


そんなの知らなかったとおかしそうに笑うバージルを睨みつけると彼の笑みが変わった。ニヤリと笑った後の彼は必ずミサキの願い事を叶える方法を教えてくれる。

シリルの時と違って自分で騎士達に実行指示を直接しなければならないのは面倒くさいが仕方ない。


「ならね、小鳥を捕まえておいで。その羽に隠された大切な宝物を見つけておいで。その血肉を全部くれたら、王家の指輪はミサキにあげる」


近寄り耳元で囁かれる声はハスキーで素敵なのに、内容が気に食わない。


「小鳥?小汚い小鳥がいるの?」

「うん。僕に小鳥をくれたらミサキの願い事が叶う王家の秘宝『王家の指輪』なんてあげちゃうよ?」

「王家の指輪?それさえあれば、私はまた一番幸せなお姫様にもどれるの?」

「王家が精霊王からの祝福と庇護を得た契約の印だからね。凄い力があるし、きっと皇帝だって指輪を付けたミサキの力にメロメロだよ?」


旧王城から連れてきた近衛騎士を呼び付ける。命令する。

ミサキが一番のお姫様に戻ればきっとオーウェンも素敵な王様に戻れるはずだから。これは良いことの筈。

ミサキが与えた濁った魔法石をバージルによって身体中に沢山埋め込まれた近衛騎士達は青白い顔色でミサキの命を静かに聞いていた。




◇◇◇




そんなミサキを楽しげに観ながらメリッサは静かに席を立って屋敷を後にした。今回の勅使の仕事は赤毛の皇帝の側近に指示された。

メリッサは悪くない。何も悪くない。


「戻れるはずなんてないのに滑稽ね」


屋敷を出て地面に一歩足を付ければすぐに転移魔法陣が発動する。メリッサを愛してやまない旧レイランド王国神官長ウィリアムが呼んでいるのだろう。


「リセットボタンがあったなら、私がとっくに押してたわ」


発光する転移魔法陣を睨みつける。これは何処に行こうと絶対に逃さないと組まれたメリッサの足枷だ。


『姫様は贄に使えぬ様、呪術がかけられていたからね。その血肉はすでに契約済で手が出せなかったけど、小鳥は違う。早くこの穢れた地に穢れなき小鳥の生け贄を』

「魔族に喰い散らかされた小鳥の血肉で精霊王達の怒りと憎しみを呼び集め、この地を焼き払ってもらうのよね。そうすれば、やっと私も帰れるのよね、シリル?いえ、バージルだったかしら?」

『私の名前なんて、もはや何でもよいのですよ。どちらでも構いません。そして、あなたの願い事ですよね。ええ、勿論、叶いますよ。きっと』


ミサキが生んだ魔法石の穢れの為に愛らしい金色の巻き毛も大きな栗色の瞳も黒く染めてしまった少年は余りにも穢れ壊れてしまったから背中に黒く大きな羽を持つ人外に乗っ取られた。

でもメリッサも大して変わらない。

そのうちメリッサにも黒い羽が生えるだろう。

そしてミサキもきっと……。


 一方的な愛情で監禁され、穢れた瞳を無理矢理植え付けられた聖女は土砂降りの暗闇の中、見送りに出てきた黒い羽を隠しもしない青年に声をかけつつ、見えない筈の月を見上げニヤリと笑った。




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