なろう入国管理局のおしごと。
ほぼ会話劇。
教習所のビデオみたいな感じで読んでいただけると幸いです。
≪アナウンス≫
皆さま、当局に足をお運び下さり、誠にありがとうございます。
ここはなろう入国管理局─────通称NIB。
なろうの国に持ち込まれる1日約2000件の新作小説を審査・管理する国家施設です。
今日も力作を携え、多くの作家達がなろうの国にやって来ます。
本日は、我々NIBがどのような職務を行っているのかを紹介いたします。
【入国管理ゲート】
入国管理ゲートです。
ここでは、持ち込まれた小説のタイトルを審査しています。
……おや、男性がゲートにやって来ましたね。
では、実際の業務の様子をご覧ください。
───────────────
「Hello」
(こんにちは)
「こ、こんにちは。異世界物で登録お願いします」
「High Fantasy?Low Fantasy?」
(ハイファンタジーですか?ローファンタジーですか?)
「あ、あの……ハイファンタジーです」
「OK,what is the subject?」
(分かりました。タイトルは何ですか?」
「ええと……『無能の勇者パーティに追放された男の成り上がり英雄譚~役立たずの俺、実は最強でした!?~』です」
「20 characters or more…… there is Narou title tax on this story ok?」
(既定の20文字をオーバーしていますね……。この作品にはタイトル税(1文字=3ドル)がかかりますが、よろしいですか?)
「はい……(トホホ、今月金欠なんだけどなー)」
「Thank you for your cooperation」
(ご協力感謝いたします)
管理官は持ち込まれた作品のタイトルに誤りがないか、違反が無いかを審査します。
昨今では、長文タイトルが政府(運営)に対し深刻な通信障害を起こす危険性があると判断された為、【タイトル税】に代表される様々な利用規約が生まれています(大嘘)。
なろう国では、流行ったジャンルの後追いをして作品が爆発的に増えるケース、または大量の1話ガチャによる影響で更なる通信障害の可能性が懸念され、社会問題となっているのです(当局調べ)。
……あら?
どうやら、入国ゲートでトラブルが起きたようです。
何があったのでしょうか?
────────────────────
「なぜ私の作品の審査がもたついているんだ?早く通してくれたまえ!」
「Sorry……but,there is a mysterious point in your work」
(すみません……ですが、貴方の作品に問題がございまして)
「何だ!一体何が問題だというのだ!」
「Please say again」
(もう一度、作品タイトルをお願いします)
「はぁ?『追放されたSSSランク勇者は気ままにスローライフを始めます~魔王が復活した?俺、もう関係ないもんね!~』だ。これで満足か?」
「Thank you.Actually,『Slow life fraud』 is prevalent since last year…….Applicable works to sign apledge」
(ありがとうございます。実は、昨年より『スローライフ詐欺』が流行っておりまして……。該当作品には誓約書を交わして頂いております」
「誓約書……」
「Yes,this one」
(はい、こちらになります)
誓約書
序文:本国において、スローライフとは『自分らしく日々を穏やかに、のんびり豊かに過ごすこと』と定義しています。
➀私は、スローライフの名に恥じぬよう、主人公にしっかりと堅実な仕事に従事させます。
➁私は、主人公が冒険者ギルドに入るといった【穏やかな生活とはかけ離れた】スローライフに反する行動は絶対に取らせません。
⓷私は、主人公が貴族令嬢を助けたり、奴隷を拾うといった【自分から目立つ行動】を取らせません。
⓸もし、物語の都合⓷の緊急事態を発生させた場合、徹底的に正体を隠匿し、助けさせる事を誓います。
⓹上記の項目に何らかの違反を起こした場合は、タグに『いずれ最強!!』又は『成り上がり冒険譚』を付け、なろう住民に提示する義務を負います。
「なっ……」
「Then,sign the pledge」
(では、誓約書にサインを)
「……」
「?」
「イ……イタタ……急に腹が痛くなった。す、すまんねお嬢さん、今回の入国は少し、見直す事にするよ」
「Hmmm……Bless you」
(はぁ……お大事に)
こうした詐欺行為を管理官は見逃しません。
この他にも『最弱詐欺(最初からチート)』『孤高詐欺(お仲間いっぱい)』『ハードボイルド詐欺(ただの厨二病じゃねーか)』『無能スキル詐欺(最初から頭使えや)』のような詐称行為を行う作者が後を絶ちません。
管理官は中立の立場を持ち、冷静に作者の持ち込んだ作品を審査、なろう国の健全化に努めているのです。
【手荷物検査】
ここでは、持ち込まれた作品のタグをチェックします。
タグを複数付ける場合は、事前に申請する事が義務付けられています。
また、作者の中には意図的にタグを誤魔化される場合もある為、確認は必須です。
では、その一例をご覧ください。
───────────────
「おねがいするわね」
「Check tags.『Betrayed witch by country for false accusations,actually she was a saint~What amistake a commoner would make!?~』OK?」
(では、作品タグの確認をいたします。『冤罪で祖国に裏切られた魔女が実は聖女だった件~元平民の私がモテモテになるなんて何の間違いですか!?』ですね)
「ええ、そうよ。きちんとタイトル税も払ったわ」
「Female protagonist……revenge……magic……love……difference in a status…….There seems to be no problem……」
(女主人公……復讐……魔法……恋愛……身分差……。おおまかには問題なさそうですが……)
「でしょう?何の問題もないはずよ」
「It's a love story.Either pure love or harem」
(恋愛タグがありますので。純愛、ハーレムのどちらかを付けて下さい)
「それ……必要?」
「Some people are not good at harem」
(ハーレムが苦手な方もおられますので)
「私の作品は純愛よ!破廉恥なものじゃないわ!まあ……確かに沢山の殿方との絡みはあるけど」
「It's a harem」
(では、ハーレムですね)
「お断りするわ、そんな破廉恥なタグ……それにハーレムって付けると、男の方が性欲剥き出しで書いている低俗なモノみたいで、私の作品の気品が損なわれるわ!」
「Love many men?」
(沢山の殿方と恋愛なされるのですよね?」
「……」
「So it's a rule」
(では、規則ですので)
「この月風邪千草が書いているのは、掃いて捨てる程ある低俗な作品ではなくてよ!そんなみっともないタグをつけるなんて恥ずかしい事、出来るはずないじゃない。お里が知れるわ!」
「It's a rule.No exceptions」
(規則ですので、例外はありません)
「あなた、いい度胸してるわね。お名前なんていうの?私のフォロワーやファンが黙っていないわよ?」
「It's a rule」
(規則ですので)
「……」
「We'll get you to pay the offense」
(違反金を払って頂くことになりますが)
「……あーもう!!分かったわよ!ハーレムタグを付けるわ!付ければいいんでしょ!」
「Yes,thank you」
(はい、ありがとうございます)
初心者の方がタグを誤認する場合がございます。また、作者の中には、内容とは離れたタグを付ける方もいますので、注意が必要です。
特に、R15のタグは取り扱いが難しいのです。その為、なろうでは扱い切れない作品が紛れ込む場合も存在します。
次に紹介するのは、先月起きた事件です。
───────────────
「はぁ……はぁ……入国させろ!入国させろよォ!」
─────キャー!テロよ!テロリストよ!
あいつ……何てモノを持ち込もうとしてるんだ!
「Stop!Don't move!」
(お客様!おやめ下さい!)
「何がいけないんだ!俺の作品『ある日、美少女ロリビッチが義母になりまして』がどうして弾かれなきゃいけないぃ!!」
「Your work contains a sexual description!You can't enter this country」
(お客様の作品には行き過ぎた性描写が含まれております!そういった作品は本国では取り扱っておりません!)
「うるさい、うるさい、うるさぁぁい!俺は、俺はキチンとタグにR15を付けた!この作品は純愛なんだ!タグもキチンと付けている!何の問題も無いはずだ!」
「There are also children in this country!Please go to Nocturne」
(この国にはお子さんもいらっしゃいます!お隣のノクターン国への入国をお勧めいたします)
「俺は未来の文豪だ!名作にだって過激な描写は山ほどある。昔は障子◯◯◯が許された世の中だったんだぞ!規制☓規制☓規制☓規制☓規制☓。表現の自由が奪われていく今、若者にはこういった純文学作品が必要なんだ!俺は第二の谷崎になるんだぁぁ!!」
「Out of the question.Please call the guards」
(会話にならないわね。警備員を呼んで下さい)
「ちくしょーーー!!!離せ!離せ!」
こういったテロが発生した場合、管理官は危険な立場に置かれます。
入国管理局では、こういった事態に備え、定期的に非常訓練を行っているのです。
なろう国は子どもも安心して過ごせる夢の国。
桃太郎は桃から生まれて来なければならないのです。そこに過激な性描写など、あってはなりません。
私達、NIBは利用者様全体の笑顔を守る為、日々取り組んでいるのです。
いかがだったでしょうか?
入局管理局は作者様の作品を読者の皆様にお届けする為、日夜、業務を行っています。
皆さまの作家デビューの助けになれれば、これほど嬉しい事はありません。
今後ともなろう入国管理局をよろしくお願いいたします。
GWの暇つぶしになれたなら幸いです。
お読み頂きありがとうございました。
6/23 追記
少しずつ改稿中。