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【2】鬼化転生


目が覚めて最初に目に入ったのは、ピンク色の髪の女の子だった。


「私の名前はエストラ。この魔獣ファームの管理人さんだよ」


柔らかい声音に後ろで一つにまとめた明るい髪色が、

彼女の柔らかそうな性格をそのまま表しているようだ。


差し出された手のひらからは獣の臭いがして、

皮の分厚い玄人の手だった。


「……あの」


薪斗が口を開こうとする前に、

――奥の方からガラスの戸をひっかくような音が聞こえた。


「いっ……」


生理的な嫌悪感に耳を塞ぐ薪斗だが、当の二人は平気そうだ。


「お姉ちゃん、またあの子だよ」


「ありゃりゃ。さっき寝わらは入れ替えたんだけどなー」


「どれどれー……」


すると、彼女の――エストラの弟と思われる少年の目が淡く光り、遠くを見るように目が狭められた。


「あーやっぱり。馬房の中のマナが一定じゃないよ」


「しょうがない。ちょっと行ってくるから、その男の子のことよろしくね、キエラ」


「うん。がんばってー」


そう言うと、エストラは奥に広がる空間へ走っていった。

後ろ姿を見て、初めて彼女が、汚れに包まれた作業着を

着ていることに気づいた。


「お兄ちゃんは、魔獣ファームって聞いたことないの?」


「あ、ああ……」


そもそも転生されたばかりでロクな記憶がなければ、

自分に生えている――このツノの正体も分からない。


己の額にあるツノに手を触れながら、

薪斗は恐る恐る口を開いた。


それに対して、キエラと呼ばれた少年は

「こほん」と咳払いして得意げに話した。


「ダンジョンなど――冒険者が踏み入る土地には、必ずその弊害になる魔獣が必要になってくる。じゃないと、僕らの住む魔王軍の領地内に簡単に入られちゃうからね。だから――彼らの敵となる魔獣を育成ないし栽培して、魔王城を目指す冒険者たちの足止めや、呪術の生贄として出荷し、生計を建てているのが僕ら――魔王軍直轄帰化、魔獣ファーム『シルバーウルフ』なのさ」


一度も噛まずペラペラと喋るキエラに、

薪斗は圧倒されていた。


頭がパンクしそうになったところで、

彼からある種、驚きの言葉が漏れた。


「お兄ちゃん、鬼族の人でしょ?」


「あ、ああ……たぶん、そうなんだろうな」


「じゃあ、元々この世界の住人じゃないんだね」


「……っ」

「それくらい僕にだってわかるよ。

小学校で習うことだもの。ねーっ? 

トリス」


明るく元気な声が向く先は、彼の手元。

そこには――一言で言えば、鷲の羽を生やしたうさぎがいた。


「なんだそいつ!?」


「紹介するよ。僕の友だち、キメラのトリス」


「ギャーッ」


トリスと呼ばれた化物の羽が羽ばたいて、

光の残滓がそこらに散らばった。

聞けば、これはマナと呼ばれる

魔力だとかの一種……だそうで、

それがこいつらの力の源なのだとか。


「この光ってる球体――マナが、鷲の魔物とうさぎの魔物をくっつける接着剤の役割を果たしているんだ。この球体が発生したとき、初めてそれが『魔物』ではなく『魔獣』と区別されるモンスターになる。それぞれ等級があって、等級のレベルによって出荷するときにもらえるお給料の量も違うんだけど……って、あ。ごめんねお兄ちゃん。もともと違う世界に住んでた鬼のお兄ちゃんは、魔物なんて知らないよね」


「いや……教えてくれて助かるよ。俺も、この世界について色々知らなければいけなさそうだ」


正直……空想のファンタジーな世界とは無縁な人生を歩んできた薪斗には、理解が追いつかない単語なども多かった。


しかし――こうして生を受け、命を拾われた以上、俺にはそれを教授する義務がある。


「キエラ君……だったか」


「キエラでいいよ」


「……キエラは、このツノについても詳しいんだろう?」


「――うん。もちろん」


そこには無邪気な笑みが浮かぶ。


「教えてくれないか。鬼と魔獣と、この世界について」



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